抜け道にはぼろぼろの店
「あともう少しだ。」暗い部屋に明かりはただひとつ。煙草の煙がかすかに見える部屋で一人人生ゲームを楽しむ男がいた。不気味な笑いに猫は逃げていく。商店街のがやがやとした音もなく何も聞こえない場所にその店はあった。
誰も行かないようなぼろい店にただ一人楽しんでいる男に不気味でしょうがないだろう。 男は、人生ゲームのサイコロを手で投げては掴みあげ何かを待っているように思えた。
人生ゲーム。それは誰もが楽しむ人生が勝ち組か負け組かを競いあい家族や友人や恋人たちと楽しんで遊ぶものだが、男の遊び方は違っていた。
男の人生ゲームには、そんな楽しみも消えていた。
男は、サイコロをふり出た数の目を動かしていた。コマと言うのはサイコロを回してる本人がなるものだが男のやっている人生ゲームは違っていてコマは男が選んだ人物になっていた。
男の人生ゲームが始まったのは、僕がまだ高校二年の冬休みであった。僕は男のコマとなっていた。
「なぁ、今日帰りゲーセン行かない?」まだ一時間目が終わったばかりなのに遊ぶことを考えている男は、原田真介同級生だ。原田とは高二になって席が近く好きなゲームが同じだったことから仲良くなった。後、3日で冬休みになるというのに遊びに夢中な原田は幸せそうだ。
「原田、今日は悪い。金がなくて。」本当は、お金はあった。金がないのは嘘だ。昨日は宝くじも当たっていた金額は、少ないが高校生にとっては一週間はもつだろう。高二になってから金に困ったことがない。なぜここまでお金が困らないのか本当にびっくりしている。バイト先の給料もいつの間にか上がっていた。ただ運が良いだけだと自分ではそう思っていた。 運が良すぎて今では怖くなっていた。誰かが自分の運を使っているように考えたり明日死ぬのではないかと怖くて仕方ない。頭の中がごちゃごちゃになっていた。
「なぁ、港」最近の自分を考えていたらもう昼休みに突入していた。暇なときはやっとかと思うが今日はあっという間に時間が過ぎていく。
「あ、真介どうした。」原田は、少し面白そうな顔をしていた。
また新しいゲームを見つけたのかと判断してしまった。
「最近なんだけど、学校帰りにいつもの商店街に行ったんだよ。」予想と違った言葉に少し話が気になり始めた。
「商店街?今なんかやってるのか?」原田は首を横にふり少し顔がこわばった。
「いや、商店街の近くに変な抜け道が出来ててちょっと覗きたくて入ったんだ。ずっと商店街は通ってたけど初めて見たからびっくりしたんだよ。」商店街は、いつも原田とゲーセン行くときは通ってるし買い出しも行ったりしてよく見ているはずだ。何でそんな抜け道があるのか疑問に思った。原田の話をもう少し聞くことにし原田の目を見た。
「いつも商店街通るし、見間違えたんだろ。そんな道なかったぞ。」原田は、真剣な顔で話を続けた。
「いや‼本当にあったんだよ‼抜け道に入ったし実際にあったんだよ。」原田の真剣な言葉にうそはなかった。
「入ったのか?」本当の話なら今日寄ってみたいと思っていた。
「入った!だけど、ぼろぼろの店があるだけで対しておもしろくなかった!」原田が最終的に何を伝えたかったのかわからないがとりあえず伝えておこうかなというような話に思える。ぼろぼろの店があったと原田が言っていたがぼろぼろ店があるなら誰かしら気づいて建て直したり綺麗にはしなかったのかと深く考えてしまった。
「ぼろぼろ店だけど、夜に行ったら怖いだろうな!港今度行ってみないか?」 原田の性格上そうくるかと思ったが今日の帰りに行くと結論がでた。運がいい自分に何かが起きるんではないかとわくわくしていた。
「今日寄ってみるよ。金ないし。真介が本当に嘘ついてないか確かめてくるよ。」笑いながら原田に
答えた。原田の反応はやはり。
「本当だって言ってんのに。」少し怒っていた。そんな原田といつものように教室でお互い好きなゲームをやりながら焼きそばパンとメロンパンを食べながら昼休みは終わった。
授業は、相変わらず頭には入ってこないでいた。頭の中は、抜け道のぼろぼろの店のことでいっぱいになっていた。
自分の何かが動き出したように思えた。放課後を待ちきれずにそわそわしていた。まるでゲームの発売を待つ子供のようになっていた。
僕が今この時、原田の話を流していればあんなことにはならず平凡に暮らしていただろう。この出来事で僕の人生のゲームが始まっていたことに後悔をするだろう。
あの男のサイコロが回りコマが進んでしまった。サイコロの目は、三つを表した。
「本当、運がいいな。市崎港。」男は、僕を待っていた。