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ユグド・クロニクル〜旅の果てに〜  作者: 森信介
第一章 〜始まりの場所〜
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第7話 〜真言霊と必殺技〜

やる事のない休みの日は沢山書けるので良いですね♪17話くらいまで進んでるので、清書しながら順次上げていきます!

 大樹の精神世界 【シオン・アイレスト】



 やっと……やっとだ。 

 やっと必殺技を教えてもらえる。


 俺は高揚する気持ちを押さえ、シルの前で両膝を抱えて座る。技を教えて貰うならコレくらいの姿勢は必要だと思ったからだ。

 そんな、俺を見ながらシルが口を開く。


「シオン、【ユグド】はあるな?」


『うん、あるよ』


 シルの言葉に俺は【ユグド】を使った合体技なのかと思案する。そして話の続きを心待ちにしていると、目を閉じたシルが軽く咳払いをした後、話始めた。


「今から教えるのは【ユグド】を発動した状態で使える必殺技じゃ……名を【ミルズ】と言う」


『必殺技!……【ミルズ】!! なぁ、なぁ! じじぃ! それって、どんな技なの!?』


「うむ……今からそれを説明するから少し落ち着くのじゃ!」


『はい!』


 シルはゆっくりと説明を始めた。その内容はこうだ。


 【ミルズ】は緑・の・力・、いわゆる自然の力を集めて攻撃や防御に転用できる。一度目の詠唱で緑の力を集め、二度目の詠唱で集めた力を発動する。

 フルチャージにかかる時間は樹海ここで五分程度、じじぃ曰く五分っての早い方らしい。


「と言う訳じゃ! 凄いじゃろ!!」


『……』


 話し終えたシルは技の凄さを誇るように胸を張った。

 その姿を見る俺は言葉を失い、体がワナワナと震え出す。


『どうしたのじゃ? 待ちに待った技じゃぞ』


 俺の姿を見て不思議に思ったのかシルが首を傾け声をかけて来た。

 確かに、さっきまで目を輝かせていた俺が態度を急変させれば不思議がるのも無理はない。でも、この反応を取るのは当然だ。だって、コレは違う……だってコレはーー、


『じじぃ! これは必殺技じゃない!!これは……これは……言霊コトダマだよ!!!』


 待ちに待ったはずの技が、言霊コトダマだったと言うショックに耐えきれず、俺は思いの丈をシルにぶつけた。


 確かに言霊コトダマとしては間違いなく優秀だ。今の俺に出せる最強火力は【力マキシス】と【速力クイック】と【ユグド】の強化を掛け合わせた攻撃……それに加えて力を収束させた【ミルズ】が加われば、今よりも二、いや三倍の威力を出せるかもしれない。だけど……俺が求めていたのは違う……少し違うんだ。

 本音を言えばゲイルのア・ロ・ン・ソ・流・みたいな型式がある技が良かった。『君の流派はどこ?』って聞かれて『◯◯◯流だよ』って言えたら、どれだけカッコいいか……たとえ、流派の名前は知られてなくても構わない。自分が強くなれば知られていくから……だけど言霊コトダマは……言霊コトダマじゃ俺の願いは叶えられない。だって、言霊と必殺技じゃ俺にとっては別物なんだよ。


『俺の二年間が……ぐは』


 俺は落胆のあまり膝を折り地面へと倒れ込んだ。


「シ、シオン! どうしたのじゃ!? 何があったのじゃ!?」


 嗚呼くそ、じじぃは何も分かっていない、だから説明するべきなのだろう。けど悪気わるぎの無いじじぃに、この事を伝えるのは心が痛むな……


 悩みんだあげく最終的にシルに伝えた。





「そうかそうか。技と言うのはそうゆう事か。その概念は無かったのぉ」


『ですよねぇ……』


 技と後継者って言葉に完全に騙されたな……嫌、騙されたと言うよりも俺が確認しなかった事が悪いんだ。だから、俺がじじぃに文句とか言うのはチョット違うよな……ハァ、でも、これは本当に凹むな……今日の修行はここまでにしてもらうか。


 落ち込みため息をついた俺はシルの方へと顔を上げる。すると何か思いついた様子のシルが手を打ち鳴らした。


「おお、そうじゃ!ある、あるぞ! 名前などつけておらんが、この言霊コトダマを使って出来る技が一つあるぞ!」


『え!? マジで!?』


 体がビクッと震え、俯いた俺の顔が上を向く。そしてシルの言った言葉を頭の中で噛み砕く。


 言霊コトダマを使った技がある!? ってことは、ソレは正に必殺技!


『師匠、教えてください!!!』


 全身全霊の懇願だった。

 俺は地面に頭を擦り付け、シルに頼み込む。それを聞いたシルはジーッと此方を見つめながらーー、


「ほっほっほ!都合が良い耳じゃのぉ。しょうがない【ミルズ】を覚えてからなら教えてやらんでもない……即席流派『夢想流』を!」


 気分が良くなったのかシルは笑顔で快諾した。


 顔を上げると腕を組むシルのドヤ顔が目に映り、俺は少しだけ苛立ちを覚えた。あと思うところは流派の名前だ……即席と言うくらいだから今考えた名前だろう。でも、文句は言わない。あの顔には苛立つけど、技の伝授を断る理由は無い!! さっきまでの出来事は全て水に流すぜ! だから教えてくれ! 師匠! さぁ、lets learning!


 そして、修行が始まる。


「では、始めるとするかのぉ……シオン、手を出すのじゃ」


『手?』


 ゆっくりとシルが手を伸ばす。俺に向けられた掌に向けて俺も掌を近づける。

 まずは【ミルズ】の言霊を受け継ぐ所から始めるらしい。俺の掌がシルの掌に重なり、シルの手に淡い光が宿る。直後、俺の掌が反発しシルの掌と距離が開き、その間に緑の文字が現れる。


「これは言霊コトダマの中でも稀にしか存在しない種類でのぉ、真言霊ミコトダマと言うのじゃ。この真言霊ミコトダマは特殊でのぉ、使い続けても壊れる事がないのじゃ」


『え?……壊れない!? それって最高じゃん!』


「最後まで話を聞くのじゃ。この真言霊ミコトダマは連続して使う事が出来ない……だから壊れる事がないのじゃ。一回使えば、七日間使えなくなる。威力は凄いが使い所が難しいのが難点じゃ。まぁ七日も使えなくなる言霊コトダマは、この【ミルズ】の他に余りないが……」


『なるほど……壊れないのは良いけど大分使い難いなぁ……』


 威力が絶大で使い放題の言霊コトダマ、なら俺は最強の騎士にもなれただろう。でも、そう上手くは行かない。何事にもメリット・デメリットがあるし、今回の【ミルズ】で言えばデメリットの方が大きいか……


『言霊コトダマの枠が一つ消えるのか……』


 俺の考えるデメリットは言霊コトダマの枠が埋まる事だ。

 言霊には保有制限があり、今の所、俺は六個しか言霊を取り込めない。

 以前七個目を取り込んだ時、体が拒否反応を起こし、目眩や嘔吐など酷い状況に陥った。ただ、自身の成長に合わせて保有量が変わるから今後増えて行けば問題はないのだが。


「まぁ、そうなるのぉ……じゃがなシオン、この【ミルズ】はいつか必ず役に立つ。普段は使いにくい荷物になるかもしれん。じゃが、その時が来ればわかる……だから、それまで大事に使い、自分なりに昇華させるのじゃ」


『……わかった』


 元々、断る気もなかったがシルの神妙な言葉と表情に何か大事な事なんだと思った。

 返事の後、シルは優しく笑った。そして言霊コトダマに触れる手をゆっくり離すと俺の手に残った言霊コトダマが輝きを放った。


 受け継ぐ覚悟を決めた俺はその言霊コトダマの名を唱える。


『【ミルズ】』


 唱えた瞬間、掌から腕へと緑の文字が解け絡まり消えた。


「では、使ってみよ。先程一回使えば七日は使えないと言ったが、この空間ではそれは適応されん。存分に練習するのじゃ!」


『OK!練習開始だ!』


 おっしゃぁぁぁぁぁ! やったるでぇぇぇぇ!! その後の夢想流もよろしくねぇぇぇぇ!!!



 心の中で叫び、俺は練習に励むのだった。





『ハァハァハァハァ!』


 俺は両手を膝について大きく息を吐く。


 あーキツい! 息が切れる。体が重い。何発か使って【ミルズ】の威力が凄いのはわかった。だけど狙いが定まらない。発動すると動きが阻害され、力が暴れだすから制御が全く出来ない。


『やはり今はまだ無理そうじゃのぅ……シオンの持つ力が足りとらん』


 俺の様子を見ていたシルが言う。


 内包する力が足りていない、簡単に言うと命の水が……命の水によって向上する力、反応速度、敏捷性、諸々が足りていないのだ、と。

 暴れる力の向きを目で読み取り、力と動きで修正する。その他にも慣れが必要だとか。【ミルズ】を数使う事で体が順応していくらしい。でも実際の体で無いと効果はないので今は全くもって無意味。

 とりあえず、この空間での修行は技としての形を模索し頭に染み込ませる事が目的みたいで、今の俺は発動時の挙動を少しでも把握する事に注視して練習に励んでいる。そうすれば、実体の時に少しは役に立つ……はずなのだが……大丈夫かコレ。


 俺は数を重ねるごとに不安になっていった。


『なぁ、じじぃ。これって本当に役に立つのか? 制御が鬼難しいすぎるんだけど』


 額には汗が流れ不安になる気持ちを隠し黙々と練習を続ける。


「うむ、いつか必ず役に立つ。大丈夫じゃ、わしの言葉を信じるのじゃ!」


 胡散臭せぇ……けどまぁーー、


『とにかく練習あるのみだな。じじい、今日も実戦やるの?』


『もちろんじゃ、実戦に勝る修行はないからのぉ。【ミルズ】も使って良いぞ!』


『もちろん、そのつもりだよ。これで、じじぃをぶっ飛ばしてやるぜ!』



 俺は実戦の前に休憩と作戦を立てておきたいと考えていた。今日の練習は普段の倍疲れる内容だったのとウェアウルフと戦った事で精神的にもだいぶ参っているのだ。


『実戦前に少しだけ、休憩してもいい?作戦も考えたいし』


『ふむふむ、いいじゃろう。そうじゃな残り一時間程じゃから三十分休憩の後に始めようかの。あぁそれと、お主の欲していた技は実戦で使ってやるわい』


 最後の言葉に驚き、喜ぶのも束の間、初見の技への対応を考えなければならない事に嫌気がさす。未だ初勝利を挙げられない俺に、戦いの難易度を更に上げる発言をしたシルを睨みつける様に言った。


『その言葉わすれるんじゃないぞー!』


『ほっほっほ!忘れぬ忘れぬ。使う前にお主が負けなければのぉ!』


 くそ! 嫌い所をついてきやがる!!


 俺は体を休めながら、前回を思い出す。

 前回の修行では隙を作る為の動きを怠り、放った大技は躱された。その後は変速の斬撃打突によって体勢を崩され隙が出来た所を狙われ負けた。今回はあの動きにも注意が必要だ。加えて新しい技も使ってくる……ヤバいな、考えること多すぎる。頭から湯気がでら様な気分だ。


 ダメだ!考えすぎるのは、俺には難しい!シンプルに行こう。


 変則斬撃打突は左右の斬撃のみ、受け止めるのでは無く回避を重視。新技は感覚的判断で回避優先。防御は前回の二の舞になりそうだから。

 そんでもって後は攻めだ。今まで一度も勝てていない。その理由はわかってる。攻撃は受け止め、いなされ、時間が経つにつれて不利な状況に追い込まれていく。

 剣術、体捌き、どちらもシルの方が格上だ。

 だけど、二年も毎日の様に戦えばシルの戦術はおおよそ把握出来てる。

 シルは序盤は手を抜き徐々にテンポを上げて行く、後半になればなるほど倒すのが難しくなる。ならばどうする? 後半が駄目なら前半だ! 調子の上がり切る前に倒す。決まりだ!序盤に勝負を掛ける。


 初めの十分で勝負だな。


 ざっと考えた戦略はこうだ。


 開始直後【ユグド】と【ミルズ】を唱え時間を稼ぐ。準備が整ったらタイミングを見計らいシルを【影狼シャドウフレア】の爆発で上空へ飛ばす。序盤の内に、俺が全言霊を解放してくるとは思わないはずだ。だからその隙をつく。【速力クイック】と【力マキシス】で身体能力を最大まで上げて行動に移ればシルも対応も遅れるはずだ。

 上空に吐き飛ばせば動きは制限される、万が一ふせ防がれてもソレを打ち抜く一撃で、今日俺は勝つ!!!!


 出来た! 勝利への道!! 単純明快!!! 俺の頭じゃこんなものだ。


『よし!じじい、始めよう』


 いざ尋常に勝負!!!


 今日も始まるシルとの真剣勝負。向こうは真剣かどうか知らないが此方は本気だ。

 俺は剣を構えシルを見据える。


『いくぞ! じじぃ!!』


 足に力を込め、一歩強く踏み出し……そして唱える。


『【ユグド】』


 深緑の光が体から溢れ、額から角が生える。迫るシルの顔は少しだけ驚きの表情になっていた。

 正面から斬りかかる剣に対してシルは自身の剣を横にし受け止め弾く。


 その離れ側に唱える。


『【ミルズ】』


 力の収束が始まる。何度も使って来たからわかる。空間から角へと深緑の光が集まり蓄積される。

 【ミルズ】は二回目の発動から制御の難易度が跳ね上がる。なので収束の時にはデメリットは特に無い。【ユグド】も緑が多い場所で使用すればデメリットは殆ど無い。だから戦闘の開始から終了まで使い続けられる。ただ一点、問題があるとすれば慣れだ。恐らくモンスター相手なら効果的だが、対人や高い知能を持つ相手は慣れによって順応してくる事を考えると必殺技を持たない俺は結果的に切り札を失う事となる。


 しかし今回は作戦遂行の為にデメリットを加味して戦いを進める。


『おらぁぁぁ!!』


「甘い、甘い、ホレ!」


 距離を詰めシルへ向かって走る。その勢いのまま剣を振るうもシルは身を引き、剣を軽く躱した。振り下ろされた剣を切り上げるも、シルの打ち落としによって弾かれた勢いで体勢が左へと崩れる。


『ぐあ!』


「さぁて、こちらからも行こうかのぉ……とりゃ!」


 くっ! やばい!


 体勢が崩れた所にシルの横切りが迫る。剣で受け止めれないので強引に体を捻り回避する。後方へバックステップし距離を取り体勢を立て直し再度攻撃をしかける。


『糞、いつも通り全然当たらねぇ! もう少し手を抜けよ、じじい!』


「ホッホッホ、存外手は抜いとるんじゃがのぉ……」


『ぐぅ……まだまだぁ!!』


 全ての攻撃が見えているのか、シルは僅かな動きで斬撃を避け続ける。


「目線、目線じゃ。剣の行先が見えておるぞ……ソレ、隙が出来た」


『……ぐはっ!』


 俺の斬撃を皮一枚で避けながら、シルは回転し蹴りを放つ。

 剣を振り切った体勢で回避が間に合わない俺は右肩に蹴りを貰い衝撃で体が左へと泳いだ。

 シルは回し蹴りの回転を活かして一回転した後、剣を横に振るう。


 これは、やばい!! けど、受け止めるしかねぇ!!

 

 体勢が整わないまま剣を構える。そして「キンッ!」と言う金属音が響く……だがその剣撃に衝撃が無かった。


 もう前回のおさらいかよ! やるしかねぇ!!


 弾かれた剣を逆の手で掴み打突を繰り出す。前回と同じだ。前回は初見だった。だからと言うわけでは無いが、防ぐ事も気付くことすらも出来ずに攻撃を貰ってしまった。だが今回は違う。前回に比べて打突に移るまでの動きが大きい分、対応が可能だ・・・泳いだ体を立て直さず勢いに任せる。視線を剣の柄頭に合わせる。


(タイミング!一、二の三!!ここだ!)


当たる瞬間、地に付いている左足に力を込め、横へ飛ぶ。


ゴン!


頭に打突の衝撃が走る。前回と同じならここで終わっていた。しかし今回は見えていた、準備していた、その結果、威力を和らげダメージを軽減する事が出来た。


シルが嬉しそうに喋り始める。


『昨日見せたばかりだと言うのに、対応しとるのぉ。ちゃんと対策を考えて来たのじゃな』


『当たり前よ、本当は受けるつもりは無かったんだけど今のは避けれないし、余り使わないでくれると嬉しいな!』


走りながら、喋りながら、剣を交える。だがしかし、"ユグド"状態でも優位に立てる場面が無い。


キィン!キィン!カン!


 三分ほど経過し、"ミルズ"発動可能まで後二分となった。シルは様子見なので積極的に攻めては来ないが時間を稼がせてくれる程のんびりとはしていない。受けに回れば攻めに転じる事が難しくなる・・・それほど力量に差がある。なるべく多い手数で攻めて、シルに捌かせるのが効率良く時間を稼ぐ方法だ。今までの経験でそれはわかっている。


もう少しだけ時間を稼いでやる!そう意気込み、シルへと攻撃の手を増やす。


剣を振り、剣で受け止める、攻撃と防御を繰り返しながら時間の経過を待つ。


 体の中で何かが満ちた。"ミルド"が溜まり準備が整った。そして、それは作戦を実行する勝負の合図でもある。故に狙うポイントを考える、どこに爆破の起点を作るのか、空中に浮かすのであれば足下は確定だが、真下で爆破させなければ上空にシルを吹き飛ばせない。シルは"影狼(シャドウフレア)"を知らないが故に分身に対し攻撃を加えない・・・はず。初めての"言霊"に対して考えなしに攻撃するなど、シルがやるとは考えられない。


(ならば、どうする・・・よし、あれしかない、作戦は決まった!肉を切らせて骨を断つ!狙うは変則斬撃打突!!いくぜ、しじぃ!!!)


 剣を構えて、シルへ駆ける、連続で斬撃を繰り出すが難なく避けられ防がれる。たが止まらない、息の続く限り連続で攻撃を繰り出しシルに攻める機会を与えない怒涛の攻めを続ける。


『ほっ!ほっ!いきなり威勢が良くなったわい!何かやる気じゃな』


攻撃を捌きながら俺の動きに勘づく。怒涛の連撃により疲労がピークに達する。勢いよく振るう剣に踏ん張りが効かず体が揺らいだ。その瞬間を見逃す事なくシルが動き、攻撃を繰り出す。


(きた!横切り(変則斬撃打突)!!)


俺は狙いを定めていたシルの攻撃に対し防御の構えを取る。そして、衝突のタイミングを見計らう。体は泳いでいるが意識している分立て直せる。シルの攻撃を見るながら剣で受け止める寸前で唱えた。


『"(マキシス)"』『"速力(クイック)"』


そして剣と剣がぶつかる。


キッン!!!!


あの時と同じだ。剣に感触は無く、弾かれた剣を逆手に持ち替え打突が迫る。


(打突が来る・・・)


 一瞬の思考の中で体を前へと動かし屈み込む。避ける事は出来ないが少しのズレにより打突が後頭部へと打ち付けられた。視界はハッキリとしている。当たる前提で受けたからこそ耐え切れた!そして・・・一歩踏み出し唱える!


『"影狼(シャドウフレア)"』


 初めて聞く"言霊"にシルが警戒し距離を置こうと後ろへ飛んだ瞬間、足元で爆発が起きた。その爆風によってシルは空中に吹き飛ばされ僅かな隙が生まれる。


(ここだ!!)


 至近距離で受けた爆発と爆風によって全身にダメージを負う。しかし僅かながら出来た隙を突くために、痛みを堪え走りだす。そして全力で飛んだ。


(制御は出来なくてもゼロ距離なら当てられる!!!)


『"ミルズ"』


全身に纏ってた深緑の光が輝きを更に増し、その光が拳の一点に収束される。その拳には剣は無く、ただの拳を握りしめ、シルに向かって全力で振り抜く。


『くらぁええぇぇぇぇぇぇ!!!』


顔は避けられる可能性あり!面積が多くて避けにくい!!!狙うはぁぁ腹ぁぁぁぁぁ!!


当たった瞬間に拳から深緑の光の奔流がシルを貫き吹き飛ばす!!!その光景を見て俺は勝ちを確信する・・・・はずだった。


(初勝りぃ?・・・!?)


シルの体の前に深緑の盾が現れ、渾身の一撃を受け止めていた。


『まじかよ』


『ふぉふぉふぉ!備あれば憂いなしじゃ』


何事もなかったかの様に笑顔を見せる。


 シルはどうやって俺の一撃を防いだのか?これは後に教えてもらった話しだ。結論から言うと"ミルズ"を使ったのである。それも防御へと。"ミルズ"は攻撃にも防御にも使用が可能であり俺の様に拳に纏い打ちつければ相手へと力の奔流が放たれ大ダメージを与える。だが、シルは放つのでは無く、留めて盾の如く展開し相手のエネルギーを相殺した。


 切り札を先に使った俺の敗北は確実であった。力を使い切り落下する。着地すらままならないのも当然の事だが、俺の拳でシルを再び上空に打ち上げた事で二人が線で結ばれる位置にあった。


『シオン、今の攻撃・・・当てるまでの流れは良かったぞ。明日も楽しみにしとるからのぉ』


シルの右掌から深緑の角が生える。"ユグド"を使用した際に額に生える角と同一よりも深い色の角だ。

その角を握ると深緑の刃が生え纏う。俺が"ユグド"を剣に付与する物とは密度が違う。存在が違う。何か生命の根幹にすら感じる刃がそこにある。


『お主が欲していた必殺技じゃ!受け取りなさい。技名は・・・そうじゃな・・・』


夢想流(むそうりゅう) 奥義(おうぎ) 緑命剣(りょくめいけん) じゃ!』


構えた深緑の剣から緑の光が溢れ出す。一つ一つが種の様にも見えた。その光から樹の根が生えシオンの体に巻きつき動きを封じる。


『力が入らない・・・』


根が力を奪い取る。


そしてシルが纏う深緑の光が手から伸びる刃に更なる力を注ぎ姿を変え、深緑の刃が白光し樹の刃がより輝き振り下ろされた。


カツン!


『いてっ!』


優しい剣で頭を叩かれた。



『今日はここまでじゃな。今が夢想流奥義 緑命剣じゃ!"ミルズ"を使いこなせぬお主が使いこなすのは、まだまだ先じゃが、しかと覚えておくように』


『は、はい!頑張ります!!』


 その後、どう言う原理なのかを聞いたところ"ユグド""ミルズ"の力を高めると大地の力を引き出せる様だ。その中でも樹の力は扱いが難しいのだが、拘束した相手の生命力やマナを吸い取り動きを止めれるのだとか。防御力ゼロになった所に本命の一撃を喰らわすらしい。今回は当てる直前で力を消したので威力はわからない。だが当たったら精神ごと吹き飛んでいたらしい。


『あー最後のは、めちゃくちゃカッコいい必殺技だったなぁ』


いつか使いこなしてやるからな・・・奥義 緑命剣。


 余った時間で今日の出来事をシルに話した。朝早く素材集めのためにウルフを狩っていた事。その後ウェアウルフに遭遇して死にそうになりながら撃破した事、ゲイルが槍術を使ってカッコ良かった事、レッドウルフの"言霊"を手に入れて今回の修行に活かした事、色んな話をするとシルは喜んで聴いてくれた。


そして、終わりの時間が近づいて来た。


『それじゃ、そろそろ帰るよ』


意識が薄れていく。視界がぼやける。


『そうじゃな。今日は今までで一番良かったぞ。これからもお主の成長を楽しみにしとるからのぉ・・・』


意識が途切れる。


『そして、いつか◯◯◯◯◯◯◯◯』



目が覚める。最後の言葉は聞き取れなかったが"成長を楽しみにしてる"と言われるのは嬉しい事だ。


『じじい、嬉しい事言ってくれるぜ』


妙な遠で出会った老人に掛けられた言葉が、こんなにも心に響く事になるなんて・・・幸せな気持ちになりながら家路に着く。


『さーて、帰ったら戦士学校の願書を書かないとな。母さん、早く出せって心配してたし・・・けど疲れたから明日にするか』



次回 戦士学校編



※どうやってシオンがシルを上空に吹き飛ばしたか?


影狼(シャドウフレア)の言葉に警戒したシルが距離を取るためバックステップで後方に下がろうとした時に、シルの後方足元に影狼(シャドウフレア)を発動。シルがバックステップで影狼(シャドウフレア)の上に来るタイミングを見計らって剣を投げ衝撃を与えて爆発。

シルは上空へ、シオンは少し離れた位置で爆風を食う。

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