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チェスターにて フェリシアとエミリー

◆◇ 第二十二章 ⑦ ◆◇


 フェリシアは部屋に戻るといつもの様にソファに倒れ込んだ。


ふぅ、朝から慣れない事をして疲れてしまったわ。

マティアス様と結婚したらこういう面会とか頻繁にあるのかしら。


フェリシアが落ち込んでいるとエミリーが来た。

「フェリシア様、今日これからはどの様なご予定でしょうか。」

フェリシアはどうしようかなぁと少し考えていた。

「朝から普段使わない頭を使ったから疲れてしまったわ。少し休みたいの。」

「それでは気分転換にお茶をお持ちしますね。」

エミリーはすぐに準備の為に厨房に向かった。


フェリシアがぼーっと外を眺めているとエミリーがお茶を持って戻って来た。

「お待たせいたしました。熱いのでお気をつけください。」

エミリーは手際よくお茶をセットするとフェリシアがテーブルに近づいて来た。腰掛けようとして椅子を引くと何かに気づいたのか「あっ」と言って立ち止まった。


「どうしてコレがあるの?」

フェリシアは嬉しくなってエミリーに聞いた。


「出発する時にアンナさんが預けてくれたのです。フェリシア様がお好きなお菓子だとおっしゃって。」

エミリーは少しだけ得意になっていた。


「わぁ、嬉しいわ。そうなの。私、ルナのお菓子が大好きなの。」

フェリシアはすぐに手を伸ばし焼き菓子をひとつ取ると口に入れた。


んー、やっぱりルナのお菓子は美味しいわ。

アンナありがとう!


エミリーはしゃぐ妹を温かい眼差しで見守る姉の様に扉付近で待機していた。


「ねぇ、エミリーも一緒に食べましようよ。」

フェリシアは立っているエミリーを誘った。

「お誘いは大変ありがたいのですが、私は大丈夫てすので。」

立場上エミリーは速攻で断った。

「ここには二人しかいないから大丈夫よ。」

「でも。。。」

「誰にも言わないし、私、お喋りしながらお茶をいただきたいの。」

何度も誘うフェリシアの気持ちを傷つけたくないと思ったエミリーはテーブルに近づいた。


「ほら見て、私コレが一番好きなの。」

フェリシアは小さめな焼き菓子をつまむとエミリーの目の前に近づけた。エミリーはよく見ようと顔を近づけ何か言おうと口を開けた瞬間フェリシアは見せていた焼き菓子をポンッとエミリーの口に入れた。


「ヒャッ」

エミリーは驚きながら口をもぐもぐさせた。

「どう?美味しいでしょう?」

フェリシアはエミリーの表情をじっと見ていた。エミリーの口元は次第に緩んでいった。

「本当に美味しいですね。これは乾燥ブドウでしょうか、ほのかな酸味がいいですね。」


「ね?」

フェリシアは満足そうに言うと戸惑うエミリーを座らせた。


「フェリシア様、今回だけですよ。」

根負けしたエミリーはちょこんと座った。

「大丈夫、ここだけよ。王宮ではやらないから安心して。」

フェリシアはお茶目な顔で笑った。


「ねぇエミリーは王宮に仕えて何年経つの?」

「はい、私は三年です。」

フェリシアは興味津々で質問を始めた。


「最初から王妃様付きだったの?」

「はい、そうですね。最初は作法や規則を学びまして、その後は王妃様のお世話をしております。」

「まぁ、すごいじゃない。エミリーは優秀なのね。」

「いえ、とんでもございません。王妃様付きといっても何人かいる中で一番下ですので直接お話しすることはありません。」

「そうなのね。でも王妃様なら顔と名前を覚えていそうだわ。」

「はい、おっしゃる通りです。王妃様は時折り末端の私にもお声がけしてくださいます。」

「王妃様素晴らしいわ。」

「本当にそう思います。」

「ところで、エミリーは王都出身?」

「いえ、違います。私は西部のギレーヌ領の生まれです。」

「聞いたことがあるわ。確か西の方だったような。」

「はい、西部にあります。王都からだと馬車で四日から五日くらいでしょうか。」

「思い出したわ。確か綿花栽培を。。。」

「フェリシア様よくご存知でいらっしゃいますね。」

「お兄様にギレーヌ地方の綿花は良質だと教えてもらったの。」

「フェリシア様のお兄様は文官でいらっしゃいますものね。」

「確か上質な綿花から作られた敷物をギレーヌ伯爵が王宮でお土産に配っていたとか。」

「それ父です。」

「えっー エミリーってギレーヌ家の令嬢だったの?」

「はい、三女です。」

フェリシアは腰を抜かしそうなくらい驚きエミリーの顔を見つめてしまった。エミリーは続けた。

「おそらく四年程前でしょうか。いくら良質といっても綿花は素材にすぎず完成した織物ばかり注目されるので綿花の宣伝の為にお配りしたのです。」

「それでお兄様は伯爵からいただいたのね。」

「確かに綿花は良質ですがギレーヌ領は小さい領地なので中々大変なのです。しかも私は三女ですし。。」

エミリーは言葉を詰まらせたが、すぐ持ち直ししっかりした口調で話した。

「私はフォード伯爵に後見人になっていただきこうして王妃様に仕えることができました。今は本当に充実しています。」


フェリシアは胸が締め付けられそうだった。エミリーもエマも、自分とたいして変わらない年齢のこの二人がとても凛々しく見えた。そして自分がいかに家族に恵まれ甘やかされていたか改めて知らされたのだった。



 窓からの日差しがとても気持ち良くなってきた。

「いいお天気になったわね。」

フェリシアが言うとエミリーは少し焦り気味になった。

「はい、もうすっかりお昼になってしまいましたね。ロイドさんに呼ばれていますので私はそろそろ。」

「付き合わせてごめんなさい。でもいいお話し聞けてよかったわ。ありがとうエミリー。」

エミリーは「とんでもございません」と言いながら一礼し退出した。


私ももう少ししっかりしないといけないわね。

マティアス様の隣に立っても恥ずかしくないようにならないと。


フェリシアの部屋は二階にあった。テラスに出て周りの美しい景色を眺めながらこれからの自分がどうなるのか想像してみた。

マティアスは第三王子だから現況国王になることはない。でも王族には違いない。しかも国王の弟だ。公務はもちろん王族としての立ち振る舞いを求められる。


今更だけど

私に務まるのかしら。

きっと今の私は隙だらけね。

これでは王妃様のがおっしゃっていた様に

野心家の貴族連中に狙われてしまうわ。

心を強く持たないと。


下を見ると庭師たちが枯葉を集めていた。ほとんどの木々は葉が落ち見事に裸になっていた。


葉っぱのない木は見ると寒さも倍に感じるわ。

でも夏は鮮やかな緑で覆われるんだろうなぁ。

王妃様が愛した夏のチェスターも見てみたいわ。

あらっ、そういえばリンゴってどんな感じで木になっているかしら。

ミラ様にお願いしたら見学できるかも。


フェリシアは室内に入るとエマを呼びミラに散策のことを伝える様頼んだ。


「フェリシア様、ではご希望にリンゴ畑も追加する様に伝えますね。」

「えぇ、お願いね。できれば早いうちに行きたいわ。」

「はい、かしこまりました。」


エマが部屋から出ていくとフェリシアはまたテラスに出た。

太陽は出ているがやはり王都より肌寒い。部屋に戻ろうかと思っていたら馬の鳴き声と(ひづめ)の音が聞こえた。ちょうど正面の門から入って庭を回って厩舎に行く様だ。

フェリシアは誰が乗っているのか見たくて身を乗り出した。


あっ、マティアス様とルーファス様だわ。

話しがあると言っていたけど乗馬をしていたのね。

戻って来られたなら後で散策のことを話してみましょう。

一緒に行ってくれると嬉しいのだけど。






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