始まりの始まり
◆◆第一章◆◆
ここはリスティアル王国の王都パルト。
スィントン侯爵家の次女フェリシアは15歳。
すでに嫁いだ姉ヴェロニカと8歳離れた兄シリルがおり、それはそれは可愛がられて育った。
ちょっぴりお転婆で好奇心旺盛なところも彼女の可愛さに拍車をかけ、歳の離れた末っ子特権で両親からもあふれんばかりの愛情を注がれ毎日が楽しいお貴族様ライフをおくっている。
ある日の朝、フェリシアは居間のソファに分厚い封筒が無造作に置かれているのを見つけた。
「あら、シリルお兄様ったら忘れ物をしているわ。今日のお仕事に必要な物ではないかしら。」
シリルは王宮で政務に携わっている。
周りをキョロキョロ見渡すが皆忙しそうにしていて何となく頼みづらい雰囲気だ。
フェリシアはニンマリした。
「今日は予定もないし私が届けに行きましょう。フフ、お兄様には悪いけど幼い頃数回訪れたことがあるだけだからちょっと楽しみだわ」
馬車の手配をしてもらいワクワクしながら王宮へ向かったフェリシアだったが
この王宮への一歩が彼女の将来を決めてしまうとは本人はもちろん誰が想像できただろうか。
王宮に到着し手続きをすませ宮内に通してもらった。
所定の場所でしばらく待っていると遠くから手を振りながら小走りで走ってくる男性が見えた。
「フェリシア!」
シリルは彼女のもとへ来るなりギュっと抱きしめた。
「あらあら、シリルお兄様ったらまるで久しぶりに会った恋人のようではありませんか。毎朝毎晩お会いしていますのに。」
「私の可愛いフェリシアは冷たいなぁ。朝会ってから3時間もこの可愛い顔を見ていないんだよ。」
「はいはい、こんな素敵なお兄様に愛されて本当に幸せですわ、ってお兄様。忘れないうちに大事な物をお渡ししますね。はい、これお忘れ物です。」
「おぉ、さすがわが妹、ありがとう助かったよ。午後の会議で必要な物だったんだ。」
「では、今度お礼にケーキでもご馳走してくださいね。」
「もちろん!」
シリルがフェリシアをまた抱きしめ頬にキスをしようとしたのでヒョイと顔をそむけた。
すると彼女の視界に1人の若い男性の姿が入り込んできた。
目を細めたくなる程遠い柱の陰からこちらをじーっと見つめている。
キラキラ輝く美しい銀髪、瞳の色こそわからないが、この距離からでも十分にわかるほど見目麗しい。
監視? 確かにここは王宮だし警備は厳しくて当然であり監視も必要であろう。
しかし、どう見てもあれは覗き見にしかみえない。。。。
確かに王宮勤務の文官が若い娘に抱きついているのだから覗き見のひとつもしたくなるのは仕方がない。
ただ見つめている人がただならぬお方のような気がしてならないフェリシアの頭の中は不安と困惑がグルグル追いかけっこをしていた。
混乱している脳内を払拭するため頭を軽く振ると同時にシリルを遠ざけ
「お兄様、ではまた御邸で。今日は早くご帰宅くださいね。」
とニッコリ微笑み、シリルに手を振りながら門へと向かった。
途中、後頭部に兄とは異なる熱い視線を感じつつも振り返るのを我慢しながら早歩きで門を出た。
フェリシアを見つめていたのはここリスティアル王国第三王子のマティアスだった。
たまたま通りかかったところ楽しそうにしている若い2人を見かけ、彼女から目が離せなくなってしまたのだった。
そして、今も馬車の待機所に向かっていく彼女の後ろ姿を目で追っていた。
「殿下、殿下、先ほどからどうされました?」
側近の者の問いかけにマティアスはボソッと呟いた。
「あの男、見たことあるな。政務に携わっている者だったかな?」
「はい、そうでございます。確かスィントン侯爵家嫡男のシリル・スィントン様だったかと。。。」
「ふむ、そうか。。。」
マティアスは一瞬どうしようかなとためらった様子をみせたが、急に振り返ると足早に政務棟へ向かった。
シリルが届けてもらった書類を確認しているとドアの方から名前を呼ばれた。
「スィントン卿、マティアス第三王子がお見えになっています。」
「マティアス殿下が私に?」
絶対に間違いであろうと思いながらドアの方へ向かうと本当に第三王子のマティアスが立っていた。
シリルは慌てて挨拶をした。
「マティアス殿下におかれましてはご機嫌麗しく。。。」
「あぁ、挨拶はいいから。 シリル・スィントンで間違いないな」
「はい、宰相第二補佐官のスィントン侯爵家が嫡男シリル・スィントンでございます。どうぞシリルとお呼びください 。」
「わかった。突然だがシリルは既婚者か?」
「・・・(ん?突然どうしたのだろう?)いいえ、独身でございます。」
「そうか、ならば婚約者はいるのか?」
「・・・(殿下、急にどうされたのだ。私にご令嬢でも紹介しようとしているのだろうか?)恥ずかしながらおりません。」
「では、懇意にしている令嬢はいるのか?」
「・・・(一体な何が起きているのだ!)いえ、特別おりません。」
シリルは伏し目がちで答えていたが、
ふと視線を上げるとマティアスがニンマリしているように見えた。
「ふぅ~ん、それでは先ほど仲良くしていた抱き合っていた令嬢は誰だ?」
「あっ、はい。一緒にいたのは妹のフェリシアでございます。 忘れ物をしたので届けに来たのです。」
「なるほどね。」
ニッコリ微笑んでいたマティアスは続けて
「では、フェリシア嬢に伝えてくれないか。明日から私が教えている剣術クラスに参加するようにと。」
「はい? 妹がですか?」
シリルの頭の中は何万個の「なぜ?」がグルグる駆け巡りやっと発したのが
「殿下、一体どういうことでしょうか? 私には全く理解しかねるのですが・・・」
「ん?まぁね。そう深く考えないでいいから。 じゃあ、明日楽しみにしているよ。」
そう言うとシリルの肩をポンポンと叩き嬉しそうに去って行った。
呆然としたシリルはマティアスがスキップして見えるのは気のせいだと言い聞かせながら
だんだんと小さくなっていく彼の後ろ姿を目で追っていた。
その日の夜、スィントン家は家族全員集合で会議が開かれた。
シリルが昼間の出来事を話すと一斉に「どうして?」「なぜ?」の嵐だったのは言うまでもなかった。
「お兄様、私は一体どうしたらいいのですか? しかも剣術って。。。。」
涙目のフェリシアはシリルに訴えた。
シリルはバツが悪そうに彼女から目をそらすと
「まっ、そういうことだから。それにマティアス殿下はとても男前だし剣術の腕前も騎士団内でもトップレベルだ。だから御令嬢からも人気がある。そんな殿下直々にお声がかかったのだから光栄なことだそ。取り敢えず明日は剣術クラスに顔をだしておくれ。」
とシリルにしては珍しく1秒でも早くこの場から逃れたい気持ちでいっぱいだった。
「はい。そうします。」
お兄様ったら冷たいわと思いながらもそう返事をするしかなかったフェリシアに
「いいか、無理だけしてはいけないよ。何かあったらすぐお兄様に言うんだぞ。」
部屋を出ようとしたシリルは振り向きざまに声をかけるとフェリシアは黙って頷いた。
同時に彼女も振り返り側にいた侍女のアンナを見つめるとアンナはにっこり微笑んだ。
翌日、王宮騎士団棟に到着すると早速マティアスが駆け寄ってきた。
「マティアス殿下、お初にお目に掛かります。スィントン侯爵家次女のフェリシアでございます。殿下におかれましては。。。」
緊張して震えた声のフェリシアの挨拶を遮るようにマティアスは声をかけてきた。
「そんな堅苦しい挨拶はいいからいいから。フェリシア嬢、急な呼び出しなのによく来てくれたね」
「殿下、どうぞフェリシアとお呼び下さいませ。」
マティアスは微笑みながらフェリシアの腕をグイッと掴むと剣術練習場に向かって歩き始めた。
「ではフェリシア、さぁ、こっちへ来て。」
緊張が持続中のフェリシアは足がもつれて上手く歩調を合わせられずヨタヨタしながら殿下について行った。
途中、何回も後ろを振り返ると様子を見ていたアンナは笑いを堪えながら胸元で小さく手を振っていた。
同世代の男性免疫の無い彼女にとって例え腕とはいえ身体の一部を触れられるなんて人生初体験であり、ドキドキはいつまでも続き止まることを知らなかった。
剣術練習場には20人程度の少年達がいた。おそらく10歳前後だろう。
数名少女もいるがほとんどが代々優秀な騎士を輩出している貴族の子供達だろうし、
当然「立派な騎士になるんだ!」という強い志があるに違いない。
そんな中に15歳の少女とはいえフェリシアが入れば目立つどころではないし、
そもそも彼女には自ら剣術を学びたい気持ちなどこれっぽっちもない。
恥かしいやら申し訳ないやらでモジモジしていると、1人の少女が近づいてきた。
「こんにちは。お姉さんも指導を受けるの。」
と、目をクリクリさせながら聞いてきた。
困った、さてどう答えたらいいのかしら。。。。
殿下の手前、変なことは言えないし。。。。
フェリシアは無言でニッコリ微笑んだ。それが精一杯の答えだった。
あぁ、恥ずかしい。もう絶対注目の的だわ。
フェリシアの困った顔を察知したのか、マティアスがスーッと音もなく近づき耳元で囁きながら練習用の木製の剣をそっと握らせた。
「無理しないで何となくマネしてくれればいいからね。」
ビクッとして返事をする間もなく固まっていると、練習場に声が響いた。
「よーし、準備はいいか」
声の大きさにびっくりしたフェリシアは思わず声主の顔を見た、
が、彼もまたフェリシアの視線に驚き慌てて目をそらした。
「えっ、そんな。」
つい声に出してしまったが、そんな事にはお構いなしに号令が響いた。
「素振り始め!」
号令と共に練習生達は一斉に1、2、3、と数えながら素振りを始めた。
マティアスを含め指南役3人が素振りをしている少年達を見回りながらアドバイスをしている。
オロオロしている間に師範長らしき人物が生徒達の間を通りながら近づいて来た。
真似するだけなら何とかなるかも。
そうよ、こう見えても私は運動神経がいいはずだったわ!
勇気の女神に背中を押されたフェリシアは元気よく素振りを始めた。
「1回、2回、3回」
ふふ、小さい頃お兄様と騎士様ごっこをしたのを思い出すわ。
って、もうすぐ先生が私のところに来そうだし懐かしがっている時間はないわね。
さぁ、見るがいい、フェリシア・スィントンの素振りを!
最高の得意顔をした彼女は「どうよ」と言わんばかりに近づいてきた指南役に顔を向けた。
すると、ビクッとした彼はフェリシアの顔を見るどころか急にUターンをすると早歩きで前に戻って行ってしまった。
あら?私のこと避けてますぅ?
と、思ったと同時に木剣は彼女の手から離れ空高く飛んで行き
本能的に剣を追いかけようとしたフェリシアはバランスを崩しドスンと大きな音を立てて派手なスライディングをしてしまった。
い、痛い。は、恥ずかしいっ。痛い、恥かしい、痛い、恥ずかしい。
あー。私ったら、もう。
私以外の時間よ、止まって!
心の中で叫んだが残酷にも時は正しく刻み、
木剣は地面にストンと落ちて来るとコロコロコロと転がって行き、静寂に包まれた練習場に音だけが響き渡った。
あぁ、もう顔を上げられないと四つん這いになったまま固まっていたフェリシアだったが突然目の前が暗くなったのに気づいた。
「フェリシア、大丈夫か」
この声は殿下。。。
「はい、転んだだけなので大丈夫です。」
俯いたまま返事をしたが、内心は早く離れてくれないかしらと思っていた。
と、その瞬間フェリシアは自分の身体が急に軽くなりフワッと宙に浮いた気がした。
私、どうしちゃったの?と顔を上げると目の前にマティアスの顔があった。
「いや、大丈夫ではない。怪我をしているかもしれないから確認しないと!」
マティアスは彼女をお姫様抱っこをすると、ざわついている周囲の空気を振り切るように小走りで騎士団棟内へ向かった。
「で、殿下、大丈夫です。どこも痛くありませんので自分で歩けますわ。」
フェリシアは恥ずかしさのあまり両手で顔を覆い、あぁ、私の人生終わったわ。。。ボソッと呟いた。
「ダメだ! 何かあったら大変だ。」
マティアスには全く聞こえていないようだった。
人というものは見たくないと目をふさいでもやはりどこかで少しだけ覗いてみたいと思うもので、
フェリシアもご多分に洩れず中指と薬指を広げて様子を伺った。
長い廊下の先に大きな扉があり、どうやらそこに向かっているらしい。
2人が近づくと扉がサッと開いた。
室内の騎士が近づいて来る足音に気がつき開けたのだが、初めて見る令嬢を抱いているマティアスを見入るとドアノブを握ったまま固まっていた。
「殿下、何があったのですか。」
「ちょっと部屋を借りるよ。」
騎士の質問には答えずフェリシアを抱えたまま部屋に入ると
「ここは王国騎士団の本部で今いるのが執務室、奥に会議室と騎士達の休憩室もある。」
マティアスは説明するとフェリシアをガッチリ抱えたまソファに腰掛けた。
「殿下、私はもう大丈夫ですので降ろして下さいませ。」
「そうか、せっかくなのに残念だな。」
えっ?今残念とおっしゃった?
フェリシアは一瞬顔を上げ殿下の方を向くと、同じく「えっ?」と言う顔をしていた騎士と目が合ってしまった。
本当に恥ずかしい。
ファリシアの顔はみるみる赤くなり身体全体も熱くなっていった。
彼女の動揺を知ってか知らずかマティアスは名残惜しそうにフェリシアを膝から降ろし自分の隣に座らせた。
「あのぉ、殿下。お隣りでよろしいのでしょうか。」
「えっ?ダメなの?」
「いえ、ダメと申しますか、その殿下とは初対面ですので私も緊張してしまって。。。」
「コホンッ」
2人の何ともぎこちないやり取りを見ていた騎士が咳払いをしマティアスの顔をチラッと見た。
マティアスは「あれ?」みたいな顔をしたと思うと気持ちを入れ替えるかのようにファリシアの向かいに座り直し姿勢を正した。
そして彼もまた咳払いをひとつすると
「フェリシア、僕に聞きたい事がたくさんあるだろう? 僕も話したことがあるんだ。」
と言い側にいた騎士をチラッと見た。
彼は察したのかスーッと音も立てずに部屋を出た。
「フェリシア、まずは今日のお礼だね。我儘なお願いを聞いてくれてありがとう。」
「いえ、とんでもございません。」
「シリル補佐官にも感謝だな。」
フェリシアは微笑んだ。
「で、どうして私が剣術クラスに?と思っているだろう?」
「あっ、はい。」
マティアスはまたコホンッと咳払いをしてから話し始めたものの、どこかに照れがあるのを隠しきれずにいた。
「昨日、君とシリル補佐官が仲良く話しているのを見かけたんだ。」
「はい、忘れ物を届けに参りましたのでその時に少し話しました。」
「僕には2人がとても楽しそうに見えたんだ。最初は補佐官の婚約者かと思ったよ。」
「まぁ。。。兄は私をとても可愛がってくれるのですが少々度を越していまして。。。」
「正直君たち2人を見て羨ましかったんだ。僕は剣術ばかりしていたから女性には縁がなくて。」
「殿下程でしたらご令嬢達が黙ってはいないのではないでしょうか。」
「実はそれが嫌だったんだ。小さい頃から婚約者候補になりたい令嬢達が近づいてきてはご機嫌取りを繰り返すんだ。彼女達も親に言われてのことだろうけど、兄上達を差し置いて自分だけが注目されることが耐えられなかったんだ。」
「殿下。。。(確かに殿下程の美貌だもの今もお慕いしているご令嬢は多いだろうな。。。)」
「だからつい令嬢達に冷たい態度をとってしまい、逃げるように剣術に没頭してしまったんだ。」
「そんなことがあったのですね。」
「でも、昨日君を見てから変わったんだ。君の嘘偽りのない笑顔、楽しそうに会話をしている様子。あぁ僕もあんな風に話してみたいと心の底から思ったんだよ。でも、僕は不器用だからこんな迷惑なやり方で君を呼び出してしまって申し訳なく思っているよ。」
「殿下お気になさらないで下さい。理由がわかりましたので安心いたしました。」
「ありがとう、フェリシア。」
「私も殿下のことをもっと知りたいです。私のような未熟者でもよろしければ是非。」
「君の可愛い口からそんなことを言ってくれるなんて嬉しいね。」
2人が少し打ち解け始めた頃、先ほどまで在室した騎士がお茶の用意をして戻ってきた。
「お熱いのでお気をつけ下さい。」
慣れた手つきでフェリシアの前にカップを置いた。
「まぁ、騎士様が入れて下さったのですか?」
「はい。騎士団は男所帯ですのでお茶も自分達で入れるんですよ。」
フェリシアは騎士が入れたお茶に興味を持ち早速一口飲んでみた。
「わぁ、騎士様。すごく美味しいです。それにとてもいい香り。」
「お褒めいただきありがとうございます。」
騎士は一礼するとマティアスの方を向きもうすぐ会議の時間であることを伝えた。
しかし、何故かマティアスは不機嫌そうな顔をして「あぁ」とだけ返した。
不穏な空気が流れ始め、2人は沈黙の中お茶を飲んだ。
殿下は何故機嫌が悪くなったのかしら?
私、失礼なことをしてしまったかしら?
心配になったフェリシアがオロオロしていると殿下の後ろに立っている騎士と目が合ってしまった。
焦るフェリシアに対して彼は余裕でウィンクをしてきた。
まるで「安心して」と言っているようで彼女も思わず微笑み返した。
「殿下、そろそろお時間です。」
「わかった。」
「フェリシア、申し訳ない。この後会議に出席しなければならない。また、明日も来てくれるだろうか。」
「はい、もちろんですわ」
「ありがとう。後、そのぅ、」
「はい?どうされました?」
「明日は練習場に来てくれるだけでいいよ。だから、その、ドレスで来てくれると嬉しいな。」
「ドレスですか?」
「いや、そんなに着飾らなくても。。(本当は綺麗に着飾った姿を見たいけど)市井に行くような格好でいいよ。」
「はい、殿下。承知いたしました。」
頬だけでなく耳まで赤くなって話すマティアスが
とても可愛らしく見えたフェリシアは最高の笑顔を披露した。
「では殿下、また明日参りますので今日は失礼いたしますね。」
マティアスは側にいる騎士に門まで送るように指示をした。
長い廊下を何とも言えない達成感にひたりながら歩いていたフェリシアに騎士が話かけてきた。
「今日はバタバタしてしまい申し訳ありません。」
「いえ、とんでもありません。急なことでしたので仕方ありませんわ。騎士様。」
「私はマティアス殿下のお側におりますルーファスと申します。どうぞルーファスとお呼び下さい。」
「はい、ルーファス様。私のことはフェリシアでお願いしますね。」
「ありがとうございます。フェリシア様。」
「あっ、あそこで侍女が心配そうに待っていますわ。ルーファス様わざわざお見送りありがとうございます。あと、お茶、とてもおいしかったです。」
「お気に召していただいて光栄です。明日もおいしいお茶を用意しておきますね。では、お気をつけて。」
フェリシアはルーファスに会釈をすると侍女のアンナに向かって走って行った。
「アンナ~」
「まぁまぁ、お嬢様落ち着てくださいませ。危ないですよ。」
フェリシアは馬車に乗りながら騎士団棟内での出来事を細かく説明した。
「それでね、マティアス殿下はご令嬢達と仲良くしたいから私と会話の練習をしたいみたいなの。」
「う~ん。それは本当でしょうか? 明日も剣術クラスに行かれるのですよね?」
「そうよ。明日は普通のドレスで大丈夫ですって。」
「お嬢様、アンナが思うにそれは殿下のひ・と・め・ぼ・れ だと思いますよ。」
「ほぇ? まさか。」
ビックリした後、顔をみるみる赤くし俯いたままのフェリシアを見たアンナは「この恋を暖かく見守っていかねば!」と心の中で誓った。