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7/10

7、勧誘


 三十代中頃と見える彼女は、よい感じにくたびれはじめている。

 特別美人ではないが、不美人でもない。

 中肉中背。人好きのする笑顔。

 笑う時はきちんと笑い、真面目な話をする時は真剣に見える目。

 声は高すぎず低すぎず豊かに響き、話すテンポも心地よい。

「はい。よろしくお願いします」

 要はすでに、派閥争いが始まっていて、自陣への誘い。

 セト・アヤカさんは、即決した私に、驚いていたけれど。

 どの道、どこかの樹の陰に寄ることになるだろうとは思っていた。

 なにせ、ここは自国民であれば最低限保護してくれる日本ではない。

 家族はいない。私を絶対的に必要とするような強力な取引相手もいない。

 権力に近付きすぎれば、また別の危険もあるだろうけど。

 そんな隕石にぶつかる確率よりも、簡単に生活基盤をひっくり返される可能性が高すぎて怖い。

 五百人強いる異世界人は、広い意味では同郷だが、はっきり言ってバラバラだ。

 求心力があるのは三人の聖女。

 なんといっても、いまいるこの国が後ろ盾になっているのだから。

 でも、そのうちの一人は年若く理想に燃え、もう一人は老境に向かい凝り固まっている。

 私の勝手な想像だけれど。

 どれだけ長く付き合おうが、理解できないのだから同じこと。

 いま、目の前にいる人が、良いように見えるなら、それでよいではないか。

 同じ日本人というのもポイントが高い。

「何か、私に求めることはありますか? アケチさん」

 こうやって年上の私に気を遣ってくれる。

「そうですね。求められればいろいろ意見は言いますが、ボスはあくまであなたです。セトさんが思うように取捨選択してください。それによって、私が恨みに思うことはありません」

「お気遣いありがとうございます」

 責任転嫁とも言いますけどね。

 早速ですがと頼まれたのは、教会の禁書庫の所蔵品すべての完全記憶だった。

 いつの間にか、異世界にまで進出している旧教には恐れ入るが、すべての物事は変容していく。

 その差異を把握するという名目で、三人の聖女に一日ずつ、禁書庫が解放される。

 書き写すことは不可。それでも私の出番。

 そうそう。

 フランシスが味方していることも、彼女を選んだ一因ではあった。

 私のコネなんてそれくらいしかないのだ。



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