24. 認定試験・二日め3 最終試験
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早めの昼食休憩に入り、用意された弁当を抱えてAチームで集まり、反省会とミーティングをした。
西さん、そして遥乃さんが中心となって、内野守備のフォーメーションの確認を、かなり細かく行っている。
「折口さんのコントロールが良いから、内野手は助かるのさぁ。投げるコースと相手の狙いを予測すれば、守備で1本、いや2本ヒット減らせるっしょ」
そう言いながら、守備位置のサイン確認に始まって、あの時は高岡さんベースカバー遅かった、我妻さんはこっち行った方が良かったと、ガンガン遠慮なくダメ出ししてくる。
外野手のカナは蚊帳の外もいい処だったが、西さんの話があまりに面白すぎて、いつしかメモを取り始めていた。
「香奈ちゃんは勉強家だね」
遥乃さんの声に顔を上げてみると、お姉様方が優しげに微笑みながらカナを一斉に見つめていて、カナは急に恥ずかしくなった。
「いやいやぁ、ピッチャーと外野しか守ってこなかったから、守備の話は新鮮つーか、目から鱗で……」
「そういう姿勢が、大切なのさ」
西さんが人差し指を立てながらウインクした。
「もちろん、素質に恵まれた人も、そうでない人も居るから、一括りで言っちゃいけないんだけど……女子選手がレギュラーを、甲子園を狙うんなら、男子と同じ事やってるだけじゃ、ダメなのさ。これだけは誰にも負けない、これだけは自信がある、そんな武器を身に着けないと生き残れはしない……」
まるで自分に言い聞かせるかのように言葉を繋いでいた西さんは、カナを再び見つめると、にっこり笑った。
「香奈ちゃんは足がなまら速いし、器用だからさ、きっと良い選手になるよ。レギュラー目指して頑張りな」
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昼食もそこそこにグラウンドに飛び出し、アップを始める。
これから対戦するCチームの、菫さんの姿もあった。
「いやいや香奈ちゃん、大活躍だったね。お手柔らかに」
「菫さんこそー。よろしくです」
拳を差し出し合ってコツン、とグータッチ。
「それにしてもAチームは雰囲気が良さそうで、羨ましいよ」
菫さんが声を潜めて耳打ちする。
「Cチームは良くないんですか?」
「そうでもないけど――沙綾がね……」
見ると沙綾と真綾だけが、みんなの輪から離れて、ひそひそと何やら話し込んでいる。
チームに溶け込もうという感じじゃないのだけは、理解出来た。
「あの双子さ、多少は同情する余地、てとこもあるんだけど……」
「えっ、そーなんですかっ?!」
カナが思わず大きな声を上げ、菫さんにシーッとたしなめられた。
「Cチームに同じシニアだった一個上の子がいるんだけど、さ。あの双子、元々は内地の子だったんだって。ロシアのクォーターで性格もキツかったから、内地でイジメられて、札幌来たんだって」
イジメた、の間違いじゃないんだな。
「だからこっち来た時は、ふたりで殻に閉じこもって大変だったんだって。その子はシニアから一緒だったけど、あれでも丸くなったそうだよ」
「そー、なんですかぁ……」
今の双子の態度を肯定する気はさらさら無いけど、ふたりきりで肩寄せ合って生きてきたんだな、とも思う。
「ま、あたしたちはあたしたちで頑張ろ。香奈ちゃん、マジでお手柔らかにね~。香奈ちゃんの足、はっきし言って敵には脅威だから」
「いやいやぁ、こちらこそですー」
和やかに菫さんと別れ、それぞれのチームに混じってアップを続ける。
この時は、大事な認定試験の試合が、あんな事になるなんて、誰も思いもしなかった。
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最終試験第二試合、AチームvsCチーム。
Cチームの先攻で、先発は遥乃さん。
西さんは試合中、ずっとセカンドかショートで、内野を取り纏めている。
遥乃さんの頭脳的なピッチング、西さんの指揮する内野守備が見事に嵌まり、内野ゴロふたつであっという間に2アウト。
3番を打つ沙綾が、左打席に入る。
真綾もそうだったが、沙綾は打撃も巧かった。
様子見で入ったボール球にはピクリとも動かず、インコースにバットを出しかけるも、ボール球と見るやバットをぴたりと止める。
沙綾、選球眼も相当良いようだ。
そして、読みの範疇に入っていたのだろう、外角低めのスライダーを狙い打った。
カキーン。
巧く流し打った打球は、レフト前に転がっていった。
遥乃さんが後続を打ち捕り、Cチーム初回は無得点。
そして一回裏、1番カナの打席で事件は起きた。
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Cチームの先発は、沙綾だった。
明らかに敵意を持った目付きでカナを睨んでいる。
左対左の対決はカナが不利な上に、沙綾は変則的なアンダースロー。
真綾の時より苦戦するのは予想出来た。
――とにかくタイミングを合わせていこう。
沙綾の視線をやり過ごしつつ、カナは気合を入れてバットを構えた。
セットポジションから沙綾が身体を折りたたみ、左腕を振り下ろす。
綺麗なアンダースローだ。
カナのバッティングフォームは軽いオープンスタンスで前を向いているので、沙綾の左腕は何とか視認出来た。
元来はインコース対策のため採用したフォームだったが、なにが幸いするか分からない。
お蔭で背中から来るような感覚はある程度解消出来そうだし、昨日のキャッチボールで沙綾のボールは見慣れている。
カナはタイミングを合わせようと、右脚を踏み込んだ。
初球はインコースの低め、ボール球だった。
カナは踏み込みを止めて見送ろうとする――ところがボールの回転がおかしい。
インコースのボールが、さらにカナの膝近くまで切れ込んで変化してくる。
シンカーだ。
危ないっ!
咄嗟の判断で、カナは腰を引いて大きく後ろに飛びすさり、ボールを避ける。
カナの左脚があった空間を、ボールは勢いよく抜けて行った。
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沙綾は相変わらず、カナを鋭い眼光で睨んでいる。
二球めはさらにインコース、しかもカナ目がけて来るようなボールだった。
恐怖を隠しながら、ギリギリまでバットを構え、ボールを待つ――そこは沙綾のコントロールを信用するより他にない。
果たしてボールはベース手前でようやく曲がり、カナは少し腰を引く程度でボールを見送った。
今のはスライダーかな。判定はもちろんボール。
「ふーー……」
二球続けての際どいボールに、カナは思いっ切り頬を膨らませて、息を吐いた。
2ボールナッシング。沙綾の表情は、ほとんど変わらない。
このガン飛ばしは彼女の気合の顕れである事に、カナは気付いた。
――となると、死球上等の執拗なインコース攻めは、カナを打ち捕るための、沙綾の布石だ。
真綾を打ち込んだカナの実力を、ようやく認める気になったのかも知れない。
恐怖を感じるほどに内角の軌道を植え付けさせ、アウトコースでタイミングを崩す――それが沙綾の、基本的なプランだろう。
アウトコースで追い込んだ後は、カナのタイミングの合い方により、内角をズバッと突くか、外角で躱すか。そんな処だと思う。
後は落ちる球への対処、かな。
昨日のキャッチボールでは、シンカーは姉妹とも得意だったし、落ちるカーブ、フォークに近い変化球もあった。
沙綾なら、三球めは外角――しかも角度を付けて大きく逃げるような変化球を、ゾーン内に投げてくるだろう。
速いボールならタイミングを計って、打てる球なら流し打ちだけど、カーブなどの遅い球なら……
カナはバットを構えながら、沙綾の投球動作と同時に息を吸い込んだ。




