5、戦闘訓練とペン
懐にも心にも余裕ができたので、戦闘訓練を受けることにした。
なにしろ、城壁から一歩外に出れば、魔物に遭遇する世界だ。
同じ教会にいるもう一人の異世界人は、フルーレの強化選手だったそうで、見るからにシュッとしていて格好がいい。
ナタリー・シンクレール。
ステータスは不明。
「う~ん。塀に沿ってランニング十周。軽くこなせるようになったら、もう一回声かけて」
十代後半の彼女は、私をおばさん扱い。事実なので腹も立たない。
彼女自身、毎日木剣を振って努力している。
「対人戦ならと思ったけど、あの金属鎧相手じゃ~ね」
魔物相手ともなればなおさら、槍で突いたり、鈍器でぶっ叩く方が有効らしい。
毎日へろへろになるまで走り、何百回となく木剣を振らされていれば、新しいスキルも生えようというもの。
最初のうちはぶるぶる手足が震えて、ペンを持つのに差しさわりが…と思いきや、さすがはスキル。自動書記。
終わればぷるぷるしてるけど。
どうせ震えているのだからと、井戸との間を行き来して、風呂を沸かしていたら、薪の無駄遣いだと文句を言われた。
自腹を切ってもよいけれど、毎日となると馬鹿にならない金額だ。
森で拾ってくることも考えたが、魔物の存在がネックになる。
先日写した図鑑によれば、森のとば口や、それに至る草原に出没するのは、スライム、ホーンラビット、ゴブリン。
定番らしい。
どうしたものかと唸っていると、ナタリーが護衛を引き受けてくれた。
そう。彼女も、毎日風呂に入りたかったのだ。
すでに冒険者登録なるものを済ませているそうで、依頼を出すために私もそこへ連れて行かれた。
冒険者ギルド。
「どうせだから、あんたも登録しちゃえば?」
ギルドカードは身分証になる。お金を預け入れて、他の地域のギルドで引き出すこともできる。便利。
ただ、一定期間依頼を受けずにいると失効してしまう。
早まったか?
しかし、よくよく見れば、代筆の依頼なんかもある。
取り急ぎ、こちらの言語を学び始めた。
この歳でとも思ったが、はじめてみれば新鮮。気分がよい。
言語理解のおかげで、教師いらず。覚えも早い(前世界比)
若かりし頃とまではいかないものの、そこそこ体力がつき、スライムを叩きつぶせるようになった頃。
インクカートリッジ付きの金属ペンが手元に届いた。
それなりに厚みのある羊皮紙は、書き損じた箇所を削ればよい。
それでも、写本の仕事をしていると、一度に一、二枚、余分に手に入る。
召喚初日に知り合ったフランシスは、ミドルネームのおかげで貴族扱いされている。
試しに、二次元美少女の挿絵を模写して、彼が居候している城当てに送ると、快く新しいペンの開発を引き受けてくれたのだった。