8、簡単なお仕事
声をかけられた時期からもわかるとおり、私はザコである。
対外的には、常に聖女の側に控えているので、重要そうに見えるかもしれない。
でも、やっていることは、彼女のメモ帳、不完全なウェキペ。
新参者の癖にとにらむは、お門違いだ。
なにせ黄昏れのヒトだもの。
いまはひたすら、セトさんと面会した人物(容姿)を羊皮紙に描き起こしている。
それに注釈をつける者は別にいて、その他、私が記憶しているのは、件の禁書庫の中身に限られる。
セト聖女は、意外に用心深い。
人というものの性質、その限界を承知している。よいことだ。
だから、茶会で参加者の素性を彼女にささやいている秘書が、他陣営の人間でも驚きはしない。
聖女だけに許された場所へ、私がどう理由をつけて出入りするか悩むまでもなかった。
身分ある人物が一人で行動する時、必ず二人や三人付き従うのが当たり前の世界なのだから。
けして詳しくはないのだけど。
前世界であれば、聖女は教会の管轄であったように思う。
こちらでは、誰かが認定しなくても、称号というものがある。
まして今回の召喚は、王家主導で行われた。
現在の陣容を大雑把に言うとこうだ。
年嵩の聖女は教会の総本山に居を移し、変容した教えを正そうとしている。
年若い聖女は、民衆の味方をしているつもりで、一部の貴族に利用されている。
セト聖女は、いまのところ王家に従っている。無難でよい。
王制とはいえ王家一強ではないし、その上、一枚岩ではないけれど。
セトさんは冷静だ。
そもそも、私に難しいことなど考えられるはずもない。
彼女が王家に同情しすぎて、もしもの時に縁を切れないなんてことにならなければ、それでよい。