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王宮徒然

◆◇ 第十三章 ◆◇


 フェリシアの㊙︎お妃教育はつつがなく進んでいた。


「フェリシア、この後はどうするの?」

ジョシュアがいつも聞いてくるこの質問にもすっかり慣れた。


「図書館に行こうと思っています。先生に各領地のことを教えていただいたのでもっと調べてみたいのです。」

「ふぅ〜ん。図書館の場所知ってる?僕が案内するよ。」

「ありがとうございます。助かります。」


ジョシュアは少々可愛げのないところもあるが、何よりもフェリシアに懐いているところがまたフェリシアのツボなのだった。


ジョシュア殿下のあの天使顔はたまりませんわ。

弟だったらよかったのになぁ。


ジョシュアの後をついて歩いていると遠くに人影が見えた。

背が高く男性のようだが、華やかな上着を見る限り貴族なのは間違いない。

相手はまだ二人に気づいていないようだった。

するとジョシュアは急にフェリシアの後ろに回りドレスに隠れるように歩き始めた。


あら?殿下どうされたのかしら?

後ろを振り返ろうとちょっと横を向いている間に前方の男が目の前まで近づいていた。


「ヒヤッ」

ぶつかりそうになり思わず声をあげた。

「なんだ」

「あっ、私の不注意で大変申し訳ございません。」

「お前、見かけぬ顔だな。」

「はい、まだ日が浅いものでご迷惑をお掛けいたしました。」

「ふーん。女官か?女官にしてはまだあどけないし装いも華美すぎないか。」


男はフェリシアの顔をジロジロ眺めた。


どなたかもわからないしどう対応すればいいのかしら。。。困ったわ。

フェリシアがオロオロしていると後ろから声がした。


「僕が頼んだんだ。おしゃれして来てって。」

フェリシアのドレスに隠れていたジョシュアがヒョッコリ上半身だけ覗かせた。


「で、殿下!」

驚いた男は2、3歩後退りした。


「フェリシアは僕の側役なんだ。だからフェリシアを困らせないで。お願い、ルイスお従兄様(おにいさま)。」

「アハハ、そうでしたか。これはこれは失礼いたしました。では私はこれで。」


ルイスと呼ばれた男は何事もなかったかのように通り過ぎて行ったが、何やらフェリシアに目を付けたことは確かだった。


「殿下、助けていただいてありがとうございます。今の方はルイス様とおっしゃるのですね。」

「うん。従兄弟。父上の弟、叔父上の次男(むすこ)なんだ。僕ちょっと苦手で隠れちゃった。ごめんね。」

「お気になさらないでください。私は気にしていませんので大丈夫ですよ。」

「それに。。あまりいい噂を聞かないから。。。だからフェリシアも気をつけてね。」

「はい、承知いたしました。では、図書館に参りましょう。」



図書館は騎士団棟とは反対側あった。


ホント王宮って広いのね。

これじゃあ棟と棟の移動に馬車が必要だわ。


受付を済ませホールまで来るとジョシュアは「あっ」と言って気まずそうに下を向いた。


「ジョシュアが図書館に来るなんてどういう風の吹き回しだ?」

本を抱えたキツネ顔の細身の男がジョシュアに近づいて来た。


え?殿下を呼び捨てにするなんてもしやこちらの男性は王族の方?

今度は一体どなたなの?


「ノア兄上、いらしてたんですね。」


あぁ、やっぱりそうだ。 


キツネ顔の男はチラッとフェリシアを見ると「あっ」という顔してジョシュアに確認した。

「ジョシュア、こちらのご令嬢はもしや?」

「はい、こちらは僕の側役のフェリシア嬢です。」


フェリシアは挨拶をした。

「殿下、お初にお目にかかります。フェリシア・スィントンでございます。」


ノアは口元を手で押さえうつむき加減で考え込んだ様子だった。


なんだ、マティアスが剣術練習場で知り合ったなんて言うからてっきり女性騎士を想像していたけど、普通の可愛らしい令嬢じゃないか。


気を取り直したノアはフェリシアに微笑みかけた。

「マティアスから話しは聞いていますよ。第二王子のノアです。」

言い終わるとジョシュアに「お前はあっちに行け」と目で訴えた。


「フェリシア嬢のお探しの本は何ですか? 私がお手伝いしましょう。」

ノアはジョシュアを置いてフェリシアだけを連れて書庫に向かった。


「もうー、兄上ったら自分ばっかり。」

ふくれっ面のジョシュアは二人の後ろ姿を見つめていたが諦めると図書館から走り去った。

ジョシュアの後ろで「殿下、館内で走ってはいけません!」と係の者の声が響いていた。


一方書庫ではノアが甲斐甲斐しくフェリシアの世話を焼いていた。


「フェリシア嬢にはこの二冊がちょうどいいでしょう。分かりやすく書かれていますから。」

「殿下、ありがとうございます。」

「この本は本来は持ち出し禁止なのですが、私が借りたことにしておきますから後でゆっくり読むといいでしょう。」

「本当ですか?お気遣いありがとうございます。」


二人は手続きの為受付に歩いていた。


「この後の予定は?」

「マティアス殿下にご挨拶してから邸に戻ります。今日は殿下の貴重なお時間を私の為申し訳ございませんでした。」

「うむ、時間などどうでもよいのだが、その殿下というのが。。。」

「?」

「フェリシア嬢とはいずれ家族になるのだし、殿下殿下と言われても王子は四人いるしなぁ。。。」

「はい。。。(この展開はまさか)」


ノアは先程のように口元に手をあてうつむき加減でモゴモゴと口ごもっていた。

「その、なんだ、お義兄様(おにいさま)と呼んでもらえるとわかりやすいかな。」


ノアの頬はうっすら赤らんでいた。

あぁ、やはりそうきたか。

でも、もう大丈夫よ、任せておいて。


「はい、承知いたしました。お義兄様(おにいさま)。」

フェリシアはニッコリ微笑むとキツネ顔はデレッとし、あっという間にたぬき顔に変わった。


フェリシアもどうしたら相手が喜んでくれるのかちゃんと心得るようになったのだった。



〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*


「すっかり遅くなってしまったわ。」


今殿下はどこにいらっしゃるのかしら?

キョロキョロしながら廊下を歩いていると書類の束を抱えたルーファスを見かけた。


フェリシアが声をかけるとルーファスは振り向き彼女の元に駆け寄って来た。

「ルーファス様、お久しぶりです。今殿下はどこにいらっしゃるのでしょうか?」

「フェリシア様、ご無沙汰しております。殿下は騎士団の執務室にいらっしゃるのでご一緒しましょう。」


二人は楽しくおしゃべりをしながら騎士団棟の執務室へと向かった。


ルーファス様とは自然とお話しできるのにどうしてマティアス殿下を前にすると胸が高鳴るのかしら?


執務室に着いた。

この短い間に色々なことがありすぎてこの扉でさえ懐かしく感じてしまう。


「殿下、フェリシア様がお見えになりました。」

ルーファスが案内をするとマティアスは驚いて机上に積まれていた書類をバラ撒いてしまった。


「フェリシア!来てくれたのか。」

「殿下、お忙しいところ申し訳ございません。今日はお顔を拝見していなかったのでご挨拶だけして戻ります。」


マティアスは書類を拾いながらフェリシアを引き留めた。

「全然忙しくないから、フェリシアちょっと待ってて。」


ルーファスは書類拾いを手伝いながらお茶の準備の確認をすると、

「いや、お茶はいいや。フェリシア、よければ少し散歩しないか?」

マティアスはフェリシアを誘った。

「はい、殿下、喜んで。」


 二人は厩舎に続く小道を目指した。

そうだ、この道を行くと小さな花壇があったはず。

嫌なことも思い出してしまうけど、今はどんなお花が咲いているのかしら?


「わぁ素敵。」

花壇はフェリシアの期待を裏切らなかった。

モッコウバラが満開で、黄色と緑色の鮮やかさがその場から離れられなくなる程だった。


「喜んでくれて嬉しいよ。厩舎係のダンが次来た時には違う花がいいだろうからと庭師から貰ってくれたんだよ。」

「まぁ、そうだったのですね。」


二人の声に気付いたダンが厩舎から出てきてお辞儀をした。

マティアスとフェリシアは笑顔で返した。


しばらく花を鑑賞していたが長居はできないので来た道を話しながら戻った。


「フェリシア、お妃教育はどうだい?」

「はい、大変ですけど先生はとてもよくしてくださいます。今日は図書館にも行ったんですよ。」

「頑張っているんだね。」

「図書館のホールでノア殿下にお会いしました。」

「兄上に?」

「はい、本のことをいろいろ教えてくださいました。殿下もお忙しそうですね。」

「あぁ、父上に言われたんだ。フェリシアと婚約するのなら公務をするようにと。」

「では、私もお手伝いしないといけませんね。殿下を支えなければいけないとお妃教育で習いましたわ。」

「ありがとうフェリシア。心強いよ。」


馬車が見えて来るとマティアスは立ち止まりフェリシアと向かいあった。

「明日はお休みだろ?会えないのは寂しいけどゆっくり休んで。」

マティアスはフェリシアの髪をすくうと唇を近づけた。


あっ、まただわ。心臓が高速でバクバクすると同時に顔がほてっちゃう。


フェリシアがアワアワしているとマティアスはクスッと笑った。

「最近はフェリシアのこの反応を見るのが楽しみになってきたよ。」


かというマティアスも余裕のあるように見せかけて実はちょっぴりドキドキしているのだった。


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