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カンカンと照る太陽と、湿った風になびく白い体操服。一陣の風が深緑の木々を揺らすと、その先には黄砂のどこまでも続く校庭があった。俺と有北は白々と輝く体操服に身を包み、木陰のベンチに座っていた。小鳥の囀る声が聞こえる。梢の掠める音が聞こえる。時は鷹揚に流れ、雄大な自然は心をいやす。自然は言う。悠久の時がそこにあると。心休まるひと時は、原初の我々にあると。その大地の呼吸に身をゆだね、微睡む。朝の胸のすくにおいが鼻を抜け、体を巡り、丹田に濃縮される。気の流れを感じた俺は驚いて目を開ける。そこは、何の変哲もない、校庭があった。隣には有北が俺の肩を借りて寝息を立てている。俺は肩を揺らす。
おい、起きろ。
「ん?ああ、もう始まりかしら」
寝ぼけ眼の彼女の拠無い視線は辛うじて校庭を掠めた。彼女ははたと知る。まだその時ではないことを。
「なんで起こしたのよ。もうちょっと寝ててもいいじゃない」
なんだ。お前はここに寝るために来たのか。
「そうよ」
……はぁ、だったらお家のベッドの中がお似合いだろう。なんでわざわざ俺を呼び出してこんなところで寝る。
「なによ。悪い?」
ああ、すこぶる悪い。
「へぇ、言うじゃない」
彼女は俺の真っ向からの非難も飄々と切り抜けると、凛とした横顔で校庭を見つめる。やれやれ、こいつの耳は都合のいいことだけしか聞こえないんですかね。俺の非難も聞こえてほしいもんだ。
「アップでもしましょうか」
……お前、本当に行き当たりばったりだな。
「本当は寝るだけのつもりだったのだけれど」
そんなに批判がましく俺を見たって謝意なんかないぞ。
「まあいいわ。まずはストレッチからね」
そういうと彼女は白髪をかき上げ、黒のヘアゴムで後ろに縛り上げた。いつもツインテールしか見ていない俺だったからアブノーマル、非日常、非常套な彼女の姿を見て、不覚にも胸の高鳴りを覚えたが、ああ、これはたぶんあれだろう、異性としてのそれではなく日常が崩れ去ったことによる不安からくるものなのだろう。
「なによ」
俺は彼女を凝然と見ていたらしく、有北は当然それを訝しんだ。
いや、何も。
俺は努めて無表情に、端的に返すと、伸脚から始めた。有北がにやにやしながら俺に駆け寄ってくる。
なんだ。
「何でもないわ」
有北も伸脚をし始めた。今日は碓氷たちも誘った。さて、あいつらは来るだろうか。今日は待ちに待った法理高校の体育祭である。
お久しぶりです。うだつの上がらぬ小説家人生に気息奄々としていました。なんで僕はこんなにもダメなんでしょう。




