16.初の感想欄の書き込み
午後8時。ミナコは、翔がアップした3ページ目をスマホで読んで、アドバイスをここまで反映してくれたことに感謝していた。
ページビュー数は、19。
もちろん、自分が1増やしているが、公園で別れたときに11だったことを考えると、一気に増えた感じがする。
宿題を終えたり、テレビドラマを観終えたりしては、サイトをチェックすると、20、22と増えているので、自分の事のように嬉しい。
午後11時に就寝したが、その後のアクセスぶりが気になって仕方なく、目がさえてきて、午前0時前に起きてしまった。
上半身を起こして、スマホを手にし、ページビュー数を確認すると、24。少しずつではあるが、着実に増えている。
たかが数字ではあるが、これが嬉しい。きっと、翔も同じはず。
あらすじを全面的に書き直したお陰かも知れない。
そう考えてニコニコしていたミナコだったが、急に目を見開いた。
(あれ? 感想欄の投稿数が3になっている。誰が書いたのだろう?)
初めて感想が書かれている。
作者は翔だが、自分がドキドキする。
ミナコは、震える指で、恐る恐る感想のページを開いてみた。
まず1件目。
『文章、だるい。あと、主人公、脳天気すぎだろ』
2件目。
『この小説、誰が主人公なのですか?』
3件目
『命の恩人に上から目線でワロタ』
ミナコの背筋が凍る。
一度、感想ページから抜けた彼女は、しばし呆然となった。
(……何、これ?)
まず疑ったのは、傘行のなりすまし投稿。
でも、彼は、「携帯小説家になるぞー」の会員ではないので、書き込めない設定のはず。
(あ、もしかして……)
翔は、「他の人の意見も聞いた方がいい」と言っていた。
それは、会員のみ感想を書き込める設定を変更して、誰でも書き込めるようにすることを指していたのかも知れない。
試しに、会員ではないミナコが、感想を書き込んでみた。
『面白いです』
書き込めた。
ならば、その前の書き込みは、会員外の可能性がある。
ミナコは、もう一度感想ページを抜けて、このことを翔に伝えようと考えた。もう知っているのかも知れないが、彼がどう思っているのかが知りたい。
深夜に電話をかけるのは失礼なので、チャットで「感想がいっぱい書き込まれている」と書いてみた。
しかし、既読にならない。
イライラしながら、小説のページへ戻ると、感想が24件になっていた。
(嘘!?)
自分が書いた後に、20件も殺到するのは、おかしい。明らかに、落書きだ。
慌てたミナコが、感想ページを開くと、
『面白いです、だとよ(草)』
『面白いです、だとよ(草)』
『面白いです、だとよ(草)』
『面白いです、だとよ(草)』
『面白いです、だとよ(草)』
『面白いです、だとよ(草)』
『面白いです、だとよ(草)』
『面白いです、だとよ(草)』
『面白いです、だとよ(草)』
『面白いです、だとよ(草)』
:
:
同じ投稿が20件、連投されている。
カッとなったミナコは、ベッドから下りて立ち上がり、翔に電話をかけた。
プルルルル……、プルルルル……、プルルルル……、
なかなか出ないので、イライラが募っていると、ガチャガチャと騒音がして、眠そうな低い声が聞こえてきた。
「……はい」
ミナコは、あまりに翔と違う声が流れてきたので、父親が出たかと焦ってしまう。それで、恐る恐る相手を確認。
「翔?」
「……ミナコさん? どうしました?」
間違いない。翔だ。
「感想欄に落書きされてる!」
「……え?」
「もしかして、一般の読者が書けるようにしたでしょう?」
「……あ、ああ、設定変えました」
「それで落書きされているの!」
「…………」
「すぐに設定戻して、落書きを消さないと!」
「わかりました。ありがとうございます」
「あのー、ごめん――」
「はい?」
ミナコは、「ごめんなさい。『面白いです』と書いたのは私」、と告白しようとした。
でも、それは試し書きだと言ってしまうと、翔がガッカリするのではないか?
「ごめんなさい、こんな遅くに」
「いえいえ。ミナコさんこそ、こんな遅くにチェックしてもらって、すみません。本当に、助かりました」
「どうなったのか、気になったから」
「ミナコさんみたいな読者に読んでもらいたいです」
「――――」
「感想欄を落書きに使うのは、絶対に許せません。相手が会員なら、問答無用でブロックします」
彼の決意の言葉が強く響いたので、ミナコはドキッとした。
普段は、頼りなさそうな翔。高飛車に出る相手の言いなりになっている翔。
しかし、今、電話の向こうにいるのは、別人のように、強い意志を持った翔だった。