王妃の作戦 ②
◆◇ 第二十一章 中編 ◆◇
マティアスは天にも昇る心地だった。
今まで何故貴族の男たちは令嬢に触れたがるのか理解できなかったが、今自分も愛しい女性を抱きしめ続けたいと初めて思った。
「俺の可愛いフェリシア、ずっと俺を信じてくれるかい?」
「はい、もちろんです。」
「あぁ、よかった、安心したよ。」
「えぇ、私もです。これで安心して今日の晩餐に出席できますわ。」
マティアスは両手でフェリシアの肩を掴むと自分の身体から離し大事なことを思い出した。
「そうだった!」
慌てた様子でそのままフェリシアに尋ねた。
「母上から今日の晩餐の事を朝聞いたのだけど何?」
「聞きたいのは私の方ですわ。」
「そうか、フェリシアも知らないのか。」
「はい、何も聞いておりません。先程連絡を受けたばかりですので。」
「う〜ん、母上は何か企んでいるのかもしれないな。」
「きっと私たちのことですよね?でも三人だけなら大丈夫ですわ。」
「三人?いやいやフェリシアを入れて七人でしょ。」
「え?七人ですか?もしかして全員?陛下もいらっしゃる?」
「もちろんさ。」
フェリシアは驚きの余り身体が震えだすのを止められなかった。
「マティアス様、こうしてはいられません。大至急邸に戻って身支度をしませんと。」
「それなら心配ご無用だよ。母上が用意しているらしいから。」
「そ、そうなのですか?」
自分の知らない所で何が起きているのだろうと不安になったフェリシアだかマティアスのあっけらかんとした顔を見てこれはアレコレ質問するよりもありがたく受けた方が良さそうたなと判断した。
「母上は義娘ができるのが本当に嬉しいみたいだな。」
マティアスによるといくら公表していないとは言え王宮に出入りしていれば急に必要な時もあるはずだと、フェリシアの為に私室とドレスを用意したとのことだった。
王妃様らしいわ。
私にいらいろ期待したいるみたい。
でもその期待に応えられるかしら?
「女性は色々準備があるだろう?そろそろ戻ろうか。部屋まで送るよ。」
マティアスはフェリシアの肩にそっと触れ促すとウィザードを繋いでいる木まで戻った。
ウィザードもすっかりフェリシアのことを覚えたようでフェリシアが背中に乗るまで大人しくしていた。
二人は来た時同様、景色を楽しみながらゆっくり厩舎に向かった。
「マティアス様、あ、あの、」
「ん?フェリシア何?」
「あの、王太子様もご一緒ですよね?」
「そうだよ。」
「私、言いづらいのですが、あの時以来王太子様にお会いしていないのでどんな顔をすればいいのか。。。」
「あぁ、そうか、う〜ん。そのままでいいのでは?気にすることはないよ。」
「で、でも。」
「大丈夫。多分兄上はもう忘れているよ。それに席は俺の隣で兄上から一番遠い席にしてもらうから。」
厩舎に戻るとダンが待っていた。
二人はウィザードから降りるとダンは黙って手綱を持ち頭を下げた。
マティアスは頼むと一言言うと歩きだしたのでフェリシアも慌てて会釈をしてマティアスの後について行った。
秋が近づき日が暮れるのが少しだけ早くなり二人並んでいる影も長くなっていた。
「マティアス様、影を見てください。私たちすごく身長が伸びたみたいですね。ふふ。」
「あぁ、本当だな。。。」
何か続けたそうなマティアスをフェリシアは不思議そうに見た。
「今まで季節なんか暑い寒いしか感じなかったけど、ここを通るたびフェリシアに季節を教えられるよ。」
そう言うとわざと落ち葉の上を歩きカサカサ音を立てた。
「枯葉だって今までは目に入らなかったけどフェリシアが秋が近づいている事を教えてくれたから気づいたんだ。」
フェリシアは嬉しかった。
ただただ嬉しかった。
「マティアス様、夕焼けが綺麗ですわ。街も真っ赤に染まってますよ。」
フェリシアは照れているのを隠す為景色に夢中になっている様に演じた。
マティアスはフェリシアに包み込む様な笑顔を向けると腰に手を回した。
「日が陰ると涼しくなるな。寒くないかい?」
フェリシアは首を振るだけだった。
フェリシアの為に用意された部屋は王妃ヘレナの部屋の近くだった。
「マティアス様、王妃様のお部屋に行くのですか?」
「いや、違うけど近くだね。俺も朝聞かされて驚いたけど。でも余り男性が通らないから俺的には安心だけどね。」
王妃様の近くか。。。
緊張しちゃうな。
フェリシアは何とも言えない気持ちなった。
部屋の前に行くと侍女が待っていた。
「フェリシア様お待ちしておりました。」
侍女はお辞儀をすると部屋の扉を開けた。
室内は決して広くはないがこぢんまりとしており調度品はフェリシアに合わせたのだろう可愛らしいもので揃えられていた。
マティアスはチラッと覗き見をしてから後で迎えに来るねと言って執務室に戻った。
フェリシアは一歩部屋に入るとキョロキョロ見回した。
「素敵なお部屋だわ。」
「すべて王妃様がお選びになったんですよ。」
侍女はフェリシアをソファまで案内すると改めて挨拶をした。
「フェリシア様のお世話をすることになりましたエミリーと申します。」
「こちらこそよろしくね、エミリー。」
フェリシアはお茶の用意をしているエミリーをしばらく見つめどこかで会ったことがあるような気がした。
「フェリシア様お茶でございます。熱いのでお気をつけくださいね。」
エミリーはフェリシアにお茶を出すと鏡台にブラシや化粧品を並べ始めた。
「ねぇ、エミリー。私あなたとお会いしたことがあったかしら?」
フェリシアはクローゼットを開けドレスをだそうとしているエミリーに聞いてみた。
「はい!雨の日、騎士団棟で湯浴みのお世話を。覚えていてくださったのですね。光栄です。」
「あっ!あの時の。。。」
エミリーはニッコリしているがフェリシアは恥ずかしくなり両手で顔を覆ってしまった。
初めてのお世話が湯浴みだなんて。。。
侍女に湯浴みを手伝ってもらうことには慣れているのに、王宮の侍女だと思うと急に恥ずかしくなってきた。
エミリーはフェリシアが恥ずかしがっていることなど気にせず楽しそうにドレスの準備を始めている。
「フェリシア様、ドレスはこちらでよろしいでしようか?」
エミリーが手にしていたのは胸元と袖口にレースがふんだんにあしらわれておりまさにフェリシアの好みそのものだった。
「まぁ、素敵!」
フェリシアはつい声を出してしまった。
「こちらはキンバリー商会のものなんですよ。お色も殿下の瞳と一緒でフェリシア様にお似合いですわ。」
フェリシアは微笑もうとしたが顔がひきつってきた。
キンバリー商会といえば王都で一番の洋品店だわ。
それにどうしても私のレース好きを知っていたのかしら?
・・・深く考えるのはやめた方が良さそうね。
髪型はこれでいいでしょうか、アクセサリーはこちらにしましょう、お化粧は薄めがいいですね、とエミリーは楽しそうに準備していた。
「フェリシア様、とてもお美しいです。王妃様もきっとお喜びになりますよ。」
エミリーはアンナとは雰囲気も性格も違うみたいだけど何故が憎めない、きっといい子なんだろうなとフェリシアは思った。
エミリーが一生懸命フェリシアを褒めちぎっているとノックがした。
「フェリシア準備はできたかい?」
マティアスだった。
扉を開けフェリシアの姿が目に入るとマティアスは頭を抱え立ち止まってしまった。
「マティアス様、どうされましたた?」
びっくりしたフェリシアが声をかけるとマティアスはゆっくり頭を振った。
「あぁ、もうフェリシア最高だよ。可愛らしいし、美しいし、俺には表現しきれないよ。」
エミリーはフェリシアの後ろに立ちうんうんと小さくうなづいていた。
「エミリーが頑張ってくれましたわ。」
「母上はもちろん父上も喜ぶよ。」
「大袈裟ですわ。」
「うーん、この愛らしい姿を兄上たちには見せたくないな。」
フェリシアはにっこりマティアスに微笑んだ。
「さぁ、行こうか。」
マティアスが差し出した手をフェリシアはゆっくり取った。
「行ってらっしゃいませ。」
エミリーは満足そうに二人を送り出した。
フェリシアは思った。
何だか新しい人生が始まりそう。。。
私、大丈夫かしら?




