僕と男のスタート
原田の話を考えていたらまた時間はあっという間に過ぎていた。
「港!お先!明日教えてな」原田は、幸せそうにゲーセンへと向かった。明日は、原田のゲームのスコアとか聞いて昼休みを終わるんだろうと思った。そんなことを考えながら廊下が走る音が響き前を見れば原田の姿が見えなくなっていた。
「あいつ。早い。」原田は、遊びに関してはいつも以上の行動力をもっていた。自分にはそんな魔力的なものはない。平凡な自分に飽きていたただの凡人だ。本当に飽き飽きしていた。毎日毎日、リピートのように過ぎていく。
放課後、教室は静かになる。もう残っているのは僕といつも静かで頭のいい園田玲がなにかを見つめていた。園田は、クラスでは浮いている。同い年とは思えない。
そんなことは、今は考えてる場合ではない。早くあの店にいかないと時間がなくなる。
鞄に教科書や筆箱を入れた。
「市崎、くん」目の前に園田がいた。正面から園田を見るのははじめてだった。目が大きくて肌が白い。やっぱり同い年には見えない。
「あ、園田さん。どうかした?」
「市崎くん、原田くんとの話を聞いてしまったたんだけど……」
「え……聞いてたの?」園田は、頷いた。まっすぐ僕をみる大きな園田の目からそらせなかった。
「まあ嘘かもしれないし、原田が言うことだから気にしないで」
「あ、それであの店は」
「あ!今日用事があるから急ぐんだ。明日原田に聞いてくれないかな?ごめん園田さん」園田の返事も聞かないまま鞄を持ち急いで教室から出た。いきなりの出来事に不安のようなものを感じた。
廊下を走る僕は、犯罪を起こしてしまったかのように焦っていて後ろを振り返れば園田がいるような気がした。
階段の前に着き、振り返れば園田の姿が見えた。これから何かが起きるのではないかと園田がいたことで思った。
「市崎くんがコマ……」
「市崎港、園田玲。店に来れば私のルーレットが回せる。楽しみだな市崎港」コマの僕は、もう二つ進んでいた。あと一つで人生が変わることにまだ気づいていない。
園田から話かけられた時、何か笑い声が聞こえた気がしたんだが気のせいかもしれないが気になっていた。
校舎から出るとそんな気になっていたことがどうでもよくなり商店街に向かうことにした。いつもの道がなんだか違う道に思える。原田と帰る時とも違う。不安と期待が半分半分になっていた。
あんなに賑やかな商店街に本当にあるのか疑問だが原田の言うことは嘘ではないと信じている。
友達だから信じているとではなく、原田は嘘をつくことが出来ない性格だと知っているからだ。原田も僕の性格は、把握しているだろう。
話をして、行かないわけがないと原田自身がわかっていたにちがいない。
ゲームの設定にすれば、僕は主人公で原田は情報屋。
原田は、今頃無邪気に遊んでいるんだろう。
商店街に入ると、原田の話からは想像出来ない。
いつも賑やかな商店街、今日も盛り上がっている。
寄り道をしている高校生が肉屋でコロッケを食べたり、今日の晩御飯に八百屋で食材を調達していたり声を張り上げお客を呼ぶ魚屋の店主、ご老人の話を聞くお菓子屋の店員さん、さまざまなな人達がいた。商店街は、いつもいろんな人達でいっぱいだ。
「原田の言ってたボロボロの店ってこの先だと……あれ」原田の言ってたボロボロの店に繋がる道が見つからなかった。原田が嘘をつくわけはない、けど探してるのにわからない。
「確かにここなんだけど……」
「市崎港くんだね」背後から低い男の声がした。
「市崎港くん、探している店に案内する」
「え……」
「なんで、名前を知っているのかと言う質問は後でしよう。私は、市崎港くん君に会いたかったんだ。ずっと待っていたよ君を」
わけがわからない男は、周りから見えないのか時間が止まったかのように周りの人達の動いていなかった。動いているのは、僕と僕の背後にいる男だけだった。
なぜこの男は、僕を知っていて周りの時間を止めたのか疑問だらけだった。
「市崎港くん、あまりこの時間を止めるわけには行かないんだ。ついてきたら店の場所がわかる」
「一つだけ質問していいですか……」
「私のことを聞きたいんだね。わかった、これだけ言っておこう。君のことは全て知っている。友人や家族のこともだ。ボロボロの店の常連客とでも言ったほうが言いかな。君は、原田真介くんの話を聞いて帰りに行こうとした。園田玲に初めて声をかけられ話を聞かれてたことに驚き急いで商店街へ来たんだね」全てお見通しなようだ。でもなぜわかるのか人間だとは思えない。
「私は、人間だよ。市崎港くんと同じ人間だ」心を読まれた。変な考えはしないほうが良さそうだ。
「今の考えは、当たりかもしれないよ市崎港くん」
「そのようですね」自分の考えを捨てこの男に従った。男は、前を歩きだした。いつの間にか周りがまた賑やかになり動いた。
だが、男は周りから避けられているようだ。もしかすると見えていないのか本当に人間なのか疑問だ。
男についていくと、商店街の道なのか疑うくらい複雑だった。
よく原田がわかったなと思う。
「原田真介くんは、優秀な情報屋だね」
「え……真介と話したんですか?」
「いえ、知っているだけですよ。見れば分かります。市崎港くん君は、原田真介くんのことをまだわかっていないようですね」
「え……なぜそんなことを言うんですか」
「原田真介くんは、市崎港くんには教えたくないようです。着きましたよ」原田が言っていたボロボロの店に着いた。原田が僕にいえないことがあるなんて嘘がつけない原田が隠し事。
「市崎港くん、君が考えてる原田真介くんは少し違うかもしれない」ボロボロの店に着いた事よりも男の話でいっぱいいっぱいだ。
「あの、あなたはなぜそんな僕の事を知ってるんですか?その周りの事も。今日この店に来ることも」
「私が市崎港くんを知っているのは、君は選ばれたと言ってもいいでしょう。見つけたのです。初めに会いたかったと言いましたよね?君は私のことを知らないのは当たり前です。私が君を探していたのです。はっきり言えばですね」
「はっきり言えばなんなんですか」
男は、僕の目を見て少しにやついたような顔をした。
「はっきり言えば、市崎港くん。君はコマなんです」
「……コマってなんのですか」
「ふふ……SAIです」
「SAIってなんなんですか?」
男の顔が一変し僕と男の人生ゲーム(SAI)が始まろうとしていた。