第三王子の決断
◆◇ 第八章 ◆◇
来年までに婚約者を決めなければならなくなった王太子のアーサーは複雑な気持ちになり、目の前のデザートを見つめたまま急に食欲がなくなってしまった。
俺だって結婚できるのならすぐにでも結婚したいよ。。。。
でもさ、この容姿が邪魔をするんだよ。。。。。
若い令嬢はみなマティアスしか見てないし。。。。
男は見た目だけじゃないのにさ。。。。
アーサーの心の声を知ってか知らずか第二王子のノアが質問をした。
「父上、祝賀会までに婚約者を決めるのは兄上だけですか?」
「いや、アーサーは絶対だがノアもマティアスもいい縁があれば決めてもらっても構わない。」
「なるほど、わかりました。」
「ただ、ノアもマティアスも来年まで現状のままであれば。。。」
「あれば?」
「ドルトー王国ほか友好国からの将来の王配として婿入り要望を受けることになるかもしれんな。」
「えーそんな!」
マティアスは声を上げ椅子から立ち上がってしまった。
「あら、マティアスったら急にどうしたの?」
「あっ、いえ。何でもありません。。。」
王妃の声に我に返ったマティアスは冷静な振りをして席についたが頭の中は大パニックを起こしていた。
そうだった。
ドルトー王国は王女しかいなかったんだっけ。
確か第二妃殿下にも女の子しか生まれなかったと聞いたな。
これは困る。
ノア兄上は王立アカデミーの研究員でもあるから他国に婿入りすることはあり合えない。
と、なると一番の婿入り候補は自分ではないか!
えー、これはマズイ。早くフェリシアの存在を明らかにしないと大変だ。
「父上。」
「ん?なんだ?マティアス」
「あ、あの、実は私には将来を共にしたいご令嬢がおりまして。」
パリーン!
マティアスの爆弾発言でまるで食堂内に張られたガラスのドームが割れたように衝撃が走った。
そして
ゲホゲホッ・・アーサーは紅茶を吹き出し
ウグッ・・ノアはデザートを詰まらせ
ガシャン・・王妃はフォークを落とし
パチパチパチ・・・陛下はまばたきが止まらなかった
えーそんな馬鹿な!
声こそ出ていないが各人の背中から「あり得ないオーラ」が溢れていた。
「マティアス兄上ったらカッコいー。」
ジョシュアの声で皆が正気に戻り、陛下が咳払いをし動揺をおさえてから確認してきた。
「マティアスもやっとそういう歳になったか。で、どちらの令嬢だ?」
「はい、スィントン侯爵家のフェリシア嬢です。」
「スィントン侯爵だと?あそこの令嬢はとっくに嫁いでいるだろうに。」
「いえ、次女で宰相第二補佐官シリル卿の妹になります。」
「あら、それでは夜会かお茶会でお会いしたことがあったのかしら?」
「いいえ母上、彼女はまだ社交界デビューをしておりませんので。」
「シリルにそんな年の離れた妹がいたなんて。。。一言も話してなかったぞ」
何故かアーサーは怒り気味に独り言を言いマティスアスに食い付いた。
「デビュー前の令嬢とどうやって知り合ったんだ?シリルに紹介されたのか?」
うわぁ、どうしよう。事実を話すべきか適当にはぐらかすべきか。。。。
「私が指南している剣術クラスに遊びに来まして仲良くなりました。」
ウソではないよな。
まだ皆が、「あのマティアスが信じられない!」という顔をしていると、ノアが急に室内に響き渡る声をだした。
「あー、思い出したぞ。」
ノアは続けた。
「いつだったか護衛がマティアスが花を抱えて歩いているところを見かけたと言っていたな。」
するとアーサーも続けた。
「あー そういえばお前がパルトで人気の菓子店にお使いを頼んだという噂を聞いたことがあるぞ。」
トドメにお王妃までもが記憶を呼び戻しまるでお茶会にいるかのようにしゃべりだした。
「あら、私も思い出したわ。」
「先日宝石商が来てた時にアナタが部屋の前でソワソワしていると侍女が不思議がってたの。」
「きっと意中のご令嬢に贈る物を探したかったのね。」
「いいわねぇ。それで見つかったのかしら。フフフ」
自分以外の人間が「ハハァ~ン、そういうことだったのかぁ~」と言いたげな顔しているのを見て
うまくやれていると思ったのにこんなに目撃されているとは!
マティアスは気を失いそうになった。
「まぁまぁよいではないか。で、そのお嬢さんに会いたいのだが」
「えっ? 急すぎませんか?」
「スィントン侯爵の素性はもうわかっている。今更調べる必要もない。侯爵と本人を王宮に呼んでくれ。」
マ、マズイ。
「えっとですね。彼女は今ちょっと体調をくずしていまして。。。。」
「そうか。。。では、日程調整はマティアスに任せるとして追って書簡を送ることにしよう。」
「はい、承知しました。フェリシア嬢の体調が回復次第父上に報告します。」
「マティアスあと一つ。」
「はい。」
「お前もそういう歳になったんだ。これからは剣術ばかりではなく公務の方も頑張るように。」
「はい、きちんと勉強して父上とアーサー兄上の手伝いができるよう努力します。」
気をよくした陛下はワインをゆっくり味わい、他の者たちはデザートから仕切り直したが、
アーサーだけは何も手を付けず目の前の皿をボンヤリ見つめていた。
「アーサー兄上気分でも悪いの? このプリンすっごくおいしいのにぃ~」
「ジョシュア、黙れ。」
王太子だって人の子、意味のない嫉妬もしたくなるわけで
なんであんな剣術しか能がないヤツが。。。。と心の中で愚痴をこぼしていたのでした。




