表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユグド・クロニクル〜旅の果てに〜  作者: 森信介
第二章 〜夢に見る憧れの騎士〜
8/108

第8話 〜約束破りの願い事〜

8話目です。更新頑張ります♪

♦︎オリワの街 アイレスト家【シオン・アイレスト】


 トントントントン。


 階段を降りリビングへ向かうと、見知った三人が各々の家事、趣味、仕事をこなしていた。


 一人目は台所で朝食を作り家族の事を第一に考えてくれる母さん、二人目は椅子に座り鍛冶屋新聞(ニュースブラックスミス)を広げて食い入る様に読む父さん、その隣に眼鏡をかけアクセサリーの細部を手直しする三人目、キヨがいた。


『父さん、母さん、キヨ、おはよう』


汐音(シオン)、おはよう」


「「……」」


 母さん以外は反応無しか……とりあえず、


『父さん、面白い記事あった?』


 鍛冶屋新聞(ニュースブラックスミス)への入れ込みようが凄いので面白い記事があったと予想し父さんに聞いてみた。

 すると挨拶には無反応の父さんが紙面から顔を覗かせる。


「ああ! あるぞ! 東の地エルランドで一級品のレアメタルが出る鉱山が見つかったらしい……だが問題もあってなーー」


『問題?』


「ーー丁度その鉱山が国境(くにざかい)にあるせいで所有権を巡ってのいざこざが起きてるみたいだ。かなりの規模の鉱山だからなぁ……戦争にならなければいいんだが」


『戦争かぁ……』


 良質資源の奪い合いはよくある事だ。だが今回は面倒な場所で面倒な物が見つかってしまった。

 東の地【エルランド】は【オリワの町】からそう遠く離れていないし、もし戦争になればこの町にも被害が少なからずあるだろう。そうなったら俺がみんなを守らないと! でもまぁ今はそんな事より。


 心配をしながらも、俺は良質な鉱山の情報に興味が湧いていた。


『父さん、一級品のレアメタルってどのくらい凄いの?』


「そうだなぁ……レアメタルにも硬度(グレード)があってな、お前に作ったグラディウスがあるだろ、あれは硬度(グレード)Cくらいのレアメタルで作れる。それで今回見つかった鉱山からは硬度(グレード)A〜Bクラスのレアメタルが出るらしい」


『グラディウスでCクラスなんだ……かなり良い性能だと思うんだけど』


「まぁそうだな。普通のハンターや旅人、賞金稼ぎ辺りならCクラスの鉱石で作る武防具で十分だ。Bクラス以上は上級騎士や金持ち貴族が好んで使うのさ。だから高値が付く。Bクラス以上ともなれば硬度が高い上に軽い、耐久性もCクラスに比べると格段に良くなる。Bクラス以上は正に宝石なのさ!」


 熱く語る父さんがウズウズしている。

 その姿は、今にも鶴橋(つるはし)と特大の(カバン)を持って鉱山に行くのではないかと言う雰囲気を醸し出していた。

 母さんは、それが心配で新聞を見せる前に注意をしたようだ。


 そんな中、もう一人の鍛治バカを思い出す。


『これを見せたら姉ちゃんも大変な事になりそうだな』


 隣で母さんが頷く。


「絶対そうね……汐音(シオン)、二人して鉱山に行くって言い出したら止めるの手伝ってね。お父さんがコレじゃミシェルも酷いことになりそうだから……」


『ーーああ、わかったよ、母さん』


 俺は母さんの味方だ。家にじゃじゃ馬が二人もいて、その二人が結託して行動するのだ。

 流石に母さん一人で手綱(たづな)を握るのは難しい。キヨに助けを求めても予定が詰まりすぎて手伝うどころか逆に手伝わされるハメになる。


 父さんと話していた母さんが不意に話を振る。


「そういえば汐音、戦士学校の試験は明日だったかしら?準備とかはもう済んでるの?」


 やべ、すっかり忘れてた。


『あーまだしてないや。受験票と武具と後なんだっけな……』


 戦士学校の試験は明日に迫っていた。申し込みは何時したのかと言うと、試験シーズンに各地の村や町を見回りに来る騎士団員に申込書を渡すと、その場で受験票が貰える。後は当日の試験に持っていくだけだ。簡単である。俺はウェアウルフ討伐の次の日に慌てて書いた。


「きちんと準備しておきなさいよ。いつまでも母さんに心配されている様じゃ、立派な騎士なんてなれないわよぉ」


『そらくらい、わかってるよ母さん』


 母さんの小言に少し膨れっ面になる。

 最近は同じ事を何度も言われると腹が立ってしまうな……これが反抗期というやつなのかもしれない。


「おーそうだ。シオン、ついにドラブレイアスの鱗が第四工程まで進んだぞ。レッドウルフの爪のお陰で第二、第三工程はすごぶる順調だったぞ!ありがとなシオン!」


!!!


 モヤモヤが吹き飛ぶ。噂のウルトラレア素材の加工が着々と進んでいる様だ。


『おー! 第四、第五工程が済めば、遂に武防具への加工に移れるじゃん! 父さん、それで武器にするの? 防具にするの?……あ……防具にするには量が足りないか』


『その話なんだが、実はな……』


 その顔を見て俺は察する。これは何か頼み事をする時の顔だ……いつかの素材集めもそうだった。父さんは真顔になり一呼吸置いてから話を始める。見慣れてくると直ぐにわかる。


 だが今回は少し違っていた。真面目な顔の父さんが少し歪み、気不味い顔に変わり話し出す。


『あー、言い難い事なんだが……あの日、レッドウルフの爪と一緒に持ってきたウェアウルフの黒爪と激黒爪があるだろ……あれをな……ドラブレイアスの鱗の加工に使わせてくれないか……シオン頼む!』


 話し終えると同時に父さんが頭を机に付けて頼み込む。

 俺は開いた口が塞がらない程のショックを受けていた。


『えーーー!!! ちょ、ちょっとまって!! 黒爪で新しい武器作って欲しいって話したじゃん!!!』


 ウェアウルフ討伐から二週間ほど経ったであろうか……激黒爪はウェアウルフが激昂状態(げっこうじょうたい)の時にしか取れない素材でレア度も高めだ。

 ウェアウルフの黒爪よりも強度、耐久性が上なので武器への加工に適している。

 しかし、父さんは渡された黒爪と激黒爪に手をつけず保管していた理由はドラブレイアスの鱗の工程に必要だったからだろう。


 怒りを露わにする俺を見て取り繕う様に父さんが話し出す。


「武器を頼まれながら取り掛からなかった事は本当にすまないと思ってる。前に加工の件で話した事、覚えているか?」


『確か、レッドウルフの爪じゃ対応できないかもしれないって奴でしょ』


「ああ、そうだ、第四、第五工程の加工にレッドウルフの爪じゃ対応できない。本来なら行商やオークションに出回る物を購入して鍛えようと思っていたんだが。この一週間どこにも良い素材が出回らなくてな。お前が持ってきた激黒爪を見た時、もしもの事を考えて加工せずに置いておいたんだ」


『……』


 あきれて物が言えない。戦士学校の試験までに武器が出来ると考えていただけにショックも大きい。

 けれど、どうするべきか……


 その時、思わぬ条件が提示された。


『タダで激黒爪を使わせてくれとは言わない。もし使わせてくれるなら、ドラブレイアスの鱗でお前の剣を使ってやる』


『なっ!!』


 ……え? 今なんて?? 俺は何か聞き間違いをしたのか? え? もう一回今の言葉を確認だ。俺の武器を作ってくれるって!? 本当なのか。


『と、とうさん、それは、ほ、本当?』


 ドラブレイアスの鱗の話を聞いた時、これで武器を作って欲しいと、どれだけ思った事か。それが正に現実になろうとしている。


 興奮のあまり頭がおかしくなる。


 ド、ド、ドラブレイアスの鱗で俺の武器を作ってくれる??? それってウルトラレア素材の武器ぃぃぃぃぁぁぁ!!? 嘘だろ! マジかよ! これは夢!?


 歓喜に震える。


 俺の運使いすぎていないか? 大丈夫か?

 驚き過ぎて声が出ない。

 父さんも俺の顔を見て困惑しているようだ。


『ど、どうだ? 悪くない提案だろ』


『よ、よろこんで〜』


 その一声が父さんの心を燃えたぎらせる。両手で机を叩き、そして、立ち上がる。


『よしきた!!! 交渉成立だ!!!』


 階段の下まで行き、二階の部屋で寝てるであろう姉ちゃんに大声で呼びかける。


『ミシェーール!!!!! 起きろ!!!!! シオンとの交渉が成立した!!!! 今日から第四工程の加工にはいるぞ!!!!!!!』


 響き渡る声に反応したのか二階から大きな音が聞こえた。


ドーン!ドタドタドタドタ……ダダダダダダ



 階段を降りて現れたのは酷く寝癖のついた髪に、はだけた服、動きやすそうな短パン姿の姉ちゃんだった。


『パパ! それ本当!? きゃー!!シオン!! ありがとう!!!』


 父さんに確認を取り、喜びのあまり俺に抱きつく姉ちゃんの目はメラメラと燃えていた。

 父さんの方は目と体もメラメラメラメラと燃えているようなオーラが見えた。


 流石鍛治馬鹿と心で罵りつつ、自分の武器には協力を惜しまないのでさっそく手伝いにかかる。


『父さん、今日は欲しい素材はある?』


 髭を触り、上目で考え込む父さん。


『特にないな』


(よし!本日は仕事なし!)


手伝う気は満々だが、やる事が無ければ仕方がない。明日のために休みを取るのが良い。


『じゃあ、のんびり羽を伸ばしてから明日の準備をしようかな』


 明日は王都アオニウブの戦士学校で試験が行われる。戦士学校は城から少し離れた場所にあって、大きな敷地に幾つもの建物が立ち並ぶ。昔、一度だけ入った事がある。敷地内に学校、図書館、実戦稽古が出来る闘技場、専門の鍛治職人、モンスター収容所、他にも沢山の設備があり騎士を目指す上では最高の環境なのだ。


 入学できる定員はあるかって? 人数は定められていない。全員合格にもなるし、不合格にもなる。実力次第という奴だ。


『オニイ、今日暇なら私の仕事手伝ってよ』


 今まで全く口を開かずに黙々と作業していたキヨが珍しく俺に手伝いを求める。これはかなり珍しい事だ。

 キヨは自分の事は自分でやる主義なので頼まれる事は滅多にない。逆に頼むことも無い・・・断られるから。


『珍しいな、キヨが俺に手伝いを頼むなんて』


 少し不貞腐れた顔でキヨが事情を説明し始める。


『今日さぁ宝石の仕入れを任されてるんだけど、荷物持ちの子が昨日の仕事中に熱で帰っちゃって、荷物持ちがいないのよね。結構頼まれてるから、一人で持つにはちょっと大変なの。だから、オニイが暇なら手伝ってよ』


 暇といえば暇か……キヨは体を鍛えているのに、重い物を運ぶのは苦手みたいだな。しょうがない、たまには力を貸してやるか。


『しょうがないな。用事があるから、それまでだぞ』


 指を「パチン!」とならしキヨが喜ぶ。


『やりぃ! ありがと! オニイ! じゃあ後三十分後の八時に出発するから準備しておいてね!』


『了解』


 慌てて部屋へと走っていくキヨの姿を見ながら俺も準備の為に部屋に戻るのだった。




※レアメタルはSクラス〜Eクラスまである。

Sクラス 価格 キロ 100万ガルドぐらい


国王、騎士団長、大貴族


Aクラス 価格 キロ 50万ガルドくらい

使用者例

上級騎士、中・下級貴族、ギルドマスター


Bクラス 価格 キロ 10万ガルドぐらい

使用者例

中級騎士、ギルドサブマスター


Cクラス 価格 キロ 5万ガルドぐらい

使用者例

中・下級騎士、一般戦士


Dクラス 価格 キロ 5千ガルドぐらい

使用者例

一般市民


Eクラス 価格 キロ 500ガルドぐらい

使用者例

一般市民

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ