4、内職
召喚と言いつつ、つまりは誘拐されたわけだけれど、死ぬところを助けられたことも事実。
最低限、生活も保障してくれるということで、帳消しだろうか。
唯一の心残りは、ハルを埋葬してやれなかったこと。
でも、いまさらどうしようもない。
不治の病だった人たちも、世界を渡る過程で健康体になった。
むしろ、この三人の本物のシスターたちに聖女の称号が付いており、その他大勢はお役御免。
二、三人ずつ、教会や修道院に預けられた。
寝泊まりする四畳ほどのスペースにあるのは藁のベッド、机、椅子、水差し。
黒パンとスープの簡素な食事。やるべきことは、水汲み、お祈り、畑の手入れ。
とってもシンプルな生活だけれど、生きていくことはできる。
このままここで過ごしてもよいし、手に職をつけて他所で暮らしてもよいと言われている。
週に一度やってくる、アドバイザー的な人。事務的ではあるが、それなりに親切。
たぶん、私たちを監視する役目も担っている。
聖女ではなくても、それなりに役に立ちそうなスキル。
そりゃ、うまく育てば、有効に使いたいだろう。
個人的には、相応の対価を払ってくれれば文句はない。
前の世界でいえば、中世くらいの生活水準。
印刷機などまだ発明されていないから、私のスキルは重宝がられた。
プリンターのごとく、絵まで詳細に描けるのには自分でも驚いた。
最初は加減がわからず、失敗もしたけど。
ぽちゃっ、たりたり、シャシャシャシャーっと、インク壺と羊皮紙を行き来する羽ペン。
操る自分の手が自分のものではないみたい。
かなり不思議で楽しい。ついでに、こちらでは貴重な本も読めるから飽きない。
でもやはり、カートリッジは欲しい。
こちらの物価の低さを考慮に入れれば、お給金は以前の倍だ。
ヒャッホ~!