殿下頑張る 2
◆◆第三章・後編◆◆
前日、マティアスはルーファスにこんな提案をされた。
「殿下、ベネット公爵夫人のリサ様にいろいろお話を伺ってみるのはいかがですか?」
「おぉ、リサか!」
「はい、リサ様でしたら殿下やフェリシア様ともお歳も近いし、従姉弟同士ですから2人でお話していても怪しまれないですからね。」
近いうちにリサに乙女心とやらを聞いてみるかな?
マティアスは自分の従者ロイドを呼んでリサに連絡するように伝えた。
◆◇◆◇
2人の「仲良しお茶会」はフェリシアが剣術練習場でエレンとおしゃべりをしてからマティアスと会い、そのまま執務室に向かい(時々素振りに参加したが)お茶をするというのが最近のパターンだ。
2人はすっかり打ち解け今日も楽しい時間を共にし、フェリシアがそろそろ帰ろうとするとマティアスが囁いた。
「今日は僕が門まで見送るよ」
すっかり見慣れた長い廊下を2人で歩いているとマティアスが話しかけてきた。
「フェリシアは動物が好きだと言っていたよね?」
「はい、大好きですわ。」
「そろそろ気候もよくなってきたし、いつも執務室ばかりだから今度は厩舎でも案内しようかと思っているんだけどどうかな?」
「はい!ぜひお願いします!」
「喜んでもらえて嬉しいよ」
マティアスはニコニコしていたが、なんとなく歩き方がぎこちなかった。
もう馬車は目の前だ、マティアスは急に立ち止まりフェリシアに挨拶をした。
「ファリシア、今日もありがとう。とても楽しかったよ。」
そういうと ファリシアの手を取った。
フェリシアはビクッとした。
わぁ、で、殿下!何をなさるんですかー。 うっ、でも、この先はきっとアレしかないわ。
ファリシアの手はどんどん持ち上げられマティアスの胸元まで行くと今度はマティアスの顔が下がってきた。
殿下の顔がだんだん近づいてくるわ! わ、近い近い近い!
頭の中が真っ白になったファリシアは目思わず目を閉じた。
何も見ませんように。。私にはまだまだ刺激的過ぎです。
すると、何やら柔らかいものが手の甲に触れたような気がした。。。。いや実際に触れたに違いない。
あぁ~ 脳内パニック状態のファリシアは呆然としてマティアスの顔を見つめた。
「フェリシア?」
我に返ったファリシアは耳まで真っ赤になり恥かしさの頂点にいた。
その様子を見ていたマティアスはそっと耳元でささやいた。
「僕の気持ちだから。」
胸の鼓動がピークになりこのままでは倒れてしまう。
フェリシアは慌てて挨拶をし馬車に飛び乗った。
私はまだまだ子供だわ。
これは挨拶にしかすぎないのにこんなにもドキドキするなんて。
これからは貴族令嬢として堂々と挨拶を受けなければ。。。
馬車内で猛省するものの
彼の唇が触れたと思われる右手の甲をかばいながら胸元にあてていた。
それはとても大切な宝物をかかえるような感じだった。
邸に戻るとそのままソファに倒れこんだ。
アンナが慌てて様子を見に来た。
「お、お嬢様どうないさいました? ご気分でも悪いのですか?」
「ち、違うのよ。」
うるうるした瞳でアンナを見つめ、マティアスとの別れ際のことを話した。
アンナはソファに突っ伏したフェリシアの頭をやさしくなでながら話しかけた。
「お嬢様、侯爵家のご令嬢がなんですか!凛として挨拶を受けてください!」
ビックリしたフェリシアは飛び起き、
えっ? アンナがそんなこと言うなんて!
とでも言いたげに彼女の顔を見つめた。
アンナはフェリシアの髪をなでたまま続けた。
「と、喝を入れたいところですが、その初々しさがお嬢様のチャームポイントだと思いますよ。きっと殿下も承知の上でされたのでしょう。」
「えぇ?」
「お嬢様のお話からすると殿下もとても純粋で、いつもご令嬢達にそのような挨拶をなさっているとは思えません。」
「?」
「きっと殿下もお嬢様だからこそ口づけをされたのですよ。次からはしっかり受け止めてくださいませね
。」
うぅ、アンナはなんてこと恥ずかしいことを言うのだろうか!
フェリシアの顔は高熱でもあるかのように赤くなっていった。
そんな彼女を知ってか知らずか、アンナは嬉しそうに聞いてきた。
「騎士団棟お庭散策にはどんなドレスがいいですかねぇ~。お嬢様らしい清楚な感じにしましょうか。」