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チェスターにて お茶会②

◆◇ 第二十二章 ④ ◆◇


 翌朝、エミリーはフェリシアを起こしに来た。

が、あまりにもスヤスヤと眠っている姿を見て起こすのを辞めた。

エミリーはアンナがフェリシアは寝坊癖があると言っていたことを思い出していた。


昨日は本当にお疲れだったのですね。

もう少しお休みになっていただきましょう。


エミリーはそうだ!と両手をパチンと叩くと急いで廊下を去って行った。



 しばらくするとエミリーは鉢植えを抱えてフェリシアの部屋に戻って来た。

ノックをして部屋に入るとフェリシアはまだ眠っていた。

一旦鉢植えをテーブルに置いたエミリーはフェリシアが眠っているベッドに近づき声をかけ起こした。


「フェリシア様、フェリシア様、朝でございます。」

「・・・・」

「フェリシア様」

「んー、アンナ、もう少しだけお願い。」

「フェリシア様、エミリーでございます。」

「あっ!」


ハッとしたフェリシアは飛び起きた。


そうだった。

昨日から王妃様たちとチェスターに来ているのだったわ。


フェリシアは情けない顔でエミリーを見た。

エミリーはクスクス笑っている。


「あ、あの、エミリー、私寝ぼけていて。」

「はい、大丈夫でございますよ。」

エミリーは微笑み返した。


エミリーに起こされ飛び起きたものの馬車での長時間移動の経験がないフェリシアの身体は油切れの様に関節がギスギスしていた。


「昨日の馬車移動が響いたのかしら?身体が痛いわ。」

「そうかもしれませんね。すぐにでも湯浴みをしてもみほぐして差し上げたいのですが、まずはご朝食を。」

「お腹もあまり空いていないわ。」


エミリーはボーッとしているフェリシアの身支度をしながらさらっと言った。

「フェリシア様、今日は初日ですので朝食は王妃様たちとご一緒の方がよろしいかと。」

「・・・そうね。エミリーの言う通りだわ。」


エミリーはニッコリうなずくと手鏡を取りフェリシアの後ろに立った。

「こんな感じでよろしいでしょうか?」

鏡には両脇が編み込まれ後ろでリボンでまとめられている姿が写った。

「ええ、いいわ。ありがとう。」


食堂に行こうとエミリーが扉を開けた瞬間彼女はきゃっと言う小さい悲鳴をあげた。

フェリシアが何事かと扉の方を見るとマティアスもまさに扉を開けようと廊下に立っていたのだった。


「殿下、私の不注意で大変申し訳ございません。」

エミリーはすぐに謝った。

「いや、問題ない。食堂に行ったらフェリシアがいなかったから迎えに来たんだ。」

キラキラと太陽の様に輝く笑顔でマティアスは手を差し出した。


「申し訳ありません。寝過ぎてしまって支度が遅くなりました。」

フェリシアは恥ずかしそうに視線を下にした。


そう、寝坊した私が悪いのだけど

寝起きにマティアス様のキラキラ笑顔は眩しすぎますわ。


「さぁ、行こうか。」

マティアスはフェリシアの肩に手を当て食堂へ向かった。

エミリーは二人を見送ると部屋に戻り先程持ってきた赤紫色のサイネリアの鉢植えを持ってウロウロし始めた。

どこに置こうか迷ったあげく結局無難なチェストの上に飾った。



 マティアスは廊下に出るとフェリシアの手を取りまた恋人繋ぎをしてきた。

いつもの様にフェリシアは目を開いてマティアスの顔を見た。

マティアスはフェリシアが驚いて自分の顔を見るのはもう想定内で余裕でニコニコしていた。

なんなら鼻歌まで歌い出しそうな勢いだった。


「マティアス様、この手の繋ぎ方は。。。」

「ん?いいでしょ?王都では恋人同士はこの繋ぎ方をするそうじゃないか。」

「そ、そうなのですか?」

「王宮ではできないからね。ここに滞在している間は思う存分恋人繋ぎをするよ。」

マティアスは幸せそうにフェリシアに説明したがフェリシアはどう頑張っても苦笑いしか出来なかった。


マティアス様ったら、どうしちゃったのかしら?

確かに最近は他の貴族男性みたいな甘い言葉をかけてくれるけど

誰かに変な知識を植え付けられたのかしら?


フェリシアが頭を捻って(ひねって)いると食堂に着いた。

「じゃあね、フェリシア、続きはまた後で。」

そう言うとフェリシアの手を持ち上げ手の甲に自分の唇を近づけた。

ヒャッ、フェリシアは小さな悲鳴を上げ慌てて手を引っ込めた。


えっ、待って。

続きってなに?


フェリシアの焦った表情を見たマティアスは嬉しそうにし、食堂に入るよう促した。

ただでさえお腹が空いていなのに更に胸まで一杯になってしまったフェリシアだった。



 「王妃様、王太子様、おはようございます。遅くなりまして申し訳ございません。」

入室と同時にフェリシアはお詫びを述べたが、二人とも気にしているようではなかった。


「さぁ、いただきましょうか。」

マティアスとフェリシアが席に着くと王妃は声をかけた。

その後も王妃は「よく眠れたか」「エミリーはちゃんと世話をしてくれているか」等フェリシアへの質問攻めだった。

その間男性陣は黙々と食べ物を口に運んでおり、アーサーに至っては二人前たいらげる勢いだった。

アーサーの食べっぷりを目の前にして更に食欲が減退したフェリシアだったが、パンに添えられていたリンゴジャムだけは美味しいと感じた。


「このリンゴジャム美味しいわ、デザートみたい。」

つい声に出てしまった。

「収穫したばかりのリンゴを今朝ジャムにしたんですよ。」

フェリシアの声に嬉しそうに給仕が反応した。

パンはいらないけどこのジャムとお茶だけで十分だとフェリシアは思った。


 朝食が終わるとマティアスはフェリシアに部屋まで送ると言って来た。

フェリシアが今度こそ恋人繋ぎを阻止しなくてはと警戒していたがマティアスは忘れているのか部屋に向かって歩き出した。

更にフェリシアを心配する言葉をかけてきた。

「あまり食べていなかったみたいだけど具合でも悪いの?」


フェリシアは安心した。

もう、これは完全に忘れていると。


「寝起きなので食欲がないだけですわ。お気遣いありがとうございます。」

フェリシアが言い終わるや否やマティアスはすくうようにフェリシアの手を取った。

「剣術と同じだな。隙をつく。」

マティアスは勝ち誇った顔をして長い廊下の先を見つめながら独り言を言った。

フェリシアは何が起きたのかわからずにマティアスに手を握られたまま固まってしまった。

マティアスに手を引かれて歩くフェリシアはまるで駄々をこねた子供が親に連れられている様だった。


途中マティアスは顔を半分だけ振り返えらせるとフェリシアに話しかけた。

「フェリシアはこの後どうするの?」

我に返ったフェリシアは澄ました顔で答えた。

「少しお部屋で休もうと思っています。マティアス様はどうなさるのですか?」

「護衛騎士が三人も揃っているんだ、久しぶりに手合わせでもしようかと。腕が鳴るよ。」


マティアスの周りには常に騎士服姿の人がいたのでルーファス以外の二人が王妃とアーサーの護衛騎士だったことにフェリシアは今更ながら気づいた。


「お怪我しません様に。」

フェリシアの声を聞いてやっと手を緩めたマティアスだった。


「また後で迎えに来るよ。」

今度はフェリシアのおでこに唇を重ねたマティアスは自分の部屋に戻って行った。



 マティアスから解放され部屋に入ったフェリシアはソファに倒れ込んだ。


ハァ、朝から刺激が強すぎるわ。

こんな時アンナが(そば)にいてくれたら。。。

アンナだったら何て言うかしら?

きっといつものように子供扱して終わりね。


 フェリシアがクッションに顔を埋めてジタバタしているとエミリーが入って来た。

「フェリシア様、お戻りでしたか。」

エミリーの手にはレースが握られていた。

フェリシアが彼女の手元を見つめているのに気づいたエミリーはパッとレースを広げて見せた。


「お花だけでは物足りなかったのでレースを探して来ました。棚の上にでも敷きましょうか。」


エミリーは朝置いたサイネリアの鉢植えを一旦どかしレースを広げてからまた鉢植えを置いた。

その時フェリシアは初めて鉢植えに気がついた。

「そのお花もエミリーが持って来てくれたの?」

「はい、ここは温室がないのでこの時期の花は限られてしまいまして。」

「お花とレースでとても素敵なお部屋になったわ。ありがとう。」

「喜んでいただけて光栄です。フェリシア様、ところでこの後はどうなさいますか?」


フェリシアは何も考えていなかった。

マティアスには部屋で休むと言ったが横になる程ではない。

「どうしようかしら?」

「フェリシア様、もしかしてお疲れですか?朝も身体が痛いとおっしゃっていたので。」


確かに身体は痛かったが騒ぐ程ではない。

今疲れて見えるのは完全にマティアスのせいだ。

マティアスの甘い行動はフェリシアにはハードルが高すぎる。

何もする気がしないフェリシアは部屋でボーッとしたかった。


「眠る程ではないのだけど少しお部屋でゆっくりしたいわ。」

「承知いたしました。ではひざ掛けとお茶を用意しておきますね。」

エミリーはそう言うと部屋を出て行った。




 どの位の時間が経ったのだろう。

フェリシアはパッと目を開いた。


えっ?

私眠ってしまったの?


身体には毛布が掛けられていた。

しばらくソファに横たわった状態で頭の中を整理した。


私ったらエミリーが出て行った後すぐに眠ってしまったんだわ。


テーブルに用意されていたお茶もすっかり冷えており、フェリシアはそこそこ長い時間眠ってしまったことを理解した。


暖かいお茶が飲みたいなと思っていると扉を叩く音がした。

「フェリシア様、お目覚めでしょうか?」

エミリーが入って来た。


「お目覚めでしたか。そろそろお時間ですので丁度良かったです。」

気の利くエミリーはちゃんとお茶の準備をして来ていた。


「わぁ、丁度暖かいお茶が飲みたいと思っていたの。」

「それは良かったです。ではフェリシア様、このままサッとお髪(おぐし)を整えてしまいますね。」


フェリシアはお茶を飲みながら髪型を整えてもらった。


「ドレスはピンクと水色でどちらにいたしましょうか?」

フェリシアは嫌な予感がした。

本当は父親に買ってもらったばかりのピンク色のドレスが着たかったが、何が引っ掛かるものを感じたフェリシアは何回か着たことのある水色のドレスを選んだ。


「このドレスもとてもお似合いです。」

エミリーは着付けをしながら褒めてくれた。

「ありがとう。でもね、本当はあまり気が進まないお茶会なの。」

エミリーはびっくりした顔でフェリシアを見ると、フェリシアは笑いながら人差し指を唇に当てた。

「しー、内緒よ。」

エミリーは黙って頷いた。


 程なく廊下から声がした。


「フェリシア、準備はいいかい?」

「はい、マティアス様。」


マティアスは扉を開けると待っていたフェリシアの姿に釘付けになった。

「やっぱり俺のフェリシアだな。」

「まぁ、どういう意味ですの?」

マティアスは質問には答えず満足そうにしていた。

そして、エミリーに見送られサロンへと向かった。


サロンへ向かう途中で王妃とアーサーに会い雑談してるとチエスター伯爵が到着との連絡が届いた。

「さぁ行きましょう。」

王妃の声を筆頭に三人はゾロゾロと後に続いた。


フェリシアたちがサロンに来ると待機していた使用人が見事な装飾の扉を開けた。


フェリシアの目に一番に飛び込んで来たのは恥ずかしそうに立っている令嬢だった。

亜麻色の髪、瞳も髪と同じ茶色、少し丸顔で可愛らしい令嬢だった。


四人が入室するとチエスター伯がお決まりの挨拶を始めたが、フェリシアの耳には入ってこなかった。

自分の挨拶が終わると伯爵は娘に皆に挨拶をするように促した。

「王妃様、王太子殿下、第三王子殿下、フェリシア様、お初にお目にかかります。チェスター伯爵家が長女、ミラ・チェスターでございます。本日はお招きいただきありがとうございます。」


ミラはお辞儀を終え頭を上げるとマティアスの顔を見つめ歯に噛む様に頬を赤らめていた。

なんと初々しいことか。

同姓であるフェリシアでさえそう思った。

淡いピンク色のドレスが更に彼女の可愛らしさを引き立たせていた。

フェリシアはドレスの色が被らなくてよかったとホッとしたが、一方であぁ彼女もやはりそうかと落胆した。


ミラはチラチラとマティアスばかり見ていた。

フェリシアは気が気ではなくお茶も喉を通らなかった。




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