26.トップページに掲載
その日の夜6時。翔から送られてきた8ページ目の原稿をスマホで読んだミナコは、ほとんど指摘がないことに驚いた。
見落としがあるのではないかと、2千文字以上の原稿を3回読んだが、見つからず、粗探しをしている自分がイヤになってきた。
何度も書いているうちに、翔の筆力が上達したというのもあるだろうが、長編を書く迷いが吹っ切れ、過剰な気負いもなくなったからではないか。
これでプロットが出来ていれば、ちょっと言い過ぎかも知れないが、完璧だろう、とミナコは思った。
大きく伸びをした彼女は、休憩がてら風呂に入り、紅茶で一服してから、原稿を読み直した。
すると、気になる点が3箇所出てきた。
(やっぱりね。ちょっと寝かしてから読み直すと、気付くことがあるわ)
9時にミナコからチャット経由で指摘を受けた翔は、感謝をしつつ、即座に修正したが、その勢いでアップしそうになった。
しかし、明日の朝7時公開というミナコとの約束を思い出し、時間指定の公開機能を使って、8ページ目を登録した。
『読んだ後、時間を置いてから読むと、気付くよ。さっきの指摘は、全部そうだから』
『ありがとうございます。僕も、今、時間指定で登録したのですが、もう一度、寝る前に読んでみます』
『うん。その方がいいと思う』
『それに、やはり、プロットも書いてみようと思います』
『ホントに!?』
『はい。なくても最後まで書けると思っていたのですが、あれも書きたい、これも書きたいとアイデアが浮かんできて、収拾が付かなくなってきていて、またブレてしまう気がするのです』
『いつ頃、出来そう?』
『少し時間をください』
『うん。待ってる』
思いつきでストーリーが展開していくという危うい状況は、回避できそうだ。
翌朝。待ちきれないミナコは、7時の目覚ましが鳴る前に起床し、スマホを手にした。
ページビュー数は、92。これが8ページ目公開を境に、どこまで増えていくか。
いよいよ7時。リロードすると、8ページ目が公開されたことが確認できた。
数字の更新は5分間隔なので、5分待つ。すると――、
(え? 一気に120まで行っている!)
さらに5分後。
(嘘!? 150!)
ところが、ここから伸びが悪くなり、7時15分に155に達してからは、カウンタがパタリと止まった。
それにしても、63も増えたのは、快挙である。8ページを7人が、7ページを1人が読んだ計算だとして、最低でも8人の目に留まったことになる。もちろん、全員が1ページ目だけ読んだとすると、最大で63人が興味を持った可能性もあるが、最初のページで諦めたのかと思うと、悲しいが。
ミナコは、チャットで翔に嬉しさを伝える。
『数字見た?』
『ええ。今、155ですね』
彼も起きていて、状況を見ていたらしく、すぐに反応があった。
『やはり、朝は効果があるんじゃない?』
『それもあると思いますが』
『他には何が?』
『なるぞーのトップページの、更新ピックアップに8分間載っていたのが大きいと思います』
翔が言っていた更新ピックアップとは、「携帯小説家になるぞー」のトップページで、新作あるいは更新された作品からランダムに選ばれたものが、25作品紹介されるコーナーのこと。ここは、1分置きに2~4点の作品が追加され、古いものから消えていく。
『ここ、ランダムに抽出されるので、ラッキーでした』
『ついているわね』
『はい。これを機会に、僕の長編を見つけてくれた読者が増えたでしょうから、更新の度に、気にかけてくれるのではないかと期待しています』
『じゃあ、今まで低かったのは、そこに載らなかったから?』
『ええ。一度も載っていません』
『そんなに運が悪いの?』
『運だけじゃないです。会員の間で諸説はありますが、選ばれる確率が高いのは、7ページ以上とか、2万5千文字以上とか、毎日更新とか、何らかの要素がからんでいるみたいです』
『なら、ページ数や文字数が多い長編が有利?』
『いえ。10万文字を超えると、選ばれにくくなるという説もあります。あと、書籍化が決定した作品の更新は、まず出てきません』
これから注目して欲しい作品が、優先的に選ばれるのか。
いずれにしても、翔の作品のタイトルがトップページに出たことは、喜ばしいこと。
これで、しばらくの間、運も関係するが、トップページに載る機会が増え、読者も増えるだろう。
『毎日更新が要素なら、これから頑張ってみる?』
『諸説の一つですから、要素だと決まっているわけじゃないですが、毎日更新はしたいですね。読者は、更新を楽しみにしているでしょうから』
『協力するわ』
『ありがとうございます。いつもすみません。よろしくお願いします』
ミナコは、少しドキドキしながら、書き込む。
『今日、行くとき、待ち合わせない?』
翔の反応の遅さが、じれったい。
『どこにしますか?』
『公園の前で』
『わかりました』
ミナコが時計を見ると、7時25分だ。
『今からなら、一時間後とか』
『急がないとですね』
スマホの向こうに、翔の笑顔が見える。
ミナコは、急いで身支度を済ませ、そろそろ朝食が用意されているであろうダイニングルームへ向かった。
待ち合わせ場所へ同時に到着した翔とミナコは、9ページ目以降について、楽しく語りながら歩く。
ショートホームルームは8時40分からで、公園と学校との間は10分なので、割とギリギリの登校時間だ。
そんな二人は、遅い登校組の生徒に交じって、ゆっくりと歩いていたが、後方に傘行の姿があることに気付かなかった。
「畜生め」
作者と読者が仲良く肩を並べて歩く後ろ姿を睨み付けた傘行は、舌打ちをし、忌ま忌ましそうにつぶやいた。




