アーサーとマデリン 1
◆◇ 第十七章 前編 ◆◇
フェリシアは訳がわからなくなり固まってしまった。
目だけを動かして横にいるマティアスを見ると彼も目を見開いて謎の女性を凝視していた。
私、ちゃんと呼吸してるかしら?
「フェリシア!久しぶり。」
貴族令嬢のお手本になるような笑顔で二人の前に現れた女性こそマデリンだった。
「マ、マデリン?本当にマデリンなの?」
目の前に立っていたのはおしゃれに敏感な令嬢が一番嫌う体型、よく言えばふくよか、単刀直入に言えば太っているの一言だった。
しかも、金髪碧眼、白くもちもちしたお肌、その姿はアーサー王太子が女装したようにしか見えなかった。
マティアスはアワアワした様子で耳打ちした。
「ちょっと。。。。マ、マズイんじゃない?」
「か、長い間会っていなかったので。。。まさかこんなに変わっていたとは知りませんでした。申し訳ございません。」
置き物のように立ち尽くしている二人など気にもせず微笑みながらマティアスの前で止まった。
「王太子様、お初にお目に。。。」
「あっ、マ、マデリン!違うわ!」
マティアスを王太子と思い込み挨拶を始めたマデリンを慌てて止めた。
フェリシアはハアハアし、マデリンは「まぁ!」と驚き、当のマティアスは苦笑いしていた。
ハァ、もう、胸が苦しいわ。
今度は過呼吸かしら?
「マデリン、紹介するわ。こちら第三王子のマティアス殿下よ。殿下、こちらが私の従姉妹のマデリンです。」
「殿下大変失礼いたしました。無礼をお許しください。改めましてマデリン・ガーランドでございます。」
「こちらこそよろしく。ところで後ろの少年は?」
マデリンの豊満な身体に隠れて気づかなかったが、ジョシュアと同じ位の歳の少年が立っていた。
「異父弟のエヴァンでございます。エヴァンご挨拶を。」
「はい。殿下にご挨拶を申し上げます。ガーランド辺境伯家嫡男エヴァン・ガーランドです。」
「マデリンにこんな可愛らしい異父弟がいるなんて知らなかったわ!」
フェリシアはエヴァンをギュッと抱きしめたかったが理性が勝って微笑むことで終わらせた。
マティアスはエヴァンが帯剣しているのに気づいた。
「エヴァンは剣術を心得ているのかい?」
「はい。父に指南を受けております。」
「それはいいことだな。ガーランド伯の剣の腕前は王国でも5本の指に入るくらいだからね。」
四人は人目のつかない道を通りお茶会が開かれる部屋へ向かった。
その間フェリシアとマデリンは久しぶりの再会にヒソヒソ声で話していた。
「ねぇフェリシア、王太子様ってどんな方?」
「う〜ん、実は私も一瞬しかお会いしていないのよねぇ。」
「まぁ、そうなのね。」
「言いにくいのだけれど、たぶん私のことをよく思っていないかもしれないわ、」
「えっ?それならハンディがある私は完全に嫌われちゃうかもしれないわね。。。」
「・・・・」
「・・・・」
急に沈黙状態になってしまった廊下にコツコツと足音だけが響いていた。
部屋の前でロイドが待っておりアーサーが少し遅れて来ることをマティアスに伝えた。
エヴァンは廊下で待機することになり三人は室内に入りアーサーを待つことにした。
アーサーを待っている間、フェリシアとマデリンは王宮にいることを忘れ空白の時を埋めるようにお喋りをした。
二人を興味津々に眺めていたマティアスはフェリシアにとってマデリンは友達でもありお姉さんでもあるのだなと感じた。
まもなくガチャッと扉が開きアーサーが入って来た。
室内を一通り見回すと「あっ」と言ってマデリンをずっと見ていた。
すかさずマティアスが立ち上がりアーサーを席に案内した。
「アーサー兄上お待ちしていましてた。こちらガーランド辺境伯のご息女のマデリン嬢です。」
「王太子殿下にご挨拶申し上げます。マデリン・ガーランドでございます。この度殿下にお会いでき光栄でございます。」
アーサーは表情ひとつ変えずに「うむ」と言ったまま相変わらずマデリンを見つめている。
マデリンはアーサーに見られている間ずっと口角を上げ微笑みを保っていた。
マティアスとフェリシアは心配になりアーサーとマデリンの顔を交互に見た。
マデリンってすごいわ。淑女のお手本のようだわ。
私、あんな風に堂々と王太子様に微笑んでいられないと思う。。
マティアスはマティアスで一人感心していた。
マデリン嬢ってすごいな。
この緊張感の中、王太子相手に堂々としているなんてたいしたもんだな。
まぁ、王太子妃どころかゆくゆくは王妃になるのだからこらぐらいじゃないとダメなのかもしれない。
「マデリン嬢とフェリシアは従姉妹と聞いたが。」
やっとアーサーが口を開いた。
「はい。お互いの母親が姉妹でございます。」
マデリンがニッコリ答えた。
ホッとしたフェリシアは嬉しくなってマデリンの顔を見つめた。
どうかこのまま会話が続きますように。
しかし、フェリシアの願いは叶わなかった。
「まるで鏡だな。」
アーサーはボソッと独り言を言うと急に席を立とうとした。
「私は執務が残っているのでこれで失礼する。どうぞこのままゆっくりしてください。あと、廊下で待機している少年は誰だ?」
「私の異父弟でございます。」
「そうか。では彼も呼んで一緒にお茶を楽しむように。」
そう言うとアーサーは部屋を出て行ってしまった。
三人は呆気に取られてしまいアーサーを目で追うことしかできなかった。
フェリシアは廊下にいるエヴァンを呼びに慌てて席を立った。




