18.疑い
学校の図書室で、ミナコのチェックが入った4ページ目を、翔がスマホからアップしたところ、5分後にページビュー数が26から30に増えた。
誰かが一気に4ページ読んだのか、新規の1ページだけを4人が読んだのかは定かではないが、読者の反応がすぐに現れるのが二人には嬉しかった。
数字だけと言ってしまえばそれまでだが、とにかく、読者の存在を実感出来るので、翔は笑みがこぼれ、ミナコは自分のことのように喜んだ。
二人で5ページ目以降の投稿スケジュールを話し合っているうちに、午後の授業が始まる時間が近づいてきた。
教室へ戻る前に、さらにページビュー数が増えたかを確認したところ、数字は30のままだが、新たに1件の感想が書き込まれていることが分かった。
4ページ目を読んだ感想なのだろうか。それにしても、早いのには驚く。
翔が、早速、感想のページを開いた。
ところが、視線が何度か画面の上を走って止まると、難しい顔になった。
「どうしたの?」
「また指摘です」
「指摘? 誰が?」
「下克上の人です」
もちろん、昨日、細かいことを感想に書いた、会員外の読者のことだ。
ミナコは、勝手に、細かいことを言う国語の先生だと思っていて、またかと眉を寄せた。
「誤字脱字?」
「それとは違います」
そう言って、翔がミナコの前にスマホを置く。
彼女は、指し示された画面へ目を落とす。
そして、一読した後、鼻から息を吐いて、腕を組んだ。
書き込まれた感想は、4ページに対するもので、長文だった。
『パンも買えない一家が、ロウソクを囲んで粗末な食事をするシーンが、おかしい。
そもそも、中世の設定なら、ロウソクは貴重品で、貴族でも夜はロウソクを使っていなかった例がある。なのに、貧乏人が何故、ロウソクを日常的に使っているのか。
あと、夜中に空中要塞へ向かって、飛行船が飛ぶ場面で、腕組みをした艦長が燭台の灯りで地図を確認するシーンがあるが、飛行船が斜め上の方向へ上昇しているから、机は斜めに傾いているはずなのに、燭台は倒れないのか? 地図は滑らないのか?
さらに、空中要塞には、小川があって、縁から水が地上に向かって落ちていると書いてある。なら、真下の大地は水浸しではないか?』
チャイムの音を聞きながら、ミナコは、ため息を吐いて立ち上がる。
「これさぁ、彼のなりすまし投稿じゃない?」
「傘行さんの?」
「そう。本文を読んでいないって言っているけど、ここまでツッコミを入れてくるの、彼しか思い付かないわ」
「でも、何も証拠はないし――」
「捕まえて、訊いてみる」
「事を荒立てない方が――」
「翔の作品に、いちゃもんを付けるのが許せないの。いいじゃん、ロウソクあったって。生活必需品は、国王の慈悲で、貧乏人にも与えられていたの。燭台だって地図だって、机に張り付いていたの。落下する水は、途中で霧になるの。世界一高い滝を見てみなさいよ」
憤慨するミナコは、教室へ走った。