第九夜 変態村
遅れました
「君は今こう思っているだろう。なんでこのおっさん全裸なんだ?とね。理由は単純明快。変態だからだ」
そう淡々と語る男の手には健也と違い武器は握られていない。ただ全裸であるだけだった。しかしそれだけで異様な存在感が放たれていた。
「うるせえええええ!来るんじゃあねえ!この変態がああああ!」
対して健也は大声を張り上げ威嚇の意味で日本刀を振り回す。普段あまり動じない健也だがわかりやすく取り乱していた。
(……俺が言うのもなんだけどよ、テメーが人に対して変態呼ばわりする資格はねえと思うぞこの殺人衝動持ち)
(うるせえ!生理的に気持ち悪いんだよ!気持ち悪すぎて怖いんだぞ!)
(いや刀振り回すオマエも怖いよ)
全裸の中年男性と日本刀を振り回す男子高校生、どちらが怖いのかは意見が分かれるだろうがそんなことはつゆ知らず全裸男はじりじりと健也に詰め寄っていく。
「自己紹介が遅れたね、私は小川というものだ。よければ名前を教えてもらえないか、少年」
「お前の名前に興味なんてないしお前に個人情報教えるくらいならネットに住所書いたほうがましだ」
「厳しいことを言うね」
そういうと小川は足を止めじっと健也を見つめた。それに呼応するように剣也も刀を構える。
(……さて、どうするんだオマエ。なんの武器も持ってないってことは恐らく能力自体に破壊力があるタイプだ。こっちから行ったほうが良いんじゃないか?)
(それは……ちょっと嫌だ)
(気持ちは分かるがそんなこと言ってる場合か?まさかこの機に及んで人を殺すのはよくないとかほざく気じゃあるまいな)
(そういうんじゃない、多分だけどこの変態……剣道知ってるぞ)
小川は剣也が仮に踏み込んだとしてもギリギリでかわせる絶妙な位置を保っていた。距離を詰めようと一歩前に出れば同じく一歩退く。健也の間合いはこの全裸の変態に完璧に見切られていた。
(だとしても行くしかないだろう、オマエなら初見殺しでも傷なら全快できる。二人殺して回復力も上がってんじゃねえのか?)
「どうした少年、固まってしまって。来ないのならこちらから行かせてもらおうか」
健也たちの脳内会議にしびれを切らしたのか小川は腕を前に突き出し手を半開きにして目の前に向ける。
(……何かの構えか?)
健也がそう認識した瞬間、小川の何もなかったはずの手に握られていたのは……拳銃だった。
「……は?」
健也の目にそれが映る、それを脳内で処理する前に辺りに乾いた銃声が響いた。それと同時に健也の右肩を弾丸を貫く。噴水のように血が噴き出れば辺りにまき散らされた。
(な、撃たれた!?てかあれ拳銃?……というかまさかコイツ)
「お前、警察官か!?」
「おや御名答、確かに私はれっきとした警察官だよ。まあ交番のしがないお巡りさんだがね」
冗談だろ、と歯噛みしながら健也は近くの家に飛び込み斜線を切った。右肩の銃創を修復する。みるみる内に肩の穴が塞がっていった。
(……大分治るスピートが早くなってるな。殺せば殺すほど能力は成長するって言っていたが、二人殺しただけでけっこう成長している。銃で撃たれた傷も早く治った……、)
健也は階段を三段飛ばしで駆け上れば適当な小物を掴み投げつける。それは窓ガラスを叩き割り小川の
視線を引き付けた。そうして出来た死角に飛び込み切りかかる。一瞬の早業だった。
(……行ける!)
体をかがめ満身の力を腕に込め小川の心臓に目掛けて刀を突き刺す。到底かわせない速度、まして何も身に着けていない小川に防ぐ手段などない、健也はそう確信する。
だが、
「少年、それはさすがに見くびりすぎだろう」
ガキン!と金属音が鳴った。刀は小川の体を貫くどころか到達すらしていなかった。突き刺した剣先がまるで見えない何かに遮られている。
「な、なんだ!?」
また健也は混乱した、しかし今度は長く続かない。
まるで目を覚まさせるかのように脳天にこれまた見えない何かを叩きつけられたからである。