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ハンカチの行方 1

◆◇ 第十九章 前編 ◆◇


 「お嬢様、お嬢様、起きてください。今日からまたお妃教育ですよ。」

アンナの声がフェリシアの脳内に響いた。


う〜ん、もう少し寝たいわ。

ん?そうだ今日からまた王宮に行かなければいけないんだったわ!


「おはよう、アンナ。いつもの癖で二度寝するところだったわ。」

「すぐお支度しますね。あっ、殿下への贈り物忘れないでくださいませね。」


今日の私の一番大事な事は。。。

マティアス様にハンカチを渡すこと。

受け取ってくれるかしら? 多分受け取ってはくれるはずよ。

でも、刺繍の出来を見られてがっかりされたらどうしましょ。


フェリシアの表情を見たアンナは励ました。

「殿下の為に何回指に針を刺したと思っているのですか。殿下はお嬢様が殿下の為に思いを込めたことを理解してくださいますよ。」

「そうよね。アンナ、ありがとう。」



 王宮に到着した。

十日間あまり離れていただけで門、廊下、壁、全てが懐かしく感じた。


「ジョシュア殿下、お久しぶりです。」

声のする方へ顔を向けたジョシュアはフェリシアを見ると飛び上がって喜び駆け寄って来た。

「フェリシアー!会いたかったよ!」

ジョシュアはフェリシアにギュッと抱きついた。

「もうー、心配したんだからね!」


か、可愛い!可愛すぎる!

いつもは小生意気な殿下だけれど、

年下に抱きつかれるのがこんなに気分が高揚するものなのね。

私は末っ子で抱きつく方だったけど、シリルお兄様の気持ちか今わかったわ。


「ありがとうございます。すっかり元気になりました。」

フェリシアはジョシュアの背中をポンポンと軽く叩き離れるように促したが、なかなか離れようとしなかった。


「殿下、家庭教師の先生がお見えになりましたよ。私も隣の部屋でお妃教育です。」

ジョシュアは渋々フェリシアから離れ、家庭教師に向かってしかめ(つら)をした。


 

 お妃教育は雑談をしながら王室行事の説明だけですぐに終了した。

フェリシアはきっとマティアスが負担にならないように配慮してくださったに違いないと確信した。


さぁ、早くマティアス様に会いに行きましょう。


フェリシアはもう一度ハンカチを広げ刺繍を見つめた。

初めて完成させた刺繍。

少しでも華やかな柄にしようとアレやコレや考えたが、初心者の自分には永遠に完成しないかもしれないと不安になり結局とてもシンプルなデザインにした。


マティアスの頭文字『M』と水仙の花。

フェリシアにとって忘れられない花だった。


マティアス様は思い出してくれるかしら?

あっ、でも、恥ずかしいわ。。。


フェリシアは思いをめぐらせながらハンカチを優しくたたんだ。


最初に執務室に向かったがマティアスは不在だった。


あら、おかしいわ。

執務室に居るっておっしゃってたのに。。。

ルーファス様もお付きのロイド様もいないなんて。


廊下の曲がり角にいた衛兵に聞いてみた。

「マティアス殿下はまだ執務室にお見えになっていないのでしょうか?」

突然質問された衛兵は驚きながらも親切に教えてくれた。

「殿下は先程まで執務室にいらっしゃいましたが、急に出て行かれました。少し慌ててた様子でした。」

「そうなのね。ありがとう。」


きっと何か急ぎの業務が入ったのね。

仕方ないわ。

一度戻ってジョシュア殿下のお側にいることにしましょう。


フェリシアが今いるのは二階で、真っ直ぐ行くと吹き抜けになっている廊下を歩いていた。

王宮の広さを改めて感じながら歩き進めちょうど吹き抜けの場所を通った時、何気なく下の階を覗いた。


あっ、あの後ろ姿はマティアス様だわ!

急げば追いつくかしら?

あの方向だと騎士団棟に行くはずだわ。

・・・でも衛兵の話だと急用みたいだし今追いかけたらお邪魔にらなってしまうわね。


フェリシアは二階からこっそりお見送りをすることにした。


マティアス様、行ってらっしゃいませ。


マティアスの美しい銀髪に見惚れていると怪しい人影が彼に近づいて来た。

まるでマティアスがどこに向かっているか知っているようだ。


ウソ!なんであの方が!

シンシア様がどうして。。。

あんなに楽しそうにしてマティアス様の腕に絡みついて。


フェリシアは今見ている現実をどう受け止めていいのからわからなかった。


ただ話しているだけ

偶然会ったから挨拶しているだけ

昔からの知り合いなだけ


フェリシアは自分を納得させる為の理由を考えたが混乱するだけだった。


ハァハァ、胸が苦しいわ。。。


ここで倒れ込むわけにはいかないとその場から離れることにした。

どこでもいい、とにかく遠くへ行って一人になりたかった。


厩舎に行きたいけど騎士団棟方面は行かれないわ。


しばらくウロウロしていると庭園近くの出口を見つけ小走りで出て行った。

その様子を背後から見続けている男がいることにも気づかずに。


男はフェリシアの後ろ姿を見ながら独り言を言った。


あの娘、確かジョシュア殿下の世話係だったような。。

こんな所で何をしているんだ?


男がフェリシアを見続けていると彼女の腕からふぁっと何かが落ちた。


ん?何か落としたぞ。


男はフェリシアが落としたハンカチを拾うとニヤッとした。


おぉ、これは面白い物を拾ったな。


男は手にしたハンカチを上着の内ポケットにしまうと澄まして歩き出した。


「まぁ、ルイス様、こんな所にいらしたのですね。探しましたのよ。」

彼の恋人なのか愛人なのか、男を追って来たと思われるご令嬢が現れルイスに近づいた。

「そうでしたか。それは失礼いたしました、マーガレット嬢。」


フェリシアの行動を見ていたのは王子たちの従兄弟のルイスだった。

ルイスはマーガレットの腰に手を回すと二人はフェリシアと同じ方向へ歩いて行った。



*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*


 あてもなく歩いていたフェリシアは庭園入り口にたどり着いた。

中を覗くと散策しているご婦人が数人と花の手入れをしている庭師が何人かいた。

誰にも見られたくないフェリシアは庭園内には入らず庭園の周りをゆっくり歩いた。

すると庭師たちの道具が置かれた荷車を見つけ、その陰にうずくまった。


アンナがいたらお召し物が汚れますって叱られそうね。


ふぅぅ。

フェリシアは大きく息を吐いた。


マティアス様とシンシア様はどういう関係なのかしら?

マティアス様はシンシア様の事は一言もおっしゃらないし。。

幼馴染み?

そうよ、だってシンシア様は宰相のお嬢様だもの。

だから、ちょっと仲がいいだけ。。。


フェリシアはもう一度ハンカチを見ようとした。


あら、ないわ。

えっ? どうしてないの?

まさか落としてしまったの?


フェリシアは慌てて立ち上がりハンカチを探しに戻ることにした。


どこで落としてしまったのかしら?


キョロキョロしながら歩いているフェリシアをちょうど庭園に入ろうとしたルイスが気づいた。


「あっ!」

ルイスは思わず声を出してしまった。

すると一緒にいたマーガレットに腕をギュッとつかまれ言われてしまった。

「あん、もう、ルイス様ったらすぐ他の女性に気が向いて!」


二人のことなど眼中にないフェリシアは早歩きで来た道を戻って行った。


フェリシアに接触したいルイスは今すぐにでも追いかけたかったがそういう訳にもいかずマーガレットに適当な嘘をついた。


「あぁ、マーガレット嬢、用事があることを忘れていました。」

「まぁ、どういうことですの?」

「残念ですがここで失礼する無礼をお許しください。」

「まぁ、何ですって?先程の女性を追うのでしょう?許しませんわ。」

「アハハ、まさか。彼女は使用人ですよ。父上から頼まれたことを忘れていたのですよ。」

「信じられませんわ。」


ちっ、うるさい女だな。

そろそろマーガレットとは終わりにするか。


「今日の埋め合わせは必ず。」

ルイスはマーガレットの額にキスをするとそそくさと歩き出した。


「私一人で庭園を散策したくありませんわ!」

マーガレットはルイスの背中に向かって声を荒げたがルイスは無視をし吐き捨てるように言った。


クソッ、マーガレットのせいで彼女を完全に見失ってしまったな。






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