雪だるま
何となく思いつきました
「——嫌なことがあったら、雪だるまを作ったらいい。そして、その雪だるまをお日様の良く当たるあったかい場所に置いておくんだ」
小学校に上がる前の冬に死んだ祖母の口癖だった。
それから、私は雪が積もっているときに嫌なことがあったら、雪だるまを作るようになった。
友達とけんかして自分だけ怒られたとき。
頑張って勉強したテストの点が少し悪かった時。
親と進路のことでもめてしまったとき。
祖母曰く、雪だるまは嫌なことを受け持ってくれる形代のようなものであるらしい。そして雪だるまに込めた嫌な気持ちを太陽が溶かしてくれるとのことだ。小さいときは意味も分からず——意味を理解した今となっても信じてはいないまま、私は雪だるまを作り続けていた。
形代などなんだのは信じていなかったが、雪だるまを作り、日当たりの良いところで溶けていく様子を眺めることは気持ちよかったからだ。一年の内、雪が積もっているわずかな間しか実行できなかったが、ストレス解消にはちょうど良かった。
ただ、祖母はあのセリフの後、まだ何かを言っていたような気がする。
高校2年の冬、朝起きた私は学校から帰ってきたら雪だるまを作ろうと決心した。前日の夜から雪が降り始め、朝起きたら数センチ分は積もっていた。今までも少し雪は降ったが、雪だるまが作れるほど積もったのは今年初だ。
ちなみに私は今、学校でいじめにあっている。
理由としてはくだらないもので、一か月ほど前に隣のクラスの人気のある男子の落とし物を拾い、本人に届けて感謝されたことを、彼のことを好きなスクールカースト上位の女子に見られ、一方的に敵視されたということだ。
最初は無視や陰口だけだったが、モノを隠されたり傷つけられたりしてきたため、親と教師に即刻相談した。親はすぐに信じてくれ、教師も親とともに乗り込んで証拠を見せたら動いてくれた。
親は解決するまで学校に行かなくてもよいと言ってくれたが、あいつのせいで学校を休むのは嫌だし、証拠を増やすためにも通うことにしている。
今回の雪だるまにはこのいじめのストレスを込めるつもりだ。一応、解決に向けて動いてるとしても、ストレスは溜まっている。ちょうどいい機会に雪も降ってくれたものだ。
今日からテスト一週間前ということもあり、学校から早く帰ってきた私は荷物を玄関に置き、家の前で早速雪だるまを作った。
午前中に再び雪が降ったため、雪はかなり積もっていた。私は徒歩で通学できる距離の為、何とか家に帰れたが、電車やバス通学の人は大変だろう。
そんな雑念も少し入りつつ作った雪だるまは、非常に大きくなった。おそらく過去一番の大きさだろう。
——もしかしたら、私のストレスが過去一番だからだろうか。そんなことを考えながら、試験勉強をするべく、家の中に入った。
外が騒がしくなったのは1時間ほど後のことだった。
一度救急車の音がした後、外がだんだん騒がしくなってきた。
何かあったんだろうかと思いつつ、ペットの犬に餌をあげていると、家のチャイムが鳴った。
「すいません。○○署のものです」
家の外に出ると、そういわれた。二人組の警察官がいた。よく見ると家の周りにはご近所さんが何人かたむろっていた。
「何かあったんですか?」
玄関まで警察官を招き入れ、質問すると、片方の人が答えてくれた。
「△△高校のA山B子さんがこの家の前で急に倒れられて救急搬送されました。不審な点もあるので、事情聴取にご協力ください」
その名前を聞いて驚いた。私をいじめている奴の名前だったからだ。
警察官は私から少し話を聞くと帰っていった。彼女にいじめられているということも正直に告げたため、疑ったような眼を向けられた気もするが、まあしょうがないだろう。
警察官を見送るため、家の前まで行くと私の目にあるものが映った。
それは、1時間ほど前に作った雪だるまが無残に壊されている様子だった。
その瞬間、祖母の口癖の忘れていた部分を思い出した。
「でも、作った雪だるまを絶対に壊してはいけないよ。もしも壊したら、大変なことになる。ちゃんとお日様が溶かしてくれるのを待つんだよ」
そのセリフを思い出した私は怖くなり、家の中に駆け込み、犬を抱いて布団にくるまった。
二日後、いじめっ子は死んだ。母が聞いた話によると、彼女はは気が狂ったように叫びながら、死んでいったようだ。
髪は恐怖のあまり、雪のように真っ白になっていたらしい。
これは私の想像に過ぎないが、雪だるまに込めた負の念のようなものは太陽にゆっくりと浄化されるのだろう。
その前に雪だるまを壊してしまうと、暴走した負の念が壊した人に襲い掛かるのかもしれない。
これからの人生、雪は何度も積もるだろう。しかし、このことに気が付いた私はもう、雪だるまを作ることはおそらく、無い。
ちなみに、主人公の家にいじめっ子が行ったのは、電車が止まり、暇だったため家を突き止めて、いやがらせでもしてやろうと思ったからです。
それで雪だるまを蹴り砕き、あんな目にあいました。