脱ぐぞ我が服をと警官は言った
着ろ
(………で、どうするんだ。やる気になるのは結構だが状況は何一つ変わってないぞ)
そう、剣也の言葉の通り状況は好転してない。健也の刃は見えない防具に阻まれ届かない。それに対し小川は拳銃という圧倒的な武力を持っている。どちらが優位かは火を見るより明らかだった。
しかし健也は不敵に笑い
「大丈夫任せておけ、コイツの弱点がわかった」
そういえば健也は手に持った日本刀を捨て一直線に小川まで駆けて行った。
(武器を捨てた?なんだヤケにでもなったのか?)
怪訝そうな顔をするが小川に油断は無い、今度は腕を取られないように横に警棒を振るい側頭部を狙う。その見えない警棒が健也の頭蓋を砕く一瞬前、健也が小川の視界から消えた。
「なっ…!」
原理は単純、健也が小川の視界から外れるほど深く体を沈めただけである。そして脚の筋肉を全力で膨れ上がらせれば小川の顎に拳を突き刺した。ゴッ!と鈍い音が響けば小川の頭が跳ね上がる。
「クソっ……!」
意表を突かれた小川が慌てたように腕を振り回す、しかし健也は全てを見切ったかのようにすべてをかわし的確に小川に拳を叩き込む。ベキッ!ガキ!と辺りに防具がへこむ音と指の骨が折れる音がこだました。
「なんだこの子、まるで私の動きを全て見切っているかのように……!」
剣道とは。
端的に言えばやられる前にやる競技である。そのために高度な読み合いを要求される。例えば脚の位置、重心の移動、剣先の下がり具合。そういったものを総合し相手の動きを読み攻撃する。そう言ったことに人生をささげたといっても過言ではない健也にとって小川の動きを読むことなど赤子の手をひねる様なものなのである。
(……いや、無理だろう流石に!これはもう読みの域を超えているぞ!)
小川は苦し紛れに健也の頭に警棒を振り落とす、しかし振り下ろされることがわかっていたかのように置いてあった手に掴まれて防がれた。
「あんたの弱点は三つだ、露出狂」
小川の腕に痕が残るほど握りぽつりと呟いた。
「一つは重量、防御を固めてる分思いから動きが鈍いんだ。で、それに伴って体力消費に拍車をかける。その体型だ、体力落ちてるんじゃないのか」
苦し紛れに蹴り上げようと脚を上げるがそれを見透かしたかのように足で踏むように押さえつける。
「三つ目は……お前が全裸なことだよ。筋肉だとか体の動きがまあわかりやすい!」
そう言い放てば膝を上げ腹に的確に打ち込んだ。その衝撃に意識が薄まりながら。
(筋肉の動きを読む、ね。野球のピッチャーが腕の筋で球種を見分けられるから長袖着るって聞いたことあるが……この年でそれができるのは才能なのか)
小川には痛みは無い、しかしところどころ赤黒く内出血した肉体と気分の悪さがダメージの深刻さわ彼自身に自覚させた。健也は容赦なく徹底的に打ちのめす。防具が衝撃を和らげはするものの一撃一撃が確実に肉体にと達志ダメージを与えていく。
(不味いな、このままだとジリ貧だ)
そう考えれば小川は手に持った透明化された警棒をほんの少し放り……透明化を解いた。
健也からすれば何もなかったところからいきなり警棒が出現してきたことになる。それに視線と意識が移った瞬間頭を揺らし健也の花が砕けるほどの強い頭突きを放った。そしてみぞおちを蹴り飛ばして無理やり距離を取る。
(不味い、距離を取られた、拳銃が来る!)
しかしそこにはぼろぼろの防刃チョッキを身にまといバイクのヘルメットをかぶった小川が膝を突きうなだれていた。顔面の気色は悪く息も荒い。誰の目からでも弱っていることは明らかだった。
(透明化を解いた、さっきまでは見えなかったけど今は見える。首にほんの少し隙間がある……殺せる!)
(……なるほどな、視界が悪くなるヘルメットでもそれ自体を透明にしちまえば問題はないってことか。よく考えたみたいだが……もう殺せるな。やっちまえ)
悪魔が囁くように剣也が言えば健也は刀を握り切りかかる。しかし小川は渾身の力を込めて体を転がし剣戟をかわす。最早意味はないと判断したのか防刃チョッキとヘルメットを脱ぎフラフラと立ち上がる。
「……逃がさない!」
健也は柄を握りなおせば防具がなくなった胴体を狙い刀を振り上げる、殺せる。と健也が確信した時だった。
「まだ、だ!」
小川は腕を上げれば掌で刃を受け止めた。中指と薬指の間に刃が入れば当然掌が裂ける。それだけで止まらず腕が竹を割ったように両断される。もはや小川の腕は機能せずただの肉の塊になった。
だが
(まずい、肉と骨で受け止められた!拳銃が来る!)
健也の技術があればものの数秒で小川の命を絶てるだろう。だが拳銃はそれより早く発射される。小川は震えた手で拳銃を持ち銃口を健也の心臓に押し当てた。
(マズい、マズいマズい!)
健也の命は、保証されている。
少なくともあと一秒までは。
終わるかと思ったら終わらんかった
いつまで変態と戦わせるつもりなんだ




