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チェスターにて お茶会①

◆◇ 第二十二章 ③ ◆◇

 

 馬車から降りるとチェスター領領主夫妻を先頭に使用人たちが出迎えていた。

辺りはすでに暗くなっておりよく見えないが領主の邸ではなさそうだった。

かと言ってホテルという感じでもない。

フェリシアは隣にいるマティアスにそっと聞いたみた。

「そうだな、ここは王室の私邸というか離宮というか。。。母上がこの土地を気に入って毎年訪れるから父上がいつでも滞在できるように建てたんだ。」

マティアスが物心ついたときにはすでにあったらしい。


 「王妃様、ようこそいらっしゃいました。お部屋の用意も出来ております。」

領主夫妻が挨拶をすると後ろで立っている者たちも一斉に頭を下げた。

「夜も遅いから挨拶はもういいわ。冷えない内に皆さんも邸に戻りなさい。」

王妃は一言声をかけると邸の中に入って行った。

その後をいつものようにアーサー、マティアス、そしてフェリシアの順に続いて行った。

三番目のマティアスまでは領主夫妻も自然な笑顔で出迎えていたがフェリシアが通ると微妙な顔でこの()は誰だ?と言いたげな様子だった。


とりあえず全員客間でくつろぐことにした。

各々(おのおの)ソファに腰掛けると絶妙なタイミングで使用人がお茶を持って入って来た。

「王妃様、長旅お疲れ様でございました。またお会いでき光栄でございます。」

と感慨深げに挨拶をしてからお茶の用意をした。

「あら、あなたもう仕事に戻ったのね。」

王妃の言葉に使用人は嬉しそうに返事をしていた。


地元の使用人に見えるけど王妃様と随分仲がいいのね。

それともまた元王宮に仕えていた人なのかしら?


フェリシアは不思議そうに二人のやり取りを見ていた。


全員にお茶が配られた頃領主だけが部屋に入ってきた。

「チェスター伯、ちょうどよかったわ。話があります。」

「はい、王妃様。」

「今回は長居できなくて明後日には私とアーサーは王都に戻ります。」

「さようでございますか。短いご滞在で。」

領主は王妃の話を聞きながらもチラッチラッとフェリシアを見ていた。

とにかく気になって気になって仕方がない様だった。

「あぁ、彼女は私の身内みたいな者よ。フェリシア、こちらこの土地の領主のチェスター伯爵よ。」

挙動不審なチェスター伯に気づいた王妃はフェリシアを紹介した。

「王妃様のお身内でしたか。存じ上げずに大変失礼いたしました。チェスター領領主のブライアン・チェスターでございます。どうぞお見知りおきを。」

「フェリシアです。この度はお世話になりますわ。」

王妃の身内と言われたフェリシアは少しだけ気取ってみたが、誰も気づかずお茶に夢中になっていた。



「さぁ、話の続きよ。明後日ここを発つので明日ここでお茶会を開きたいのだけど。チェスター伯も是非家族で出席していただきたいわ。」

「か、家族でですか?」

「そうよ。確かフェリシアと同じ年頃の娘がいたはずよね?」

「はい、おります。」

「フェリシアの話し相手に丁度いいと思ったのだけど。」

「そう言うことでございますね。かしこまりました。息子はまだ子供ですので三人で出席いたします。」

「よろしく。」

王妃は心なしかホッとした様子だった。


その後も少しだけ王妃とチェスター伯は話をしていたが、遅くなってはいけないと彼は退出しようとした。

「それでは王妃様、何かご用命がございましたらお申し付けください。」

「えぇ、ありがとう。それと、チェスター伯、いいこと?これは公務ではなくあくまでも私的な滞在ですからね。」

「はい、承知しております。」


チェスター伯が出て行くと部屋には四人だけになった。

「ふふ、家族団欒みたいね。」

王妃はお茶を手にしながら独り言を言った。

「あ、あのお義母様(おかあさま)。私、話し相手など必要なかったですのに。」

フェリシアは勇気を持って声に出した。

王妃はニヤッとして答えた。

「私も貴方に話し相手など必要ないと思っていますよ。」

「では、何故ですか?」

「ふふふ、口実よ。アーサーと会わせるためのね。」

王妃の答えを聞いた瞬間アーサーはお茶を吹き出しそうになり咳き込んでしまった。

フェリシアはフェリシアでどう反応しいいのか分からずオドオドしていた。


「母上、そう言うことだったのですね。だから私を。」

アーサーは口をナプキンで拭きながら言った。

「そう、そう言うこと。正直にお見合いなんて言ったらみんな怖がってしまうもの。」


パクパクお菓子を食べ三人の会話には無関心だったマティアスは急に反応した。

「母上、兄上のお見合いでしたら俺は必要ないですよね?」

「いいえダメです。表向きはあくまでも親睦を深める為のお茶会ですからね。」

王妃からの欠席許可は降りなかった。


フェリシアはとても嫌な予感がした。


きっと私と同じ年頃のご令嬢よね。。。

王妃様がお見合い相手に選ぶ位だからきっと素敵なご令嬢に違いないわ。

もし王太子様ではなくマティアス様に気持ちが向いてしまったら。。。


フェリシアはゾッとした。

またシンシアの時のように嫉妬をしてしまうのではないかと怖くなった。

何よりマティアスも自分ではなく相手の令嬢の気持ちに答えてしまうのではないかと思うと大きな不安の塊がフェリシアに覆い被さってきた。


「フェリシア顔色が悪いけどどうしたの?」

マティアスはいち早くフェリシアの異変に気づいたが原因など理解できるはずもなかった。

フェリシアはマティアスに大丈夫であることを伝えてから王妃にお願いをした。


お義母様(おかあさま)、私、お二人の会話が弾むように頑張りますからマティアス様の希望通りに。。。」

「フェリシア、そんなに気を使わなくても。」

マティアスはフェリシアに向かって言うと不思議そうにファリシアと王妃の顔を順番に何度も見た。

三人の様子を伺っていたアーサーが我慢できずに口を開いた。


「マティアスは何も分かっていないんだな。フェリシアはお前のことが心配なんだよ。」

「心配?何の心配?」

鈍いマティアスは今度はアーサーとフェリシアの顔を見比べている。

「モテる男はこれだからな。フェリシアはチェスター伯のご息女がお前のことを好いてしまうのでないか心配なんだよ。」


フェリシアは恥ずかしくなり両手で顔を覆い下を向いてしまった。


私ったら王妃様になんてことを。。。

それより王太子様にこんなに私の気持ちを読まれているなんて。

恥ずかしいやら情けないやら。。


マティアスが何か話そうとしていたがそれよりも早く王妃は顔を覆っている手を取り優しく握りしめた。

「フェリシア、心配しすぎよ。貴方はリスティアル王国の王子に選ばれた令嬢なのよ。自信を持ちなさい。」

王妃はフェリシアを見つめると握っていた手を離しポンと肩を叩いた。


「フェリシア、何も不安がることはないよ。俺の目にはフェリシアしか写らないことを知っているだろう?」

マティアスの声に少し安心したフェリシアは小さくうなづいた。


「さぁ、今日は疲れたでしょう。早く休みましょう。」

王妃の一声でサロンでの家族団欒は終了し、王妃、アーサーと順に部屋を出て行った。

部屋にはマティアスとフェリシアだけになった。


「今日一日お疲れ様。大変だっただろ?部屋まで送るよ。」

マティアスはフェリシアの手を取り廊下に出ると馬車に乗っていた時の様に恋人繋ぎに組み直した。

ハッとしてフェリシアはマティアスを見た。

マティアスは微笑みながらフェリシアの手を引いて部屋へ向かった。


二人の後をサロン前で控えていたエミリーが付いて来た。

エミリーは二人の初々しい様子を後ろから見てニコニコしいていた。


フェリシアはエミリーがいたことを思い出し、この恥ずかしい恋人繋ぎを見られているのではないかと気になり振り返った。


フェリシアとエミリーは同時に同じ表情をした。


あっ!

やっぱりエミリーに見られていたわ!


あっ!

フェリシア様に見られてしまったわ!


エミリーは慌てて目をそらした。

何も気づいていない風なわざとらしい演技をしている様だった。

フェリシアはそんなエミリーを見て吹き出しそうになってしまった。


「ん?どうしたの?さぁ着いたよ。」

エミリーを見ているうちにフェリシアの部屋に着いた。


「フェリシア、疲れたでしょう? ゆっくり休んでね。お休み。」

マティアスは握っていた手を持ち上げるとフェリシアの手の甲にキスをした。

フェリシアは踵から何か熱いものが自分の体内をかけ上がり頭に到達しようとしているのを感じた。


マティアス様のキスは本当に危険ね。

何度されても胸がドキッとしてしまうわ。


「はい、お休みなさいませ、マティアス様。」

フェリシアはキスの余韻で少しポーっとした顔でマティアスに挨拶をした。

マティアスはフェリシアに微笑むと振り返りエミリーに「フェリシアを頼むよ」と一言お願いしてから自分の部屋に戻って行った。



 部屋に入るとエミリーはすぐ聞いてきた。

「フェリシア様、湯浴みをいたしますか?それともこのまますぐお休みになられますか?」

「今日は疲れたからすぐ横になりたいわ。」

「それではお顔と御御足(おみあし)だけ洗いましょう。すぐお湯をお持ちいたします。」


エミリーがとお湯のを取りに行っている間フェリシアは改めて室内を見回した。

部屋はとても質素で調度品もあまり装飾がない地味な物が最低限しかなかった。

その中に他と不釣り合いな鏡台が取ってつけた様に置かれていた。


この部屋は元々はどなたかのお部屋だったのかしら?


「フェリシア様、お待たせいたしました。」

お湯を持ったエミリーが戻って来た。


エミリーは手際よく準備をすると優しくフェリシアの足を持ち湯につけた。

「お湯加減は大丈夫ですか?」

「丁度いいわ。すごく気持ちがいい。」


フェリシアがうっとりしているとエミリーはフェリシアの後ろに回り髪の手入れを始めた。

フェリシアはこの間に部屋のことを聞いてみようと思った。

「エミリーはここには来たことがあるの?」

「はい、今回で三回目です。」

「そうなのね。この部屋はどなたかのお部屋なのかしら?」

「いいえ、ここは客間になります。今までは王妃様以外は毎回同行される方が違っていましたので専用のお部屋は陛下と王妃様用の二つしかございません。」

「そうよね、王妃様の離宮ですものね。」

「今まで王妃様以外の女性はいらっしゃらなかったのでシンプルなお部屋になっていますね。今回は急な連絡で模様替えが間に合わなかったそうです。明日フェリシア様向きに少し華やかにいたしましょうね。」

「ありがとう。でもそこまでしなくても大丈夫よ。気にしてないわ。」

フェリシアは欠伸(あくび)を噛み殺しながら言うとベッドに腰掛けた。


「明日の午前中は特にご予定はございませんのでごゆっくりお休みください。」

エミリーはそう言うと一礼をして退出した。



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