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傘の雪(改訂版) ~熱烈な読者と不器用な作家と辛辣な批評家と~  作者: s_stein & sutasan


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25/28

25.投稿の時間帯

 結局、朝になっても、ページビュー数は85のまま、変わらずじまい。


 浮かない顔をしたミナコは、家を出てノロノロと学校へ向かうと、校門の前で翔の後ろ姿を目撃した。


 気のせいか、うなだれて見えるのは、少し前にスマホで再チェックしても、ページビュー数に全く変化がないからかも知れない。


 励ましが必要だと思った彼女は、彼を追いかけて、まずは挨拶を交わす。


「おはよう」

「あ、おはようございます」

「変わらないね」

「え? ……ああ、そうですね」


 翔が、ボサボサ頭を掻いて、苦笑する。


「タイトルとあらすじを変えると反応があるけど、ページの更新には反応がないってことは、各ページの更新日付は誰も見ないってこと?」

「おそらくは」

「それって、どうよ、って思うけど」

「でも、今回の改稿で序盤の駄目な部分が一掃されたので、新しいページをアップすれば、ページビュー数もアップするのでは、と期待しています」

「ねえ? 私、読んでいい?」

「あ、どうぞ」

「7増えるけど、それ、私だから」



 ミナコは、昼休みの時間を使って、中庭のベンチに座り、スマホで翔の改訂版を読む。


 各所で繰り返し出て来た説明は、全て消えていて、長い描写も適度に短くなり、心理描写もちゃんと入っている。指摘通りに修正されているのだ。


 1時間程度の時間で、ここまで出来る彼には、感心するしかない。


 翔が最初からこのレベルの原稿にならないのは、なぜなのだろうと思っていると、


「何? 彼の小説のアクセス数を増やしているの?」


 横から声をかけられたミナコは、ギョッとして、声の主へ顔を向けてから、スマホを隠した。


 そこには、ニヤニヤする傘行が、いつの間にか立っているではないか。


「何で、こんな所まで来るの?」

「いやー、ほとんど指を動かさずに画面を見ているってことは、彼の小説を読んでいるのかなと思ったので、声をかけてみたのさ」

「ニュースを読んでいるのかも知れないのに?」

「熟読するの? ニュースを学校で」

「――――」

「だろう? だから、高い確率で、彼の小説だと思ったのさ。何せ、君は、編集担当みたいなものだから」

「――――」

「何でアクセスが伸びないのだろうって、気になっている。図星だろ?」

「どうでもいいでしょう? で、今日は何の用なの?」


 傘行が、ミナコの左横へ座ろうとしたので、彼女は左手で拒絶する。


「声がデカくなるけど、いいのかい?」

「別に。ここじゃ、聞いている人、いないと思うし」

「そう。なら――」


 傘行は、腕組みをして、ニヤニヤと笑う。


「7ページ分、一気に更新したみたいじゃないか?」

「何? そこまでチェックしているの?」

「そりゃそうさ。クラスメイトに同業者がいるんだよ? 気になるだろう」

「だったら、読んであげてもいいじゃない?」

「それは、別問題。少し、厳しく接しないとね」

「どうして、いっつもいっつも、上から目線でものを言うの? いい加減にして欲しいわ」

「底辺の彼よりも、僕の方が断然上位なのだから、仕方ないだろ?」

「呆れた……。ねえ? あなたの作品がどれほど凄いのか、読みたいから、作者名を教えて」

「やだね。作者名は、僕と対等か、それ以上の人間にしか教えないことにしている」


 笑う傘行だが、右足で忙しくリズムを取っている。イライラしているようだ。


「私は、同業者じゃないから?」

「もちろん。――それはそうと、あんな時間に更新したって、読む人なんかいないよ、って彼に言ってあげな」

「――――」

「投稿も同じ。誰が、どういう時間帯に隙間時間があって読むのか、考えたことがある?」

「……そんなこと言われても」

「まあ、経験で会得するんだね。都市伝説って笑う連中もいるけど」



 放課後、ミナコは翔と一緒に下校し、道の途中で、傘行のアドバイスを伝えた。


「――って、偉そうに言ってたんだけど」

「投稿の時間帯ですか? それ、なるぞーでは、ほぼ都市伝説です」

「ホントに?」

「ええ。きっと、傘行さんの作品を読む人のアクセス時間帯に傾向があるから、この時間に投稿すると、アクセスが増えるとか言っているのでしょう。おそらくですが」

「なーんだ。彼って、一般に通用する裏技的な凄いノウハウでも持っているのかと思ってたけど」

「でも、なるぞー会員の間では都市伝説でも、僕は、なんとなく、それは根拠があるような気がするのです」

「どういうこと?」


 ミナコは、翔の顔を覗き込む。


「朝の通勤通学の途中で読む、休憩時間に読む、帰宅途中で読む、テレビを見終わってから読むという感じで、読む人の多い時間帯って、何となく偏りというか傾向があるのではないかと思います。自分がネットで読みたいと思うときの時間帯を考えると、納得します」

「へー。じゃあ、翔がいつも夜中にアップするのは、何かの傾向から?」


 翔は苦笑し、頭を掻いた。


「それは、僕自身の都合です」


 ミナコは、「そっか」と言って笑った。


「今度、実験してみない?」

「実験? 投稿の時間をずらしてみることですか?」

「うん」

「……うーん。多少は効果があるかも知れませんが」

「乗り気じゃない?」

「劇的に増えるとは思えませんが……、やってみましょうか」


 それから、翔は、8ページ目を明日の朝7時にアップする約束をした。

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