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「遅かったじゃない、域谷」
彼女は廃墟に持ち込まれた椅子に傲然と座り、メルティキッスを一つ放り込むと、俺を青い目で射止めた。
やれやれ、これが普通ですよ有北さん。あんたが早すぎるだけです。大体、帰りの会をすっぽかしてここに全速力で駆けてくるような真似、優等生の俺にできるわけないじゃないですか。
「あんたが優等生だったら、私は今頃伊藤忠商事の商社マンにでもなっているわ」
英語もできないのに?
「ちょっとだけならできるわよ」
Really? You say you do speak English a little? It’s incredible for me because I always overhear you sleeping on your English class.
「いえあ、あいきゃんすぴーくいんぐりっしゅ」
……はぁ、まずその発音から何とかしろ。
「ぱーどぅんみー?」
……で、今日は何をするんだ。
「そろそろほかの二つ名にも手を出したいのよね」
何言ってやがる。昨日の今日で、二つ名をゲットしたじゃないか。しかもダークホースの。
「あ、えーっと、碓氷君ね、でも、それだけじゃ物足りないわ」
物足りないも何も、あいつ、俺と張り合えるぞ。
「そうねぇ、タッチャーなんてどうかしら!」
だめだこいつ聞いてねぇ。……しかし、タッチャーか。俺はやめておいた方がいいと思うぞ。
「なんで?」
いや、何というべきかな、まあ、悪党ではないんだ。そうではないんだが――
「変わってる」
お、よくわかったな。
「私だって二つ名よ。そのほかの人の噂くらい聞くわ」
だったらなぜ――
「求心力が弱いからよ」
……おいおい、お前、どんだけ欲しがるんだ。こういっちゃなんだが、序列で見ると上から一番から四番までがここに参加しているんだぞ?まあ確かに碓氷は新参者だが、だけれど――
「あなた、知らないの?」
何がだ。
「序列が何で決められているか」
……強さだろ?
「違うわ。社会への貢献可能性よ」
……ってことは、例えばお前がお年寄りの荷物持ちをして社会貢献しているように、社会貢献すれば序列が上がるっていうのか?
「惜しいわね。能力の社会貢献度よ」
ん?と言うと?
「クリエイターなんてその最たる例ね、あの人は自分が想像できたものなら何でも作れるから序列が上なのよ。私もそうよ。未来予測なんて、いろんなことに使えるじゃない。碓氷君も、これは機関のスーパーコンピュータが測ったことだけれど、本気を出せば一瞬でこの地球上をすべて氷漬けにできるらしいわ」
そうなのか。……ん?だとしたらおかしいじゃないか。
「なにが?」
なんで俺が序列の一番上なんだ?
「……最強だからよ」
……ほう。
「二つ名を確実に殺せるのはあなたくらいしかいないわ。だから抑止力としてあなたを一番上に置いている。そういう話を機関の人から聞いたわ」
なるほど、ってことはタッチャーは5番目に、俺を抜きにすれば4番目に役立つわけか。
「違うわ」
ん?何が?
「これは機関の人の話だけれど、タッチャーは、それこそあなたと同様に役に立たないらしいの」
……となると――
「そう、抑止力よ。つまり、彼はものすごく強いの。今は5番目の序列だけれど、もし、この序列を強さ順にしたらあなたの次に来るくらいに」
クリエイターの上なのか?それは結構、いや、限りなく強いな。
「ええ、あなたがもし暴走したら止められるのはタッチャーくらいしかいないというのが機関の憶測ね」




