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アーサーとマデリン 3

◆◇ 第十七章 後編 ◆◇


 シリルが迎えに来たのでフェリシアはマティアスと別れ帰路についた。


今日はいろいろなことがあり過ぎて疲れたな。

早く邸に戻って湯浴みしたいわ。


フェリシアがふと前を見るとシリルが嬉しそうに彼女を見ている。


「お兄様どうされたの?」

「うん?最近フェリシアと一緒に馬車に乗れるから嬉しいんだ。」

「まぁ。それよりお兄様、、、」

フェリシアはアーサーとマデリンとのお茶会の話しをした。


「う〜ん。。。。」

話しを一通り聞いたシリルは唸ったまま天井を見つめた。

何分位経っただろうか、シリルが口を開いた。


「王太子様はマデリンを拒否した訳ではないと思うよ。彼は立場上いろいろな人と会っているから見た目だけで人を判断することはないはずだ。王太子妃ともなれば嫌でも人前にさらされるからきっと何かお考えがあったのではないかな。」

「そうなのかしら。。。」


フェリシアはシンシアのことも詳しく話そうか考えている間に邸に着いてしまった。



 湯浴みを終えお気に入りの場所でくつろいでいるとアンナがお茶を持って来た。

フェリシアはアンナに髪の手入れをしてもらいながらマデリンの話しをした。


「まぁ、マデリン様にそんなことがあったのですか。」

「私もどうしていいのかわからなくて。。。」

「お嬢様、正直なところマデリン嬢の婚約が決まればいいなと思う反面、決まらなくてよかったと安心するアンナがおります。」

「えっ?」

「もしマデリン様の婚約が決まれば程なくお嬢様と殿下の婚約も公になり王太子様の次であっても早ければ一年後にはご婚礼の式をあげるかもしれません。」

「・・・・アンナ。」

「こうしてお嬢様のお髪を整えてさしあげられるのはあと何回かしらと思うと。。。。寂しくて。」

「アンナったら気が早いわよ。涙が出ちゃうわ。それに。。」


フェリシアはシンシアのことを話した。

「まぁ!許せませんね。お嬢様は国王陛下が認めた正式な婚約者なのになんて失礼なんでしょう!」

アンナはヘアブラシを振り回しながら怒った。

「アンナ、怒り過ぎよ。シンシア様は私たちが婚約していることをご存知ないのだから。」

「それでもいきなり言いがかりつけるなんてご令嬢とは思えませんね。」

「私が心配なのはお兄様なの。シンシア様が宰相に言いつけて何か不利なことを押し付けてくるかもしれないし。」

「それでしたらシリル様は大丈夫ですよ。お嬢様に甘いだけではなく案外芯が強くてとてもしっかりされている方ですから心配ご無用です。」

「あのお兄様が?」

「ええ。さぁ、明日からまたお妃教育ですよ。安心して早くお休みくださいませ。」


フェリシアはいつものように窓から月を見上げて心の中でつぶやいた。

「殿下、今日も一日お疲れ様でした。お休みなさい。」



 翌日からまたお妃教育が始まった。


行事の翌日ということで授業はいつもより早く終了した。

フェリシアは隣の部屋を覗いた。

ジョシュアはまだ家庭教師と勉強中だったので部屋に戻り少し待つことにした。


置き手紙をしてマティアス殿下に会いに行こうかしら?


と、思っているとアーサーの側近がお妃教育終了後に執務室に来て欲しいとの伝言を持って現れた。

フェリシアは驚いてすぐに返事ができないでいるとすまして即答されてしまった。

「殿下よりお返事をいただいてから戻るよう仰せつかっております。」

「は、はい。ジョシュア殿下の授業が終わりましたら伺います。」


ジョシュアの家庭教師が退出するのを確認するとフェリシアはすぐに駆け寄り事情を話した。

「へえー。アーサー兄上はフェリシアに何の用事があるんだろうね。」

「さぁ、私にもわかりませんがきっと何かご用があるのでしょう。」


フェリシアは嘘をついた。

本当は心当たりがある。

心当たりどころか確信できる。

絶対昨日の件だ。

きっと文句の一つでも言いたいのだろう。


私がお叱りを受けて丸く収まるのならお安い御用ですわ。


フェリシアは(いさ)んでアーサーの執務室へ向かった。

が、気持ちばかり焦って出て来た為肝心な場所の確認を忘れてしまっていた。


う〜ん、確かこの辺りのはずなんだけどな。

衛兵を見かけるから近づいていることは確かなんだけどなぁ。


廊下の角角に配置されている衛兵たちに目で追われていることを気づかないフェリシアはキョロキョロしながらあっちへウロウロこっちをウロウロしていた。


「そこの娘。何をしている?」

「あ、あのぅ、王太子様に呼ばれまして。。。」

「怪しいな。」

「本当なんです!」

「さぁ、どうだか。」

「わ、私はジョシュア殿下をお世話しておりますフェリシアです。」

「第四王子には女性の側役などいないだろ。」

どう見たって使用人にも女官にも見えないのだから疑われても仕方ないかもしれない。


「悪いが一度保護させてもらう。」

「えっ?ちよ、ちょっとー」


フェリシアは抵抗するのをやめ素直に衛兵の言葉に従った。

縄でぐるぐる巻きにされると思ったら前後左右を衛兵に囲われ別室に移動させられるだけだったが、手首だけは軽く縛られた。


周りから衛兵たちの声が聞こえてきたので耳を澄ました。

「早く団長に連絡しろ」

「団長は第三王子の執務室にいるはずだ。」


ん?第三王子?

殿下に伝わればすぐ解決だわ。

それまで無駄な労力は使わず大人しくしておきましよ。



 ここは同じ棟内のマティアスの執務室。

正式な婚約を前にマティアスの騎士団としての仕事を減らす打ち合わせをマティアス、ルーファス、騎士団長の三人で行われていた。


 ドンドンドン

激しいノック音と同時に扉が開いた。

「打ち合わせ中大変申し訳ありません。団長、只今、国王陛下の執務室に続く廊下で間者らしき女を確保しました。」

連絡を聞いたマティアスは何となくイヤな予感がした。

団長は冷静に答えた。

「何?報告を続けろ。」

「はい、自分は第四王子の側役で王太子殿下に呼ばれたなどと言っております。武器等は所持してはおらず素直にこちらの言うことを聞いています。」

「ちょっと待て! それフェリシアじゃないか!」

マティアスは立ち上がると同時に報告に来た衛兵に噛みついた。


「武器を所持してないって、まさか身体検査をしたのか!」


マティアスは言い終わらないうちに執務室を飛び出し走って行った。

ルーファスと団長も後に続き、意味もわからずぽつんと取り残されたのは報告に来た衛兵だった。


騎士が本気で走れば早い。

地下室に向かいゆっくり歩いていたフェリシアたちをすぐ見つけた。


「フェリシア!」

フェリシアを囲んでいる衛兵たちを「どけ!」と引っ張り険しい表情で彼女の前に立った。

マティアスのこんな顔は見たことがなかった。

「フェリシア大丈夫か?」

「殿下!」

安心したフェリシアは体内から力が抜けていく感じがした。


「フェリシア、これはどういうことだ?」

マティアスは縛られたままのフェリシアの腕を取りじっと目を見つめた。

「王太子様からお呼びがかかりまして執務室を探していたのですが迷子になってしまいました。申し訳ありません。」」

「とりあえず何事もなくてよかった。」


ルーファスは身につけている短刀を取り出して見つめ合っている二人にそっと近づきフェリシアの手首の縄を切った。

「ありがとうございます、ルーファス様。」

フェリシアがお礼を言うとマティアスは少しだけムッとした顔をした。

その表情に気づいたフェリシアはマティアスに笑顔を向けた。

「私の立場が公ではないので衛兵が判断に困ったのでしょう。でも殿下が絶対に来てくれるって信じていたので全然怖くなかったですわ。」

マティアスの顔がパァッと明るくなり、

問題無しと判断した騎士団長は状況を理解していない衛兵たちに事情は追って確認するから持ち場に戻るよう指示した。


「皆さん、誤解を招く様な行動をして申し訳ありませんでした。王太子様にお会いしなければいけませんので一旦失礼してもよろしいでしょうか。」


アーサー兄上はなぜフェリシアだけに。。。マティアスはあまりいい気はしなかった。

団長には後でまた打ち合わせをすることを伝えた。


「執務室まで送って行くよ。」

マティアスはフェリシアの背中にそっと手を添えた。


「ねぇフェリシア、アーサー兄上と何があったの?」

「いいえ、何もないですわ。昨日お部屋を出て行かれてからそれっきりです。」

「ふうん。」


フェリシアが不審者扱いされた廊下を通ると先程の衛兵たちがおり気まずそうにしていた。

突き当たりを曲がると更に衛兵の数が増えマティアスが通ると皆頭を下げた。

この数の衛兵を見ると国王と王太子の執務室が間近なのがわかる。


「フェリシア、ここが兄上の執務室だ。俺は呼ばれていないから同席できないよ。力になれなくてごめん。」

「殿下とんでもないです。ここまで一緒で心強かったですわ。ありがとうございます。」

「廊下で待ってるから困ったらすぐ俺を呼ぶんだぞ、」

「はい。殿下。わかりました。」


「あっ、それと」

マティアスが顔を近づけて来た。

「まさか、身体検査と言ってドレスを脱がされていないよね?」

「はい?」

何を言っているの?と言いたげなフェリシアの表情を見てマティアスは安心したのか何でもないないと手を振った。


ふぅ。

フェリシアは一度深呼吸をした。


さぁ、王太子様に会いに行くわよ!


フェリシアは執務室の前に立った。


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