プロローグ
「さて、今回はどれくらい楽しめるのかね・・・」
俺以外誰も居るわけではない自室のパソコンに向かって、
キッチンで作ってきたインスタントコーヒーを飲みつつニヤニヤと呟く。
ネットゲームを始めたのは3歳の頃、親父がプレイしているのを横で眺めていたら、
「お前もやるか?」と誘われたのが始まりだ。
外で遊ぶような性格でもなく、誰か仲の良い友達が居るわけでもない俺にとっては、
人と交流する事が当たり前のネットゲームがとても新鮮で、面白く感じられた。
毎日毎日親父にネットゲームがやりたいとせがみ、親父のプレイ時間を奪っていき、
自分のプレイに支障が出るから、と専用のパソコンを買い与えられた程にだ。
幸いにも親父以外の家族もパソコンやゲームには理解あったし、プレイの時間制限もされなかった俺は、
1日の殆どをネットゲームに費やすようになっていった。
当然そんな廃プレイをしていればゲームの中のキャラクターはどんどん強くなっていく。
誰も辿り着いた事の無いダンジョン、誰も装備した事の無い武器や防具、誰も倒せないフィールドボス。
どれか一つだけでも成し遂げれば、有名になって敬われ、羨ましがられる。
そんな優越感が更に俺の廃プレイに拍車をかけていき、いつしか最強のプレイヤーと呼ばれていた。
最強という言葉を俺は酷く気に入ってしまい、プレイしていたネットゲームが飽きてきたら、
新しいネットゲームを探し、最強の称号を求めて廃プレイをし続けていた。
15歳になった今も、相変わらず最強の称号を求め続けている。
今ダウンロードしているのは大人気MMORPG「フェアリーコンチェルト」。
リリースから半年経ち、今一番人が集まっているネットゲームだと言われている。
「完全に出遅れてしまったけどなんとかなるだろ、情報サイトがしっかり出来上がってるしな!」
ノーマークだった自分をフォローするように言い聞かせ、
情報サイトのMikiを一字一句見逃さないように片っ端から読んでいく。
情報というのは大事だ、最前線は全て自分で体感しなければいけない。
最前線が体験した事を情報サイトに書き込み、後続プレイヤーはその情報を読みつつ攻略の手助けにする。
前線組に得が無いように思えるが、これはレアドロップが流通する量を増やす為にやっているのだ。
最前線というのは、ワンランク上の装備やアイテム、素材を後続プレイヤーに売る事で
ゲーム内で一番手っ取り早く多額の通貨を確保する事ができる。
前線組から購入した後続プレイヤーは通貨が無い為、ドロップアイテムを売却してお金を稼ごうとする。
前線組は潤沢な資金でレアドロップアイテムを後続プレイヤーから購入する。
最終的には前線組が得をするからこそ、成り立っているシステムだ。
この搾取される側である後続から抜け出す方法は一つしかない
情報を有効活用し、効率の良いレベリングと金策を行い、最前線組に追いつく事だ。
Mikiを読み終えた頃、丁度良くダウンロードとインストールが完了するアラート音が鳴った。
「よっし、じゃあサクっと最強狙いに行きますかね。」
頭の中で手に入れた情報の整理をしつつ、ゲームスタートのマークをダブルクリックした。