1.短編の多作家
[主な登場人物]
ミナコ……ポニーテールが似合う高校二年生。アイドル、ファッション、
読書が好き。自称、文学少女。kake翔の短編のファン
翔…………ミナコと同級生。1年間で48作の短編小説を書いた実績がある。
kake翔は、投稿サイトでの彼の作者名。
初の長編小説執筆でミナコのアドバイスを得て、二人は急接近
傘行………転校生。有名作家の息子で、翔の作品に対して辛辣な批評をする
高校二年生の翔は、携帯小説投稿サイト「携帯小説家になるぞー」で短編を次々と投稿して、早1年。
その数、48作品。
1年は52週だから、ほぼ毎週1作品を投稿している計算になる。
今は、愛読書の影響を受けてファンタジーが多いが、その前はSF、その前はヒューマンドラマと、その時読んでいたお気に入りの単行本に多大な影響を受けた作品を世に送り出してきた。
彼が地道に積み上げてきた作品の全体のページビュー数――読者がアクセスしたページ数――は、さぞかし多いだろうとは想像に難くない。
だが、現実は厳しい。
全作品を合計してみると、ようやく1000に達したところなのだ。
この数字を多いと思う人もいるかも知れないが、作品数で割ると、1作品あたり20ないし21ページビューになることを考えると、誰もが、えっ? と思うほど少ないはず。
それだけではない。
彼の作品は、平均して4ページ。起承転結を意識して、意図的にそうしているらしい。
となると、1作品4ページにつき20ページビューだとして、読者全員が最後まで読んでいると仮定すると、5人しかいないことになる。最初の1ページ目で、あ、こいつは駄目だ、と思われて全員にブラウザバックされたとしたら、20人はいることになるが。
なお、自分がチェックのために、どこかの1ページをアクセスすると、サイトのカウンタは作者かどうかはお構いなしに計上するので、上記の数字から、さらに1減らさないといけない。何度もアクセスすれば、その数だけを。
翔は、この状況を悲観しているかというと、意外とそうでもない。「自分はまだ駆け出し1年目だし、有名作家でもないので、ページビュー数が低いのは当たり前」と平気で思っているのだ。
そんな彼のモチベーションを維持しているのは「小説を書くことが楽しいこと」と「自分の作品を誰かに読んでもらえるのが嬉しいこと」である。
アップしただけで、すぐにアクセスがある。
今、自分の小説のページがめくられている。
何度も推敲して時間をかけた作品が読まれている。
人に読まれる恥ずかしさはあるけれど、すごく嬉しい。
実際の読者の視線は、1ページ目の数行をなでているだけかも知れないが、彼にとっては、1ページビューの実態などは関係ない。
カウンタが1になれば、「1ページが読まれている」と考えている。
誰かが読んでくれた。彼には、それが嬉しいのだ。
普通の作者なら、もうちょっとたくさんの人が読んで欲しいなぁとか、「いいね」が増えないかなぁとか、感想とかないのかなぁとか、読者の数や反応や評価に気を揉みそうだが、彼には不思議とそれがない。
そんな静かなる作者が、ある一人の熱烈な読者と出会い、考え方が変わっていった。