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6.有名作家の息子

 仲間が増えたと喜ぶミナコだったが、挙げかかった右手を机の下に引っ込めた。


 右手を翔へ指し示して、彼が傘行の求めている人物であると紹介するのは、クラス全員に知らせるのと同じ。


 今はまだ、二人だけの秘密にしていたい。


 ミナコが、翔の方へ目を向けると、彼は(うつむ)いている。


 ところが、傘行は、彼女の手がわずかばかり動いて、視線がとある生徒へ向けられた一部始終を目にしていた。


「いたりして?」


 転校生の視線がロックオンしたことに気付いたミナコは、生徒たちが顔を見合わせる中に紛れることにして、無意味に左右を見る。


「まあ、自分が作者だと名乗る人は、そうそういないでしょうから、探しますよ」


 口端を吊り上げた傘行は、なおもミナコを見つめていた。



 休み時間になると、傘行の席の周りに生徒が押しかけ、質問を浴びせかけた。


 なにせ、有名作家の息子だ。作家のプライベートな情報が手に入るかも知れないと思うと、質問にも熱が入る。


 情報を小出しにしてプチ・ジャーナリストを満足させる傘行は、腕組みをして反り返り、周囲の反応にご満悦。


 しかも、自分も小説を投稿していることまで、あっさりバラしてしまう。ただし、サイト名も作者名も語らず、探りを入れる生徒をはぐらかして楽しんでいる様子。


 初日から有名人を気取っている転校生を、煙たく思う生徒も多かったが、ミナコもその一人だった。



 放課後。図書室で、いつもの席に座る翔の右横にミナコが座り、二人でスマホの画面を見ながら、小声で長編小説の投稿時期とアップする分量について意見を交換していた。


「なるほど。やはり、そうか」


 背後から聞こえてきた声に、翔とミナコがギョッとして振り返ると、いつの間にか傘行が立っていて、腕組みをしながらニヤリと笑った。


 足音は聞こえなかった。いつから話を聞かれていたのだろうか。


「なんか、知ってそうだなって感じがしたので、ついてきたら、こんなところに作家みっけ」

「知ってそうだって、私が?」


 ミナコは、自分の顔を指で指し示す。


「そう。だって、朝、作家っぽい生徒を見ていたじゃない?」

「そこまで分かるの?」

「僕は勘が鋭いのでね。それより――」


 傘行は、ミナコから翔へ視線を移す。彼の表情は、目の前の作家へ好意を抱いているとは感じられず、獲物を見つけた野獣のようだ。


「ねえ、君? どこのサイトで投稿しているの?」

「……『携帯小説家になるぞー』です」

「なるぞ、か」


 翔の返答に、傘行は見下す目つきになった。


「しー。周りに聞こえる」


 ミナコは、傘行の声が大きくて、離れた所にいる生徒数名がこちらを見たので忠告する。


「いいじゃん、聞こえたって。やましいことをしているわけじゃないし」

「そうじゃなくって――」


 傘行は、言いかけたミナコに掌を向けて軽く睨み、翔を見る。制止された彼女は、言葉を飲み込んだ。


「それより、読ませてよ、君の小説。面白かったら、オヤジに見せるから」

「いきなり……ですか?」

「うん。オヤジの意見を聞く、いいチャンスだよ。なるぞの連中の感想よりも、もっとためになると思うけど、どうだい?」


 何となく、イヤな予感がするミナコは、翔が傘行へ渡そうとするスマホに手が伸びかけた。


「二人で共作?」

「いえ。ミナコさんの意見をもらいながら書いています」

「ふーん。そういう分担なんだ」

「初めての長編なんで、要領が分からなくて」

「処女作?」

「いえ。短編をいくつか」

「作者名、教えて。あと、本名も」


 翔は、傘行の求めに応じて、作者名と自分の名前を伝える。


「なるほど。まんまなネームだね。じゃあ、先に、短編読ませてもらうよ。感想は、明日」


 傘行は、渡されたスマホの画面を一瞥しただけで、翔へ返し、スタスタと図書室を出て行った。


「図書室まで私のこと()けてきたかと思うと、キモい」

「作家っぽい生徒に気付くって、凄いですね」

「しかも、立ち聞きしていたんでしょう? そこで」

「でも、有名作家の感想がもらえたら、舞い上がってしまいそう」

「なんか、感じ悪い人」

「なんて言われるかなぁ」

「ねえ。会話がかみ合っていないんだけど」


 舞い上がる翔に、ミナコは、嘆息した。

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