24 タイムアップ?
収穫祭の間にジュリアとジョージを引っ付けようとするグローリア伯爵夫人やセバスチャン執事やメーソン家政婦達の命で、侍女のルーシーは二人と別のテーブルで、お茶をしながらあれこれ考えている。
『こうして、わざわざ二人っきりにしてあげているのに、どうも色っぽい話をしてなさそうね』
二人はゲチスバーモンド領の特産品に及ぼす精霊の種類について話し合っていた。
「元々、ゲチスバーモンド領には精霊が多かったのです。でも、内乱でかなり減りました。今年はジュリア様のお陰で以前よりも増えたようで嬉しいです」
精霊が増えたのが自分のお陰だと言われて、ジュリアは恥ずかしがる。
「そんな……私がいると精霊が集まるのは確かですが、それが本当に役立つのかどうか不安です。だから、そんな風に言われると困惑してしまうのです」
ジョージはジュリアの自信の無さに驚き、呆れる。そして、何故カリースト師が闇の精霊を呼び出すのを禁じられたのか理解した。こんなに自我が保てなくては闇の精霊に乗っ取られてしまうのを案じられているのだろう。
「ジュリア様、少し海岸を散歩しましょう」
ジョージはジュリアに自信を持って貰いたかった。でも、どうすれば良いのか分からない。普通ならゲチスバーモント伯爵家に生まれて、大事に育てられれば自信など自然と身に付くのだ。遠い親戚のジョージですら、貴族として領地を護り、領民の生活を改善する為の努力する自分に誇りを抱いている。
「まぁ、海の精霊達が騒いでいると思ったら、ジュリア様がいらしているのね」
港で網の修繕をしていた女達が笑う。きっと明日は大漁だ。
ジュリアもウンディーネ達から挨拶を受けて、笑いながら挨拶を返している。ジョージは収穫祭に来た客より自然と接しているのに気づいた。緑蔭城に集まった貴族や豪族達はいわばゲチスバーモント伯爵家の寄子や家臣だ。それなのにジュリアは気後れをしていた。
「普通ならウンディーネの方に警戒したり、恐れを抱くのにね」
人より精霊の方がジュリアには気楽に付き合えるのだ。でも、それは人として寂しいのでは無いか。ジュリアが未だ人を心から信頼していないのでは無いかとジョージは愕然とした。
恋どころでは無い。人間として未だ一人立ちできていないのだ。ジョージはグローリア伯爵夫人が自分とジュリアを引っ付けようとしているのは気づいていたが、今のままでは駄目だと伝えようとも思った。
そして、ジュリアに自信をつけるのに良い方法も思いついたが、それを選択するとライバルに有利になるのも分かっていた。
海岸を散歩しながら、ジュリアが海のウンディーネ達と戯れるのを笑いながら見ながらも、ジョージは苦い決断を下した。
その日の晩餐後、ジョージはグローリア伯爵夫人に自分の考えを述べた。
「まぁ、貴方はジュリアを北部に行かせようだなんて、よく言えたものね。彼方は内戦中は南部同盟の敵でしたのよ。勿論、内戦は終わったのだし、エドモンド王の為にも北部も復興しなくてはいけません。だからと言って若い令嬢が行くべき場所とは思えませんわ」
グローリアは南部同盟の盟主の夫人として、北部には厳しい。
「北部の復興に尽くす事でジュリア様は自信を持つと思います。それに民の為になるのは貴族としての誇りです」
ジョージの言う事はもっともなのだとグローリアは分かっていたが、感情はままならない。
「もう、貴方ときたら! わざわざライバルにジュリアを渡すのね」
ジュリアはサリンジャー師を年の離れた精霊使いとしか見ていないのをジョージは知っていた。でも、それが一緒に北部の復興に尽くすうちに変わってくる可能性はあるのだと胸にズキンと痛みが走る。
「どちらにせよ、タイムアップだわ。夫からシェフィールドに帰ってくるようにと手紙が来ましたからね。北部に行かせるかは、エドモンド王と夫に相談してみます。ジュリアには言わないわよ。あの子ならきっと行きたがるでしょうからね」
ジョージはこれで良かったのだと自分を納得させようとしたが、その夜はなかなか寝付けなかった。
一方のジュリアもシェフィールドに帰るとお祖母様に言われると、緑蔭城から離れ難く感じた。それがシェフィールドの都会暮らしより、緑蔭城の田舎暮らしが好きだからか、ジョージのような素朴な青年の方がお世辞ばかりの都会の貴族より好きだからか自分でも分からなかった。
「カリースト師に緑蔭城で修行を付けて貰えるか尋ねてみましょう」
やっと自分の我儘を言うだけは言ってみようと半歩だけ前進したジュリアだ。