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ユグド・クロニクル〜旅の果てに〜  作者: 森信介
第一章 〜始まりの場所〜
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第6話 〜とある人と後継者〜



俺とゲイルは激闘を終え体を休めている。至る所に痛みは残っているが回復薬(ポーション)のお陰で見た目は全快だ。地面に座り木にもたれるゲイルがこちらを向いて話しかけて来た。


『シオン、そろそろ修行の時間か?』


『あぁ。帰りたいけど、ここまで来たらやっていかないとな』


ため息混じりの息を吐きつつ重い腰を上げ、鉄剣とグラディウスを鞘に納める。


『そうか。それじゃ、俺は一足先に帰るとするわ。』


『素材集めはしていかないの?』


『あぁ、こんな強敵が出てくるなんて考えてなかったし、それに今夜は夜勤だ。本音を言うと風呂でも入って夜まで寝たい』


 確かに、ウェアウルフとの激闘後に仕事をするなんて考えたくもない・・・雇われ者は大変だな。その点、俺は仕事の有無を自分で決められるから明日は休みにしてゆっくり休養するつもりだ。夜勤のゲイルを労い励ます。


『あーなんか悪いな。けど、今日は本当に助かったよ。多分一人だったら死んでた。夜勤の時に何か差し入れ持ってってやるよ』


『おう!楽しみにしてるぜ!』


森を歩き大樹まで戻って来た所で、ゲイルと別れる。


『じゃあ、またな!シオンも気をつけて帰れよ!!ここら辺はモンスターが出ないにしろ何があるかわからん。大分疲れてるだろうし、無茶だけはするなよ』


『心配なら最後まで居ろよ』


ジョーダン混じりで笑いながら言葉を返す。


『あー、睡眠とシオン、言うまでもなく睡眠の勝ちだ。じゃ!頑張れよ!!ハッハッハー!』


手を振り、遠ざかるゲイルを見送った。そして大樹の根を枕に寝転び呼びかける。


『さーて、じじい、今日はなんの修行だ?』


軽く息を吸いながら目を閉じる。


意識が薄れて体の感覚が無くなる。


そして、目が覚め淡い光の空間が広がり目の前に年老いた老人が立っていた。


毎日見ているのに懐かしい気持ちになる。


『ふぉふぉふぉ。よーく来たな。シオン』


『昨日きたじゃん』


顎をさすり、白髪の老人が不思議そうな顔で答える。


『そうじゃったかのぉ。ワシにとって昨日は随分前のことじゃからのぉ。さて、始める前にいつもの"コレ"飲んでおきなさい。』


ビンに入った液体を渡される。これは毎回修行が始まる前に渡される回復薬なんだが、夢の中でも精神的に疲労はするらしく、それを和らげる効果があるらしい。そして、とにかく不味い。


『これ不味いんだよなぁ・・・』


グビグビグビ。


『ウゲェ』


勢い良く飲み干して、吐く様な素振りを見せる。その姿を見ながら白髪の老人が笑顔で頷いていた。


(さぁて、今日は何をするんだろう)


『今日は何するんだ、じじい』


腕を組み、目を閉じて何かを考えている。このまま死ぬのではないかと思ったが口が開いた。


『今日で、お前の修行も二年になるかのぉ。基礎も固まって来たことじゃ。そろそろ技の伝授をしていこうと思う。』


その言葉を聞き俺は笑顔が溢れた。自分でも瞳が輝いているだろうと予測しながら白髪の老人から出た言葉を何度も頭で繰り返し、その興奮で叫んだ。


『まじ!まじ!?やったぁぁぁ!夢に見た必殺技!それが!ついに!!今日!!!叶うぅぅぅぅ!!!!』


 何故こんなに喜ぶのか・・・それは話すと簡単な事だが時間にしてみれば長かった。俺はこの修行を二年続けている。だが未だ技の一つも教えてもらえていないのだ。だから、俺にとって技を教えてもらう事はこの修行における念願なのだ。


白髪の老人が蔑む様に見つめながら言う。


『お主、技にしか興味がないのか・・・』


『冗談だよ、冗談!』


本音を誤魔化そうと、身振り手振りと作り笑いを、駆使して言い訳をする。


ため息を吐きながら、話を進める白髪の老人。


『まぁよい。動機が不純であれ、毎日付き合ってくれるだけで、ワシは十分嬉しいからのぉ』


白髪の老人が言葉にする嘘偽りない気持ちに、俺は二年前の事を思い出す。


この白髪の老人と初めて会った時のことを。


あの時とだけかな・・・自分の話をしてくれたのは。


じじいはとある"二人"を待っている。




■■■■■■■■■■■

-2年前- シオン 十六歳


『くっそぉ。俺はウルフにも勝てないのかぁ・・・』


 自分の弱さに怒りを覚えながら、傷だらけの体を引きずり大樹の傍らに腰を落とす。ウルフ二匹を倒す事ができず、煙幕を使って逃げだしたのだ。


 俺は騎士に憧れていた。将来は戦士学校に入り、首席で卒業、その後、王国騎士団に所属する。そんな夢を見ているが、現実はそう甘くない。父に頼まれた仕事をまともに出来ず、このままでは戦士学校に入学出来ずに家業の鍛冶屋を継ぐか農家で働くか、二つの選択肢が現実味を帯びて来たのだ。


体を休めながら大樹とその周りの風景に気づく。


『ここは確か・・・子供の頃に・・・』


 昔の記憶、親が話してくれた記憶。それは四歳の頃、父さんと母さんに連れられて森へ遊びに来た時の事だ。俺は怪我をした。今でも残る額の傷は、森の奥、そう、この大樹で転んび、額を怪我した。


思い出を懐かしみ、額の傷を触ると少しだけ痛みが走る。そして俺は何故かわからないけど、大樹に話しかけていた。


『大樹さん、ここで少しだけ休ませてもらうね』


声を掛けた途端に意識が薄れ、視界が真っ暗になる。



『おーい』


どこからか、声が聞こえる。


『おーい、起きるのじゃ』


『ん・・・んん?』


途切れた意識が戻る。ゆっくり目を開くと、目の前には、どこまでも広がる空間があった。地面はある。空もある。しかし、色は無い。そして、目の前に一人の白髪の老人が立っていた。


『お主、名はなんと言う?』


俺はいきなり名前を問われて戸惑い、答える事はせずに聞き返した。


『おじいさん、誰?』


『ん?ワシか?ワシは・・・んー・・・なんじゃったかのぉ・・・おお、そうじゃ、そうじゃワシの名前は"シル"じゃ』


 自分の名前を忘れる怪しい老人に疑惑の目を向けながら自分の名前を明かす事を戸惑う。しかし、名乗らせたのに自分は名乗らないのでは筋が通らない。


『シオン=アイレストと言います』


名前を聞くと目を輝かせながら喜ぶ老人。


『ほうほう!シオンとな!!良い名じゃ!!!ワシの名前と交換しないか!?』


(え?なにをいってるんだ?)


言われた事を上手く理解できず、とりあえず即座に断りをいれた。


『い・や・で・す』


『ほっほっほ!残念じゃ!とにかくじゃ、ここに来たことは歓迎しよう!!!もう何十年、何百年ぶりかのう』


あっけなく引き下がるシルと名乗った老人の周りを見渡し、先程まで居た大樹では無い事を確認する。


『おじいさん、此処はどこなの?』


『ここは、大樹の中じゃ。』


(え???)


頭に疑問が浮かぶ。意味を理解する前にシルと名乗る老人が教えてくれた。


『大樹に宿るワシの精神の中にお主の精神が入り込んでるのじゃ。』


 俺は少し考え、自分の置かれている状況に気づく。今ここにいる自分は意識の自分。実際の自分は寝ているので無防備と言う事になる。


『向こうの俺は大丈夫なの!?』


(傷だらけで回復薬も飲んでいないぞ。血も流れっぱなしだし・・・放って置いたらヤバイ気がする。もしかして起きたらあの世だったなんて、ごめんだ)


『大丈夫じゃ。お主は、ここに入る資格を得ておるからのぉ。この中に居れば、外にあるお主の体は誰からも認識できんし、危害も加えられない。それと多少の傷ならば大樹の側にいれば治るから安心せぃ。』


『信じたいけど、会ったばかりのおじいさんに言われても・・・はい、そうですかって簡単に信じれないよ。』


『ふむふむ、では、一回戻ってみるか!?信じれたのであれば、もう一度ワシを呼べ。再度ここへ来る事ができるはずじゃ』


外に戻って事実確認が出来るのは、とても嬉しい事だ。俺は迷う事なく受け入れた。


『一回戻って確認します!』


途端に意識が薄れて視界が暗くなる。


『ん・・・んあ・・・は!!』


目を開くと大樹の傍らで横になっていた。痛みが引いて傷が癒されている事に気付き驚く。


『傷が癒えてる。周りにモンスターの気配もない・・・嘘は言ってない』


 真実を噛みしめながら大樹へ向く。もう一度会いに行かなくては、今度は話をしっかり聞こう。そう思い大樹に言葉を掛ける。


『おじいさん、確認出来たよ。疑ってごめんね』



 呼びかけに応じる様に意識が遠のき途切れる・・・黒から白へ、ゆっくり目を開くと白髪の老人が先程と同じ様に立っていた。


『おかえり、シオン。ワシの言った事は本当じゃっただろ。これで少しは信じてもらえたかのぉ?』


コクコクと頷く。


『さっきの話に嘘は無かったので少しは信じてみます。おじいさんはここで何をしてるんですか?』


その言葉を聞くとシルは喜び話を始めた。


『ほっほっほ。ワシは"とある人"と'後継者"を探しておってのぉ、まぁ"とある人"はどこに居て、どんな人なのか、ワシ自身もよく分かっておらん。"後継者"の方は・・・』


鼻を掻きながら躊躇い言葉にする。


『もし良ければ、お主に"後継者"になって欲しいと思っておる。此処(ここ)へ来る事が出来る者だけがワシの技を受け継ぐ資格を持っているのじゃ。シオン、お主が今日来てくれた。これは何かの巡り合わせじゃ・・・・急にこんな事を言われても困るじゃろうが、どうかワシの"後継者"として技を引き継いでくれぬか?』


 俺は神妙な顔で話をするシルの言葉を聞き驚き喜んだ。"後継者"として技を受け継ぐ事は願ったり叶ったりなのだ。


それは何故か?


 今の俺はは弱い。ウルフ二匹すら倒せないずに煙幕を使って逃げ出す始末だ。このままでは騎士にもなれやしない。そんな中、技を受け継ぎ"後継者"になって欲しいと言ってくれている。強くなりたい自分にとって断る理由は無い。


しかし、シルは強いのだろうか?また疑念が生じてしまう。


ならば確認すればいい事だ。本当に強いのか強いのであれば喜んで"後継者"になる。いや、なりたい。


心を決めて口を開く。


『俺は強くなりたい。おじいさんが本当に強いなら、俺を"後継者"として鍛えて欲しいです。でも・・・おじいさんの強さを俺は知らないから・・・・教えてほしいです。おじいさんの強さを・・・えーと、だから、今、俺と・・・此処で戦ってください!』


シルは俺の言葉を聞き笑顔で頷いた。どこからか剣を取り出し片方を俺に渡し、自身も剣を構える。


『では、じっくりと見てもらおうかのぉ、ゆくぞ』


■■■■■■■■■■■




(懐かしいなぁ。あれから、もう2年か、あの時は一瞬でやられて、すぐに弟子入りして、毎日修行して、実際に大分強くなった。ただ強くなっても一向に技は教えてもらえなかった・・・それもやっと報われる!)


『さぁ、じじい!教えてくれ!!』


笑顔でシルが言う。


『よかろう』









※過去の森への散歩はモンスターに遭遇する危険を回避する為に魔除の聖水を使って遊びに行った。


魔除の聖水は香水感覚で体につける。持続時間は吹きかけてから1時間程度。効果が途切れる前に再度吹きかける事が大事。

弱いモンスターであれば近寄ってこない。


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