零話「出会いは突然に」
僕の名前はムラマサ。
それが僕の名前。
いや、名前だった? かな?
いや、もしかしたら名前じゃなかったかもしれない。
愛称だったり、ハンドルネームだったり、遊んでいたゲームのキャラクター名だったり?
なんだか思い出そうとすると思い出せないってかんじっていえばいいかな。
ただ、趣味とか好きな食べ物とかはスイスイ出てくるんだけどね。
なんだろ……。歯に食べ物が挟まって取れない感じがしてもどかしいな。
困っちゃうね。
しかもだ。困惑している僕とはうらはらに今、僕の目の前には自称神と名乗る怪しい人物が居た。
いや、正確には人なのかも怪しい。
なにせ、人の形は見えているけど、その姿は良く見えない。
あれだ、TVで言うところのモザイク処理されている感じだね。
姿を見ようとするとぼやけちゃうんだ。
むしろ、夢だったら良いなっておもったわけで。
「おお、ムラマサよ! 突発的病で死んでしまうとは情けない!」
神を名乗る人物が、どこかで聞いたことがあるようなフレーズを口にする。
しかも結構ノリノリだ。
うん、これは夢って事で頭に入れておこう。
でも、突発的病で死んだ?
なんだろ……あーあれか?
インフルエンザで意識が朦朧としてたような……。
これはありえそう……かも。
昨日の夜に急な発熱で寝込んで倒れちゃったんだよね僕。
次の日に病院行けば良いとおもってたのが仇になったのかな?
……やっぱり夢って事にしておきたいな。
「夢だったら良かったな! だが現実だ! 受け入れてもらおう!」
思いっきり心を読まれてるし。
やめて神様! 僕の精神的不安が増加しちゃうよ!
「情緒不安定大いに結構!
だが、君は運が良い!
何故ならこの神に選ばれたのだからな!」
なんだか雲行きが怪しくなった。
神様に選ばれるとか、運が良いレベルで良いのかな?
うち、無宗教なんだけど……。
「フハハハハ! かえってそれが功を奏したのだ!
変な宗教観をもたれては、旅立つ先で困るからな!
ムラマサよ! 君は異世界に興味があったな!」
神様、それって本とか趣味のレベルですけどね?
それが何か関係ありました?
あと、旅立つってどっかにつれてかれるんですか?
不安がましますよ?
「うむ! ムラマサよ!
君にはこれから転生をしてもらって、異世界に旅立ってもらおう!
そして、その世界にある魔力溜まりを潰して欲しいのだ!」
何それ怖い。異世界転生モノで使命ありきなの?
めちゃくちゃ大変なパターンじゃないのそれ?
ひ弱な自分じゃ絶対無理でしょ。
まだ、勇者召喚系の方が恩恵ありそうじゃない?
いや、でも、そっちも苦痛が多そうで嫌かな……。
「だ、大丈夫だ! 神が君に恩恵を与えるからな!」
はあ……。それは嬉しい限り……ですかね?
あと、微妙に自信がないのは何ででしょうか?
不安材料多くない?
「安心しろ!
君の好きなファンタジーな世界だぞ!
剣と魔法の異世界は好きだろう?」
好きですけど、それ趣味レベルですので……。
実際そこに行かされる側としては……何ともですね?
ほら、ファンタジーってドラゴンとか精霊とか色々みたいけど、ひ弱な僕じゃどうしようもないきが?
「ぐぬぬぬ! では死んだ君を元の場所に戻しても良いのか?
記憶も形も全て無に帰する事になるが」
それはそれで困りますね?
うーん。何だろ?
不安も恐怖もあるんだけどなぁ。
なんだか味気ない感じがする。
戻りたいけど、死にたくもないし、戻れなくてもいいかなーって思い出してきてる感じ?
なんか、自分が自分じゃないようなボーっとした感じがする。
これ、何かされちゃったのかな?
「ああ、そうだったな。すまない!
こんな不可思議な話で発狂されても困るから、神が君の頭をちょ~っとばかり弄ったのだ。
記憶についてもちょ~っとおかしいところがあるかもしれないな!
許してくれても良いぞ?」
だめじゃん?
てか、いじれるならもうイエスマンにしとけば良いんじゃないの?
『はい』か『はい』で応えなさい的な。
「それでは味気ない!
神はいつだって好奇心を求めているのだ!」
子供か!
なんて迷惑な神様なんだろう……。
でも、死んだ自分を優遇してくれるならまだ、良い神様なのかな?
うーん……。判断がつかないね?
嬉しいけど、嬉しくないみたいな。
余計に困っちゃうね?
「頼むムラマサ! このままではその世界が危ないのだ!
了承をしてくれ!」
なんだかなー……。
了承しないと駄目なの?
さっきまで、強制的だったじゃない?
「あくまでもこれはお願いなのだ!
お願いという形をとらねばならんのだ!
神たるもの、そうでなくてはならない!」
うわぁ……。めんどくさそうだね。
神様も大変なんだね。
まあ、死んじゃったのなら良いと思うよ?
元の世界に戻れないっぽいし?
「そうかそうか!
では、現世の君をベースにしてその世界で生きやすい形にしてやろう!
年齢も今と変わらず若者のままだ!」
僕が了承すると、神は何処からともなく出した杖を振るった。
杖から出てきた光が僕の体に入って、体が熱くなるのを感じる。
神様、魔法使いっぽくてそれいいね。
「そうかそうか!
なら、君はその世界で一番の魔法使いにしてあげよう!」
それは嬉しいね。
魔法使いってファンタジー好きなら誰しも憧れるしね!
「それとこれをもっていきたまえ」
そういって、神が僕に衣類一式と杖をくれた。
着てみるとなんだか、魔法使いっぽい感じのフード付きの法衣に大きな杖だ。
良いね!
ちょっとだけテンションあがるかな?
「では、最後に大事な事を話す。
まず、第一の使命としての魔力溜まりについてだが……」
神様が話すと僕は無意識に何度も頷き始めた。
どうやら、説明を聞いてても、聞かなくても、頭に入るっぽい。
なんだ、結局洗脳じゃないこれ?
いや、刷り込みかな?
「ええい! 少し黙って聞け!」
神様も大変だね?
まあ、たしかに神様だしね?
苦労は人それぞれあるのかなって僕は思った。
あ、神様は神だったから人じゃないんだっけ。
「黙って聞けといってるだろうに!」
ああ、ハイハイ。聞きますよー?
聞きますからねー?