出会い
薪が爆ぜる音で目を覚ました。
覚醒しきらない意識の中で無理に体を起こそうとしたら、全身に鈍い痛みが走り呻き声を上げた。
ボクはいったい……。
目を開けると、視界いっぱいに草が映った、怪訝に思い首を動かして辺りを窺う。そこで初めてドラム缶のような巨体の女の子と目が合った。
電流が流れる様に昨夜の光景が頭を駆け巡る。
そんなボクを見て、ドラム缶女は
「安心して、俺中身おっさんだから」
と言った。
「は?」
ボクは意味が分からなかった。安心できる材料がどこにも無かった。おっさん、つまり同性と思って接していいよと言う意味で捉えていいのか、それとも場を和ませようとしてくれているのか計りかねる発言だった。
ボクは暫く、ドラム缶女を見ていた。
ドラム缶女は、手に持っていた薄い本に視線を戻し、それから
「昨日は危なかったな、ユリに見つかるところだった。」
と言った。
「は?」
ボクは2度目となるセリフを言った。
「こんな時期に、百合ノ賛歌を流すなんて命知らずな、周りをユリに囲まれていたんだぞ、俺が慌てて結界を張らなかったらどうなっていたか。」
ドラム缶女は、周りを指差した。
ツッコミどころ満載の会話だったが、とりあえず周りを見た。
「うわぁ……なんだコレ」
ボクはドン引きした。
まるで、山の中のエロ本廃棄スポットの様な状態だった。それがボク達とテントを囲う様にぐるりと敷き詰められていた。
ドン引いているボクに気付かずにか、ドラム缶女は
「読んでいいぞ、名作ばかりだ、一番外側にR-18作品があり、内側になるにつれて全年齢になっている。」
そう言って、近くにあった本をボクに渡してきた。タイトルは『永遠の801』と書かれていた。
「いえ、お構い無く」
ボクはやんわり断った。
ドラム缶女は残念そうに本を元に戻した。「CPが違ったか」と呟きながら。
そういう問題では無いんだけどな。思ったが口には出さなかった。その代わり
「あの、ユリに囲まれていたって?」
疑問に思った事を聞く事にした。
「なん……だ…と……。ユリを知らないとは」
すると、ウザいほど大げさな感じでそう言われた。
かなりイラッときたが、ボクは大人だ、平常を装って
「ええ、宜しければ色々と教えて下さい。」
と言い頭を下げた。
「いいだろう、修行を重ねていけば立派な腐男子になれるだろう。」
ドラム缶女は、何やら悟った様に頷いている。
ボクはほっといて次の言葉を待った。
「だが……まずはお前のペンネームを教えてくれないか?」
「ペンネーム?」
「うん、カキシブの」
「柿渋⁉︎」
「な……んと⁉︎」
ボクは意味が全然分からずドラム缶女の顔をまじまじと見つめた。
いきなりペンネームを聞くとか何考えてんだコイツ……。
ドラム缶女は少し考える様な動きをして
「なら、SMSの名前で」
と言った。
ボクはよくわからなかったので、本名を告げる事にした。
「ボクの名前は近衛です」
「近衛か、さっそくフォローしよう、ちなみに俺の名前は腐・助士だ!よろしく」
「……よろしくお願いします。腐さん?」
「助士でいいぞ」
「はぁ。」
腐女子と名乗ったドラム缶はボンレスハム(手)を差し出してきた。
ボクも、手を出して握手しながら考えた。
(とんでもない名前を付ける親がいるもんだと)
「さっそくですが、ここは何処ですか?」
「御ゲイ星の北東、友情の町を南に下った修行の道の最初の森、目覚めの森だ」
「んん⁉︎」
ボクは、自分のバイクまで走っていき、荷台に積んでいた荷物の中から地図を取り出した。それから、自分がいるであろう県のページを開き、腐女子に見せた。
「この辺りにいると思うんですが、ここは何号線ですかね?」
「何処かと聞かれても……修行の道といえば、腐ノ道しかないだろう?そこの最初の森だ」
ボクは地図を持ったまま固まった。
腐女子は、ボクの持っていた地図に視線を向けると
「ファーー‼︎もしやこれは……日本の地図ではないか‼︎‼︎」
と言い、奇声を上げた。
「……そうですけど。」
ボクは若干引きながら、地図を地面に置き、少し後ずさった。
腐女子は気にすることなく、地図を拾い上げると、物凄い速さでページをめくりだした。
「こっ……これは……聖地、東京ビックサイト‼︎‼︎」
とあるページを開き、それを食い入る様に見つめたと思ったら、地図に向かって手を擦り始めた。
しばらくすると
「こうしてはいられない、早く御超腐人に伝えなければ‼︎近衛、出発するぞ!」
と言って立ち上がった。
「待ってください!何が何だか……。」
ボクは腐女子を止めようとしたが、お構いなしに、腐女子は天を仰ぐといきなり
「ファーーーwwwww」
と雄叫びを上げた。
すると、何処からともなく白い4足歩行の生き物が地を這って現れた。
その生き物は、サッカーボールほどの大きさだったが、散らばっている薄い本を一つ一つ食べていくにつれて、大きくなっていった。
ボクはバケモノを見るかのようにその光景を見ていたが
「早く準備をしろ‼︎」
の声で、とりあえず動くことにした。
テントをたたみ、バイクに積んでいく。
腐女子は準備が終わったのだろう、ロバほどの大きさになった白い生き物の上にまたがっている。
ボクは準備を終えると、一つ重大な事を思い出した。そう、ガス欠だ。
「近くにガソリンスタンドってないですか?」
ボクは腐女子に聞いた。
「そんなものはない、仕方がないな……。」
腐女子はボクの方に近づくと、バイクに触れ
「ビーエルノヌマニオチテユケー」
と呪文を唱えた。
すると、雷に打たれたかのようにバイクが光り輝いた。
あまりの眩しさに目をつむった。
恐る恐る目を開けてみると、燃料タンクの部分に大きな切れ目が入っていた。
「バイクが……。」
落ち込むボクを尻目に、腐女子は数冊の薄い本を、切れ目に押し込んでいった。
すると、不思議な事にバイクのエンジンがひとりでにかかった。
腐女子はこちらを見ると
「これなら、駆け出しの村までもつはずだ、夕方までには着くだろう、早く行くぞ!」
と言った。
ボクはとりあえずついていく事にした。
つづく