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夕暮れ。飛ぶ鳥の影が歩道に落ちる。家々からは夕飯の香りがする。肉じゃがの甘い匂い。焼き魚の皮の焼けた香ばしい匂い。ご飯の甘みのある健やかなにおい。自転車に乗るとそれらが頬を撫でる風と一緒に運ばれてくる。狭い歩道に憶病になった車の主が、俺の横をおっかなびっくりに過ぎていく。その後ろからは自転車の主が怪訝な顔をしながらのろのろとついていく。電線に一羽の雀が止まる。首をしきりに動かすと、カラスの存在を見つけて一声ちゅんちゅんと鳴いた。ああ、あいつはたぶんあそこにいる。俺なんかより活動家だから一足先にあそこに走りこんだのだろう。白髪の主、彼女はいまだその天性の烈しさの留まることを知らず、俺のくすんだ眼を燦燦と照らす彼女の瞳孔は、しかし海よりも深い。例えばこの世に希望という名の天使が、あるいは悪魔が降り立ったのだとしたら、彼女のようなものなのだろう。有北未来の後光に希望というものを彷彿した俺は、傾いた鉄格子の黒門を開けると、廃墟の階を上った。
短くて申し訳ありません。




