6、呼び出し
「ようこそ、アケチ嬢。突然、呼び出してすまないね」
気取った貴族のあいさつをしてみせるフランシス。
おひけいなすってとサブ音声を入れたくなる。
足はガニ股ではないけれど。
「お招きいただきありがとうございます。マロー卿」
こちらこそガニ股でごあいさつ。いわゆるプリエだ。
その昔、クラシックバレエを習っていたって言ったら信じる?
「最近、どう?」
「だいたい手紙に書いた通りよ。なんとかやってるわ」
義務は果たしたと言わんばかりの、砕けた態度がありがたい。
今日、私が城に来たのは、表向きは写本の仕事があるからだ。
従僕の案内で、城内の図書室に向かう。
ちょっとした体育館くらいのスペース。
本がまだ貴重であることを考えたら、大変な蔵書量ということになるのだろう。
飴のように捻じれた黄金の支柱。ずらりと並んだ革張りの背表紙。
装飾は文句なく素晴らしい。
もちろん持ち出しは厳禁で、閲覧にも許可が必要だ。
その知識を所有したければ、書き写すしかない。
司書と従僕が、フランシスが希望する本を積み上げる。
私が片っ端から書き写す。
やはりというか、なんというか。
女神や精霊、挿絵の美しいものが多い。
途中、休憩時間にお茶をと庭園に誘われた。
待っていたのは聖女の一人。
これが、本来の依頼というわけだ。