第3話 〜父と母と姉と妹、家族仲良し団欒一家〜
「今日も大樹まで行ってきたの?毎日あんな遠くまで凄いわねぇ」
『日課だからね、体も鍛えれるし』
この人は竜宮神女、俺の母さん。今はミコ=アイレストと姓が変わっている。真っ黒で長い髪、少しボーッとして心配性だけど、とても優しい。
異国の出身で、この国に移住して、父さんと知り合い結婚まで至った。
『父さんと姉ちゃんは工場?』
『そうよ、昼過ぎから二人でトンカントンカンって頑張っているわ。良い素材が入ったー!!って大騒ぎしてね。二人とも、あんなに目を輝かせて……ふふふ、本当に子供なんだから』
二人の顔が頭に浮かべながら、もう一人、妹の事を思い出す。
『キヨは?』
「キヨちゃんは、宝石屋さんでお手伝いしてるんじゃないかな?お昼に戻って来たけどまた出てったわよ」
父さんと姉ちゃんは、鍛冶屋馬鹿といっても過言ではない。毎日工場に入り浸り、素材が無ければ二人して近くの鉱山まで探しに行く。危険は少ない鉱山だが少なからずモンスターも出るので無理はして欲しくない。しかし、二人は、お構いなし、向こう見ず、聞く耳持たず、と来ているので母さんの心配は尽きる事はない。
妹のキヨは、綺麗、可愛い物が大好きだ。鍛冶にはまったく興味は示さなかったが姉ちゃんが夢中なので後継者の心配は皆無である。だが、作り手としての血は受け継いでいるのかアクセサリーや飾り等を作る事が大好きで、最近出来た宝石屋に勉強を兼ねて手伝いに行ってるらしい。
「ふーん、良い素材かぁ、なんだろ。ちょっと見てくる!母さん、ご飯はまだだよね?」
『ええ、そうね。七時くらいを予定してるから、まだ大丈夫よ。これパパとミシェルに持って行ってあげて』
渡された皿に乗るのは、大きなコップに注がれたお茶と軽食だった。町の特産である小麦を使ったお茶だ。米同様に凄く有名で王都では直ぐ売り切れる程だ。
『おっけー! じゃあ晩ご飯までには戻るから』
『はーい……あ、それと王国から戦士学校の申し込みが来てたわよ。汐音受けるんでしょ? きちんと目を通しておきなさいよ』
『わかってるって……母さん、じゃまた後でねー!』
急ぎ足で駆け出し、戦士学校の書類よりも父さんと姉ちゃんが夢中になる素材に胸を高鳴らせ工場へ向かう。
カン! カン! カン! カン! カン! カン!。
金属を、叩く音がする。家に帰った時にも聞こえたが、近くで聞くと更に大きい音だ。
工場の入り口には暖簾があるので片手で皿を持ち、もう片方の手で暖簾を開き中へ入る。
そこには、金槌で素材を叩く二人ーー父さんと姉ちゃんの姿があった。
『父さん、姉ちゃん、ただいまー!凄い素材が入ったんだって??なんの素材が入ったの?・・・あ!これ母さんから差し入れ、小麦茶とおにぎりね』
金色の髭を生やし汗をかきながら金槌を振る父さん、名前はジルド・アイレストだ。そしてもう一人、金髪の髪を束ね薄手の服装で小さめの金槌を振るうのが姉ちゃん、名前はミシェル・アイレスト。
二人が俺を見て返事をした。
『おう!シオン帰ったか!!差し入れはそこの机に置いといてくれ。今が一番大事な時だから離れることができんのだ』
軽く一瞥し、低く重みのある声で返事をする。だが今が一番大事な時だと深呼吸をし、再び金槌を振るいだす。
『おかえりシオン。あと少しで、一段階目の工程が終わるから、そしたら話してあげるわね。だからもう少し待ってて』
笑顔で答える姉ちゃんの言葉に疑念を抱く。
本当にあと少しなのか?
過去の経験からかかる時間を割り出す。
あと一、二時間はかかると予測し俺は待つ覚悟を決めた。
カーン! カーン! カーン! カーン!。
俺は一言も喋らず、金槌を振るう二人を眺めながていた。時間にして約一時間。
暇すぎて、修行よりキツイな。
カーン! カーン! カーン! カーン!。
更に一時間が経過する。
あー眠い。
伸びと欠伸が同時に出た。その時、背後から駆け寄る足音が響く。
『パパ、ミシェル、汐音、ご飯出来たわよ』
工場に向けて声が通る。その声に反応した二人の金槌が床に置かれ、第一工程を終え鍛えられた素材がにわかに輝きを増した。
「おし! 第一工程は上上だな」
「だね、パパおつかれさま!」
「あぁ、ミシェルも良くやってくれた。明日は第二工程だ。頼むぞ」
「もちろんよ!こんな素材に出会えるなんて滅多にないんだから! あ〜もう、明日が楽しみ!!」
二人の鍛冶馬鹿は素材に夢中な様だが、母さんの機嫌を損ねると大変なので声を掛ける。
『父さん、姉ちゃん、ご飯出来たみたいだし、早く行かないと、また母さんの機嫌が悪くなるよ』
前に機嫌を悪くしたのはいつだったか、あれも鍛冶に夢中になった二人が原因だ。幾ら呼んでも返事をせず、時間が勿体ないと早食いをして、ごちそうさまも言わずじまい、極め付けは自分の使った食器すら片付けず工場へ向かった為にミコト火山が噴火した。
俺の話に父さんの顔が少し青ざめる。
「ああ、そうだったな! 母さんを怒らせると大変だ!! シオン、ミシェル、直ぐにいくぞ!!!!」
「はーい」
な! ちょっと待て! 嘘だろ……ニ時間も待って、晩ご飯を優先される。素材の話を聞けずじまいかよ!。
俺は父さんと姉ちゃんの返事を聞きながら、心の中で理不尽を叫ぶのだった。
◇
モグモグ、モグモグ、モグモグ、俺は晩御飯を頬張る。
いつも美味しいご飯だが、今日は更に美味しく感じる。そんな中、何かを思い出したかの様に父さんが話をする。
「そういえば、シオン。素材の話を聞きたがっていたな」
今更かよ……。
今まで忘れてたのだろうと察した事で余計に怒りが増したが、顔には出さずに返事をする。
『そうそう、二人があれだけ夢中になるって最近無かったからさ。何の素材が手に入ったの?』
父さんがニヤッと笑い、隣に座る姉ちゃんも凄く誇らしげだ。
「ーー[飛竜ドラブレイアスの鱗]だ」
少しの間を置いて答えた父さんの言葉に俺は手に持つフォークを落とした。
『え? まじで、父さん? 飛竜ドラブレイアスなんて伝説級の素材じゃん!』
飛竜ドラブレイアスは古代竜と呼ばれ古代種の中でもかなり上位のモンスターである。鱗には様々な耐性があり特に爪は鋼をも抉る強度を誇り、【言霊】や[魔法石]への適性も高い。現存で確認されている個体数は両手で数え切れると言う話もあるが……何故そんな大層な物を手に入れたのか、と言う疑問が湧き上がる。
「北の山脈ー〈イワミ山〉にある鉱山はお前も知っているだろう? 以前、ミシェルと二人で採掘に行った時に鉱石と一緒に幾つか[黒水晶石]を見つけたんだ。持ち帰り割ってみると中に鱗が入っていてな、それが[ドラブレイアスの鱗]だったと言うわけさ」
[黒水晶石]は地層に流れ込んだ[命の水]が固まって出来る結晶だ。そして[命の水]は生命力の高いモノに近寄る性質がある。
例えば、地面に吸い込まれると地中にある生命力の高いモノに接触し結晶化する事が分かっている。生命力が高いとは言え生き物ではないので、吸収される事はない。だから、黒水晶石は言わば宝箱の様なモノなのだ。割って何が出るかはお楽しみ。今回二人は大当たり中の大当たりだった様だ。
『私は開けた時、何なのかわからなかったけれどパパの顔が今まで見てきた驚いた顔よりも驚いていたから・・・それでもこんなに凄いものだったなんて本当にビックリよ』
父さんの驚く顔は近くで見られなかったのは残念だけど、この超ウルトラレア素材を使って何を作っているのか気になる。
『父さんはドラブレイアスの鱗で何を作るの?』
『まだ決めていないな。お母さんに切れ味の良い包丁を作ってあげてもいいんだが』
(そんな包丁使ったら、台所ごと切れるぞ・・・)
そんな事を思いつつ自分の武器を作ってくれとは言い出せなかった。
『まぁ、まだ第一工程しか終わっていないからな。あれ程の素材だ。第四・第五工程までは覚悟してしているから、そこまでに何を作るのか決めるさ。ただ周りに言いふらす事は禁止する。確実に泥棒が入るからな』
古代種ドラブレイアスの鱗は然る所でオークションにかければ数百万ガルドもしくは一千万ガルドに届く価値がある。おいそれと言いふらすことは危険なのだ。
ガチャっと扉が開く音がする。
『ただいまー!ママ遅くなってごめんね〜!アクセの仕上げが長引いちゃって』
妹のキヨが帰って来た。ショートな黒髪に可愛らしいピアスを付けてオシャレ大好き感を前面に出すボーイッシュな妹だ。姉ちゃんとは違い、人当たりが良く、付き合いも良い為、至る所で告白をされている人気者だ。この町の女子ランキング上位ランカーである。
姉ちゃんも見た目はランカーなんだが、三度の飯より鍛冶が好きなので周りに男が寄ってきても相手にすらならない。将来の旦那は鍛冶職人と大凡の予想が付いている。
『あー!みんな、もう食べてる!!私も食べる〜!!!』
手を洗い、うがいを済ませたキヨが席に着き小さな声で『いただきます』と言った。こう言う礼儀正しい所が人気の秘訣なのだと思う。
和やかな食卓から父さんが別の話を切り出す。
『シオン、明日やってほしい事があるんだが』
『ん?なに?昼までには終わる???』
大樹の修行に間に合わせたい為、即答はせずに様子を伺う。
『あぁ、朝から出発すれば昼前には終わるだろう。場所も大樹の森の奥だからな。ただし、少し危険が伴うからミシェルは行かせられない。私も朝から第二工程に取り掛からなければならないので行くことができんのだ』
危険と言う言葉に、大体の予想はできた。多分モンスター討伐そして素材の回収をして欲しい、そんな所だ。
『何が必要なの??』
『話が早いな。ウルフの爪を100本と出来ればレッドウルフの爪を20本ほどか』
素材集めは、俺の日課だ。修行の成果も試せるし、体も鍛えられる。普段も朝から昼まではモンスター相手に頼まれた素材を集めながら大樹に向かい、修行をして帰宅する毎日を過ごしている。
『あーウルフの爪は溜めてあるから足りるかも。レッドウルフの爪は多分足りないから取ってくるよ』
『頼んだぞ。ウルフ達を呼び寄せる干し肉は用意してある。それと一人で平気か?』
『大丈夫、大丈夫、樹海のモンスターなら殆ど把握してるし。いざとなれば煙幕使って逃げるから大丈夫だよ』
煙幕はモンスターを狩る物としての必須アイテムである。この辺りのモンスターは視覚と嗅覚で敵の位置を判別する個体が多いため臭い付きの煙幕で視界と嗅覚を乱せば、基本的には逃げる・隠れる事が可能だ。
『なら、よろしく頼む』
ご飯を食べ終え、風呂に入り自分の部屋へ移動する。明日の予定を考えながらドラブレイアスの鱗を何に加工するのか気になり中々寝付けなかった。
※ 命の水
この物語の中でのレベルアップ要素
モンスターや人を倒した(殺した)時に、あいての命の大きさに合った命の水が手に入る。これは倒した人の体に合う様に精製される為、他人が飲むと激薬となる。
その為、保管して後で飲むのはお勧めしない。昔、間違って他人の水を飲んで死にそうになった人がいるらしい。
上昇するステータスは倒した相手の特性によって異なる。ステータスが上がれば上がるほど雑魚敵の命の水では強くなれない。
一度に大量摂取はできないの保管する容器も必要である。普通の水分と同じなので、飲めば飲むだけ腹に溜まる。こぼせば地面に吸われて終わる。吸われた水は何処かへゆく何処かへ・・・
※ウルフの爪、一体につき20本取れる。なのでウルフ5体とレッドウルフ1体の討伐で素材回収はおしまい。早ければ1時間もかからないかも