第2話 クビにはしてくれませんでした
「認めん」
悪魔もといゼオライトは即答で言い放った。たしかに転移したということを告げづらいとはいえ「クビにしてください」はなかったかもしれない。
「俺には神に与えられし帰神があるとはいえお前の力は絶大だった。今現在弱体化している魔族にとってお前が抜けるのは痛手だ」
「あの、悪魔さん」
「ゼオライトだ。以前のようにゼオ様で良いぞ」
「ゼオ‥‥さん」
「焦がすぞ」
どこから出したのか急にあの例の槍を私に向けてきた。その槍の怖さを目の当たりにした私には効果てきめんだった。血も涙もない。というか私がいなくなったら困るのではなかったのか。
「失礼しました。ゼオ様、その帰神とはなんなのですか? その立派な槍と何か関係があるのですか?」
「記憶がないくせに度胸と神経の図太さは変わらないんだな」
ゼオライトはくっくっくと笑いながら槍を横に倒して柄の部分をなでた。槍は装飾も凝っていて本当に立派だった。
「この槍は怒の神であるララービアに授かったものだ。ララービアは俺が幼少期の頃に突然現れて、主従契約をした。なんでもこの槍はそいつの武器だそうだ」
「神様‥‥! 本当にいるんだ! すごい異世界」
魔王というだけあって、やはりこの男はこの世界でかなり強いようだ。敵には回したくないものだ。人間に魔族に神様に。この世界の構成要素が王道を極めている気がする。
「ゼオ様はとても強いんですね! やっぱり私なんかがいなくても人間なんかめっためたにできるんじゃないんですか?」
ゼオライトは表情を変えて槍をくるくると縦に回しだした。
(危ないって! 当たったら怪我しちゃうんですけど! ていうか神様の武器の扱い雑! ‥‥口に出したら殺されるから言わないけど!)
「事はそう単純じゃないから面倒なんだ。この神達は四種類いるらしい。《喜・怒・哀・楽》の四種類の神だ。俺の元には怒の神が来たが――――人間どもの王の元に楽の神が降りたらしい。さっきの戦いでもあの帰神の攻撃さえなければもっと早く制圧できたのに‥‥。人間の王も取り逃がすし‥‥。くそ!!!」
人間の王の帰神というのは、前のエステルが攻撃をくらって意識を失った原因だったはずだ。魔族の中で一番の剣の使い手が意識を失うなんて、帰神とやらの強さは本物らしい。
「じゃあ、喜の神とか哀の神もどこかの誰かの元へ来たということですか?」
「それはまだ情報が入ってきていないが‥‥十分あり得る話だ。全く、一人残らず殺してやる」
本当にこの男物騒だ。しかしその神というのもどういう者の元に現れるのか。魔族の王と人の王ということは並々ならざる能力を持った者の元であるということは間違いない。
‥‥いやもう私は既に情報量の多いスペックを誇っているので私の元には現れない‥‥と信じたい。
もし私に帰神の力が授かったなら、殺されることはないものの、一生この男の右腕としてこき使われることだろう。
「まあもう今日も遅い。お前もこんな状態だしな。とりあえずもう寝ろ」
魔王という割には私にはかなり気遣いというか、優しさを感じる。まあそれも前のエステルの剣の強さを買ってのことなのだろうけど。私の平凡な高校生活では出くわしたことのないような美形にこんなことを言われると有無を言わさずときめいてしまいそうになる。
「ありがとうゼオ様!」
「ところで俺のフルネームは?」
「えっ、えっとー、ゼオライト、デ、シュプリーム?」
「明日俺と剣の稽古をするぞ」
「!!!!!」
やっぱり優しくなんかない。大ピンチだ。シュプ○ームってブランドの名前が出ちゃったのもキラキラ女子高生だから仕方のないことだと思う。いや仕方なくは――――ないな。
そう言い放って彼は行ってしまった。
ゼオライトはばりばりのイケメンです。
次回ばりばりの可愛い子が出ます。