アーサーとマデリン 2
◆◇ 第十七章 中編 ◆◇
呼吸音でさえ目立ちそうな位張り詰めた空気の中、フェリシアはエヴァンと共に戻って来た。
子供でさえこの異様な雰囲気には気づくはずた。
当然エヴァンもいい結果ではなかった事をすぐに察知した。
「さぁ、エヴァン、お茶を頂きなさい。王太子様がエヴァンも一緒にって言ってくださったのよ。」
マデリンが時々見せる姉の顔がその場に居た者を安心させた。
結局王太子様はマデリンとの婚約は気が進まなかったと言うことよね。。。。
表情をお見受けしても機嫌がいいのか悪いのかもわからなかったし。。。
私も事前連絡が至らなかったとはいえ、
ただじっと見つめるだけで何かわかるのかしら?
もしかして見た目だけで決めてしまったとしたら。。。
王太子様、少しがっかりだわ。
フェリシアはお茶を飲みながら考えていたら、胸の中からなんともいえない気持ちが込み上げる感じがした。
なんで涙が出ちゃうんだろ?
フェリシアの目から涙がハラハラとこぼれ落ちた。
「まぁ、フェリシア。ごめんなさいね。きっと私がフェリシアの立場を悪くしてしまったからよね?」
マデリンは手でフェリシアの涙を払いながら謝った。
フェリシアは首を振るだけだった。
「フェリシア、さっき会った時もちょっとおかしかったよ。何かあったのか?」
マティアスは彼女の背中にそっと手を当てた。
「殿下、お見苦しい姿をお見せして申し訳ありません。今日一日色々な事があったのでつい。。。」
フェリシアを見つめていたマデリンは心配そうに言った。
「フェリシア、王太子様に何か言われたらすぐ私に言って。」
その言葉を聞いたマティアスは慌てた。
「マデリン嬢、兄上のことは私からもお詫びする。申し訳なかった。どうか気にしないで欲しい。」
「殿下お詫びなどおやめください。私は大丈夫ですから。」
マデリンは吹っ切れたように続けた。
「私も至らぬ点があったのです。ご存知と思いますが、私は母の連子でした。ですからガーランド領の人たちはあまり私をよく思っていませんでした。」
「それはガーランド伯も承知していたことだろう?」
マティアスはつい口を挟んでしまった。
「はい、継父は娘が欲しかったんだと実の娘のように可愛がってくれ、エヴァンが生まれてもその愛情は変わりませんでした。ただ外に出ると私のことをヒソヒソ噂されているようで部屋に閉じこもってお菓子ばかり食べていたんです。気づいたらこんなに脂肪がついていました。」
マデリンは笑っていたがフェリシアは眉間にシワを寄せて聞いていた。
「王太子様が優秀であることは辺境地にも伝わっており、今回のお話しをいただいて私は舞い上がってしまったのです。同じ年頃の友達でもいればオシャレや美容のことで助言をもらえたのでしょうが、王太子様と婚約すれば継父に恩返しができると先走ってしまって。。。領民の誇りになれることしか考えてなくて。。。」
「マデリンったら。。。」
フェリシアはまた泣き出した。
「なんでフェリシアが泣くのよ。」
「だって。。マデリンはマデリンのままだったから嬉しくて。」
「当たり前よ。私は私のままよ。」
マデリンはフェリシアの頬につたっている涙をふきながら言った。
二人を見ていたマティアスはやはりフェリシアのそばにマデリンは必要だと思った。
マデリン嬢は絶対王太子妃に合っていると思うのだけどな。
アーサー兄上の本音はどうなのだろう?
もしダメならノア兄上とは?
ノア兄上は痩せているから逆に彼女みたいな人が好みかもしれない。
イヤ、それじゃマデリン嬢に失礼過ぎる。
うーん。。。
「ところでマデリン嬢はいつまで王都に滞在で?」
マティアスは焦って確認した。
「エヴァンの予定に合わせて騎士見習いの剣術大会までは滞在しますので三ヶ月位でしょうか。」
「おぉ、エヴァンは大会に参加するんだね。それは楽しみだ。」
「はい、殿下。明日から鍛練に参加予定です。」
その後マティアスはボソッと独り言を言った。
「そうか、三ヶ月か。なんとかなるか。。」
フェリシアは不思議そうにマティアスを見た。
「王都にいる間に少しは垢抜けるように努力いたしますわ!」
マデリンは笑いながら宣言すると明日からのエヴァンを気づかい早めに切り上げた。
マティアスとフェリシアは二人をホールまで送った。
マデリンとエヴァンを乗せた馬車が見えなくなるとマティアスはくるっとフェリシアの方を向いた。
「さてと、フェリシア。今日何かあったのか?」
マティアスの右手がフェリシアの左頬を優しく包んだ。
「えっ、あの。。。」
あぁ、油断してた。。。
もう、殿下の右手は反則だわ。
「もう大丈夫です。ご心配をおかけして申し訳ございません。」
「信じていい? なら俺から質問。」
フェリシアは首を傾げた。
「庭園でフェリシアの腕を掴んでいた背の高い男は誰?」
誰?って。。。あっ、ユーインと一緒にいたのを見られたのね。
「クロフォード侯爵家嫡男のユーイン様です。以前家族ぐるみでお付き合いしていただけですわ。」
「ふぅ〜ん。家族ぐるみでお付き合いしてた人がなぜフェリシアの腕を掴むの?」
「そ、それは、私は彼が苦手で逃げようとしたからです。本当に何でもないです。」
マティアスの右手はフェリシアの頬から離れ耳にかかっていた髪をすくいながらささやいた。
「公表していないだけでフェリシアは俺の婚約者なんだからね。忘れないで。いい?」
「ひゃっ。は、はい、承知しております。誤解のないよう行動にも気をつけます。」
ふぅ〜
殿下。。。お顔を近づけ過ぎですわ。
また、呼吸が止まりそうです!




