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ハンカチの行方 3

◆◇ 第十九章 後編 ◆◇


 フェリシアが邸に戻るとレイラとマデリンが刺繍の話しをしていた。


「お母様、ただいま戻りました。」

「あら、お帰りなさい、フェリシア。」

「フェリシア、おじゃましているわ。」

「マデリン来てたのね、あれ?マデリン。。。」


マデリンを見たフェリシアは違和感を覚え首を傾げた。


何かしら?


マデリンはフェリシアの様子を見てニヤニヤしていた。


「あら、フェリシア何ジロジロ見てるの?」

「あっ、ごめんなさい。」

「ふふふ、私、少し変わったでしよ?」

「うんうん。スッキリした感じがするわ。」

「私痩せたのよ。少しだけどね。」


フェリシアはキラキラした瞳でマデリンを見つめた。

「わぁ、マデリンすごい綺麗になったわ。でも、どうやって?」

「刺繍のおかげよ。」

マデリンはもったいぶって続けた。

「私ね、子供たちに刺繍を教えるのが楽しくて仕方ないの。毎日準備に忙しくておやつをいただく時間がないのよ。」

「えー」

「集中しているとお食事も忘れてしまうくらいなの。」

「まぁ!」

「好きなことしているうちに綺麗になるなんてすごいと思わない?」

「マデリン、とても輝いているわ。羨ましい。」

「羨ましいなんて。。フェリシア、どうしたの?」


フェリシアはせっかく頑張って刺繍をしたハンカチを無くしたことを一部始終話した。


「あら、簡単なことよ。もう一度作ればいいじゃない。もっと上手に仕上がるはずよ。」


マデリンはいつも前向きだ。

自分の気持ちを胸の中に押し込むのが得意なフェリシアはマデリンの力を少しだけ分けてもらいたかった。


「さぁさぁ、お手伝いするから早く刺繍して明日殿下にプレゼントしましょう。」


マデリンは刺繍の準備を始めた。


「マデリン、明日でなくてもいいのよ。」

「明日がいいのよ!エヴァンが言ってだけど明日は騎士団の公開練習日でしょう?」

「そうなの?知らなかったわ。」

「明日贈る方が絶対にいいわ。殿下の喜びも2倍よ!」

「でも、マティアス様は最近執務に重点をおいているし、私は公の場では渡せないわ。それにきっとシンシア様が。。。」


マデリンの顔が一瞬険しくなった。


「シンシア様? シンシア様ってどなた?」

「・・・バートン宰相の御息女なんだけど、マティアス様をお慕いしているみたいで。。。」

「なるほどね。フェリシアが王宮から戻った時に浮かない顔をしていたのはそういうことなのね。」


フェリシアはドキッとしたと同時にマデリンには隠し事ができないなと改めて思った。


「ねぇフェリシア、誰に聞いても同じ答えだと思うわ。いい?あなたはリスティアル王国第三王子の婚約者なの。妃殿下になるのはフェリシア・スィントンだけなの。殿下はあなたのことを心から愛しているわ。見ててよくわかったもの。だから自信を持ちなさい。」

「えぇ、わかったわ。」


マデリンは口だけではなく手もよく動く。

フェリシアに喝を入れながらも赤い刺繍糸は上下に動き下地の薔薇の花びらが見事に赤く染まっていった。

そして合間にフェリシアの刺繍の指導も怠らなかった。


「うわぁ、素敵に出来上がったわ。マデリンありがとう。自分で刺繍したとは思えないわ。」

「ふふ、本当に素敵な出来上がりね。フェリシアが一人で完成させたのだから自信を持ってね。」

「ねぇ、マデリンは王宮に行かないの?」

「私は行かないわ。エヴァンは練習生だから関係ないし、私がいると王太子様が気まずいのではないかしら。」

「一緒にいてくれたら心強いのに。王太子様、見学に来られるかしら?」

「ご令嬢たちが来るはずだもの。王妃様が背中を押すのでは?」

「そ、そうかもしれないわね。」

「王太子様も早く懇意の女性と巡り会えるといいわね。」

マデリンは視線を遠くにしてポツリと呟いた。



 その夜、フェリシアはアンナと一緒に出来上がったハンカチを丁寧に包装しリボンをつけた。


「お嬢様、刺繍の腕を上げましたね。とても素敵ですよ。」

「ふふ、そう?きっとマデリン先生のおかげね。」

「殿下も喜びますね。さぁ、明日の為にお顔とお髪のお手入れをしましょうね。」

「もう、アンナったらいつも大袈裟なんだから。そんなんじゃないのよ。」

ふと寂しそうな表情をしたフェリシアを見たアンナは首を傾げた。

「お嬢様、何か不安がおありですか?不安なことは口にするのが一番ですよ。」

「ううん、大丈夫。アンナいつもありがとう。」



 翌日のお妃教育の時間、フェリシアは無くしてはいけないとハンカチが気になって授業内容が全く頭に入らなかった。

「フェリシア嬢、今日は何だかうわの空のようですがどうされましたか?」

「申し訳ありません、先生。今日は騎士団の公開練習日でして、その。。。」

「あぁ、騎士団のね。それでは仕方ありませんね。殿下を応援してください。」


私って本当にわかりやすいのだわ。

貴族の令嬢失格ね。


フェリシアはお澄まし顔を練習しながら身なりを整えた。

これから騎士団の練習場へ行くのだった。


見学は一番後ろでいいわ。

今日こそハンカチを渡してお礼を言わなくっちゃ。


フェリシアはつながっているジョシュアの勉強部屋をそっと覗いた。

彼はまだ勉強中だった。

フェリシアはメモを残して公開練習が行われる場所へ行くことにした。

マティアスが一人だったらすぐ渡してしまいたかったからだ。

ハンカチを何度も確認してから部屋を出た。


今日は大丈夫。

今日は大丈夫。

今日は大丈夫。


フェリシアが暗示をかけながら歩き始めると後ろから足音が近づいてきた。


「フェリシア、待ってぇ。」


慌てて追いかけて来たのはジョシュアだった。


「もう、おいて行かないでよぉ。フェリシア、練習見に行くんでしょ?」

「まぁ、ジョシュア殿下。お付き合いしてくださるのですか。」

「もちろん。あっ、兄上と会う時は邪魔しないよ!」


フェリシアはジョシュアの登場がちょっぴり嬉しかったのと小さいながら頼もしいなと感じた。


ジョシュアは騎士団棟まで馬車に乗って行きたがったが、フェリシアはいい機会だから散歩を兼ねて景色を楽しみながら行くことを提案した。

最初はふくれっ面だったジョシュアだったが、まだまだ王宮内が珍しいフェリシアからの質問に答えているうちに満更でもない気分になっていた。


「ねぇ、フェリシア、知ってる?あの建物が王立植物園だよ。」

「まぁ、そうなのですね。誰でも自由に入れるのでしょうか?」

「あー、僕植物に興味ないからわからないや。フェリシアは入ってみたいの?」

「えぇ、見学したいですわ。」

「じゃあ、今度聞いておくね。」

「殿下ありがとうございます。」


騎士団エリアに近づくと剣と剣が激しくぶつかり合う音が聞こえて来た。


そういえば何回か騎士団棟にはお邪魔したけど実技は見たことなかったわ。

それにしても音だけでも凄い迫力、息遣いまでも聞こえてきそう。


公開練習日だけにザワザワした雰囲気で人の多さが理解できた。

時々令嬢たちの声も聞こえフェリシアも少しだけお祭りに行くようなワクワク気分になってきた。




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