第3章:残された家族
第3章
「プ…プリムちゃん?この子プリムちゃんのお子さんなの?ランドの娘なの?」とルナは聞く。
ここは、ランドの家の台所。
5人は机を囲んで座っていた。
「いえ…私じゃ無いんです」とため息をついて答えた。
もちろん、それはランドの娘では無いと言う意味でだが…。
「何!?アネさんの子供じゃないって!!」とソルが叫ぶ。
「って言う事は、母さんの姉の娘の従姉妹の娘さんか?確か、ランドと仲が良かったから…つい」とルルは静かに言う。
「いや!それは無い!母さんの(以下省略)は、確か先月辺りに結婚してた気がしたが!もしかしたら、母さんの(以下省略)の友達の友達の友達かも知れない!あの子、ランドを気にしてたよな?」とソルは言う。
「いや、それなら母(以下省略)の友達の友達も、ランドにベタ惚れだった気がしたが…」とルルは答えた。
「あーもー!うるさーい!!」とプリムは叫んだ。
ソルとルルが黙り込む。
「ルナお母様の従姉妹の友達の友達とかって、そう言うのじゃ無いのよっ!」とプリムは怒って言う。
「いや!違う!」とソルは言い出す。
「正しくは、母さんの姉の従姉妹の娘の友達の友達の友達ですね」とルルは言い出した。
「だーかーらー!違うって言ってんのよ!」とプリムは再度叫ぶ。
「もしかしたら、私の姉の妹の息子の彼女の子供かも!」とルナは言い出した。
「ちーがーう!って言ってんの!しかも、今の台詞を良く聞くと私の子供って言ってるじゃないですか!そうじゃ無いって言ってるでしょ!!良いからこの子の話を聞いてっ!」とプリムは叫びソフィアを指す。
ソフィアはあまり、状況を掴めて無かった。当たり前だが…。
「あの…私、ソフィアと言います。クルシス母さんの娘です」と小さな声で話す。
「ええええっ!貴方、狼なの?人間みたいな姿をしてるけど…」とルナは驚き聞く。
「はいっ!私、人間の魂を宿した狼です!実は、私の弟のランド・ウルフを探してるんですが、知りませんか?」とソフィアは答えた。
「ランドのお姉さん?…でも、見たところランドより年下に見えるけど?」とルナは答えた。
「えっ?それは有り得ません!だって、私が産まれた頃は、ロクサス兄さんしか居ませんでしたから…」とソフィアは答えた。
プリムは、あーそうか!と思った。
多分、この子が産まれたのはランドを拾う前。
この子が拐われて、その後に拾われたランド。
この子は、拐われた後にクルシスがランドを産んだと思っていてるに違いない…。
「ねぇ、ソフィア聞いて」とプリムはソフィアに話しかける。
プリムは、ランドの経緯を話した。
ランドは、親に山に捨てられてさ迷ってクルシスに拾われた事。
ランドは人間を恨んでいた事。
そして、この家族がランドを拾ってくれた事。
全てを話した。
「そう…だったんですね。血の繋がって無い、私のお兄さんだったんですね」とソフィアは落ち込んだ。
無理も無い。
ずっと探し続けていた弟は、血が繋がっていなくて人間のお兄さんだったのだから。
「でも…、せっかく探し出せたんで会わせて下さい!」とソフィアは叫ぶ。
その言葉を聞き、プリムやルナ達の表情が曇る。
「実はね…」とルナは今までの事を話した。
「そんなっ!あの人間達は、父さんを奪って私を拐ったのにも関わらず、兄さんまで…」とソフィアは泣き出した。
「でも、ランド兄さんは、起きるんですよね?」と聞くが、誰も答えなかった。
「アッチの部屋で眠ってるから会いに行ってあげて。きっと喜ぶわ。こんな可愛い妹が居たなんて…」とルナが泣き出した。
ソルとルルは、そっと母を支えた。
プリムは無言で席を立ち、ソフィアをランドが寝ている部屋まで案内した。
ソフィアは部屋のドアを開けて中に入って行った。
「ランド兄さん?初めまして、私ソフィアって言います。兄さんを探してここまで来ました」とソフィアはランドの顔を見ながら話す。
ランドは、反応を見せなかった。
ソフィアはそうだ!と思い…
「兄さん、ランド兄さん起きて!」と直接頭の中に語りかけた。
プリムは、ソフィアが何か狼の鳴き声でランドに話し?かけてるので、驚き近付く。
ソフィアはずっと、狼の鳴き声でランドに呼び掛けている様だった。
しかし、ランドは眠り続けた。
「ランド兄さん…やっと会えたのに…。やっと…ここまで来たのに…、私はランド兄さんだけが家族なのに…」と目から涙が流れた。
"家族"その言葉を聞き、ランドは少しだけ反応を示した。
プリムは再び驚き、ランドに呼び掛けた。
しかし、ランドの意識は帰って来ない。
「何で…何でなの!お願い!起きて!目を覚まして!」プリムは何度目だろうか、同じ言葉を繰り返した。
「私に…私にも、クルシス母さんと同じ力があったら、兄さんを救えたのに…」とソフィアは呟いた。
プリムは、はっ!とした。"クルシス母さんと同じ力"…人を癒す力。
この子は、聖なる狼の実子…力を継承しない訳が無い!
プリムはソフィアを見た。瞳は赤い…。
ランドは、ウルフになると瞳が赤くなる。
傷を癒す時は、青くなる。
今、この子は人間の魂を宿し獣人化をして人間の姿になっている。元は狼の姿をしているに違いない。
何故、クルシスは傷を癒す時に青くなるのだろうか…。何故、この子はまだ力を継承されていないのだろうか…。
人間を恨んでいたから…恨まなくなったら力を継承した?
違う!ランドは言っていた。何かを守る為…家族を守る為。家族を救いたいと言う気持ち!
誰かを守りたいと言う気持ち!!
そう思えたからこそ、人を癒す力を身に付けた。
ならば、何故この子は力を使えないの?
人間の魂を宿したから?違う!
誰かを救いたいと言う気持ちが無いから?
違う!彼女は、本気でランドを救いたいと思っている。
じゃあ何で力を使えないの?
何も必要無いんじゃ無いの?
ランドは力を身に付ける条件を全て満たした…
彼女も条件を満たしている…
なのに使えない。
彼女は何処かで嘘をついている?
何処で?
クルシス母さんの子供?
違う!最近の方よ!
彼女はランドを探している。は本当だろう。
次に会いたいと言い出した。これも本当。
でも…会いたいと言う理由は何?
家族だから?一度も会ったことの無い人間を兄さんと呼べる?
ランドの顔を見た時に言った。彼女は確かに兄さんと言った。
それは何処で判断したの?さっきの会話の中で?
違う!
彼女はランドに会ったことがある!
ランドが人間だって言う事に、あまり驚かなかった。
彼女は探していた。
それは、彼を…
でも、彼女は彼に会った事がある。それは何処で?
会った事があるのにも、関わらず彼女は探していた。
何故?そのまま一緒にいたら良かったのに…
違う!一緒に居れなかったんだ!それは何で?
一緒に居たかったのに、一緒に居られなかった理由…それは、ランドが誰かと一緒に居たから。
誰かと一緒に居たから、彼女は居られなかった。
そしたら、彼女は思うハズ。
その人を殺せば、残された家族は、また一緒に暮らせると…!
ランドといつも一緒に居た人物。
それは、私だ!!
彼女は、ランドに会いに来たのでは無い!
私を殺して、ランドと一緒に森に帰るためにこの機会を狙っていたのだ!
「プリムさん?どうかしましたか?」とソフィアは考え込んでるプリムに聞いた。
「ううんっ!何でも無いっ!ははは…」とプリムは苦笑いしながら答えた。
なんて…そんな事無いわよね…。
もっと他に理由があるハズよ…。
何かをしていないから、力が使えないのよね。
それは何だろう?
違う!何かをしているからこそ使えないのだ!
そうだ!
プリムの考えは1本に繋がった。
ランドは普段の姿では、何も使えないが高速移動だけは使える。
それは、ウルフの能力の一部。
ウルフになれば、人を癒す力が使える。
でも、この子は逆なんだ!
普段は狼の姿をしている。
人間は特殊な能力を持っていないから、狼の時では何も能力は無い。
人間の姿になれば、足で歩く事も話す事も出来る!だから、彼女は"ずっと"人間の姿をしているんだ!
彼女は既に、力を継承している!だが、人間の姿をしている為に力が使えないのだ!
「ソフィア!狼の姿に戻って!」とプリムは叫ぶ。
ソフィアは目を丸くしていた。
何故、この場で本来の姿を出さなくちゃいけないのか…ソフィアは意味が分からなかった。
「私、思ったの!ランドは、ウルフの姿になった時だけ人を癒す力が使えるの!
貴方は、狼の姿に戻った時だけ力が使えるんじゃ無いかなぁ〜って思ったんだけど…」とプリムは最後の方で自信を無くした。
ソフィアは少し考えてから頷いた。
「それは、試した事が無かったです。私、ずっと人間の姿で生活をしていました!だから、力が出なかったんですね?」とソフィアは答えた。
ソフィアは天井を見て、そして目を瞑った。
ソフィアの体は一回り小さくなっていき全身を綺麗な白い毛がおおる。
ソフィアは真っ白い雪の様な毛をした狼に戻った。
兄さんを助けたい…兄さんと話したい…
兄さん…起きて…
と心から強く願う。
すると、ソフィアの目が赤から青に変わって行った。
ランドを優しい光が包む。
ランドが目を開けた。
「こ…これは?母さんの…」と両手を顔の前に持ってきた。意味は無いが…。
光が消えた。ソフィアは、疲れた様でランドの膝の上に頭を乗せた。
「アリガトウ…お前が、俺を治してくれたんだな…」とソフィアの頭を撫でた。
「良いんです。兄さんが、起きてくれたから」と頭の中に語りかけてきた。
「兄さん?そうか…この力。クルシス母さんの、子供なんだな。母さんには、もう1人子供がいるってロクサス兄さんが言ってた。アリガトウ…」とランドは話す。
「兄さん…会いたかった…」とソフィアは語る。
「俺も会いたかったよ…」とランドは上半身を起こしてソフィアに抱きついた。
そして顔を見上げる。
「プリム…プリムにも会いたかった」とランドは笑顔を見せた。
プリムの目からは涙が止まらなかった。
ランドが起きた時には、笑顔で向かえるつもりだったのに。
必死に涙を止めようとしたが、目からドンドン溢れ出てくる。
ランドは、立ち上がるとプリムを抱き締めた。
「ありがとう…プリムの声聞こえたよ。返事、出来なくてゴメン」と囁いた。
プリムは首を横に振る。
「いいの…こうして、ランドに会えたから…」
とプリムは顔を上げた。
「ヒドイよ…ランド。いきなり起きるから、笑顔で向かえる事出来なかったじゃん!」とプリムはもっと強くランドに抱きつく。
「さぁて、このあと2人はどうするでしょうか?」とルナが言う。
ビクッとしてランドが振り向くと、後ろでルナがソフィアとソルとルルに聞いていた。
「ネズミを捕る!」とソルが答える。
「獣人化する!」ルルが答える。
「お風呂に入る?」とソフィアが答えた。
「さぁ、この中に正解はあるんでしょうか?」とルナは手をマイクの形にしてランドに聞いた。
「ブッブー全員不正解!」と言いプリムの方を振り向くと、キスをした。




