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21 収穫祭の準備

 二人を結びつけようとする計画が進んでいるとは知らないジュリアとマーカス卿は、次々と訪れる収穫祭の客達の対応に追われていた。


「まぁ、ジュリア。疲れた顔をして」


 社交的でないジュリアは、何人かと挨拶しただけで精神的に疲れてしまった。祖母のグローリアが全く疲れていないどころか生き生きとしているのに対称的だ。


「まだあまり知らない人ばかりなので」


「そんなことないでしょ。皆さん、南部同盟の人ばかりじゃありませんか」


 内戦中は緑蔭城に滞在していた地方の貴族や豪族達ばかりなのに、何を気疲れしているのかとグローリアは呆れる。そして、こんな孫娘に王都の貴族の子息なんか合わないのは明白なのに、何故、夫のアルバートには分からないのかと内心で舌打ちする。


「それは、そうなのですが……私は客あしらいが下手なのですね」


 貴族の勤めとして家庭教師からも社交の必要性などは耳が痛くなるほど聞かされているが、ジュリアはどうも自分には不向きなようだと苦手意識を持っている。


「これは慣れの問題ですよ。貴女も慣れればできるようになります。それに出来なくとも、そういう事が得意な側仕えを置いても良いのです。地方の貴族の娘とかを行儀見習いとして緑蔭城に置いても良いのですよ」


 ジュリアにはその地方の貴族の娘に気を使う自分しか思い浮かばない。


「精霊と違って人は難しいですわ」


 グローリアは、精霊に愛されているジュリアらしいと、非常識な言葉を笑った。


「普通の人は精霊と付き合う方が難しいのですよ。でも、少し気晴らしをした方が良いみたいですね。王都でも修行ばかりでしたもの」


 メイソン夫人を呼ぶと「マーカス卿に港の収穫祭を見学の案内を頼んで下さい」とグローリアはにこやかに告げた。


「あら、お祖母様、マーカス卿はお忙しいのでは?」


 孫娘のジュリアの当たり前な疑問など、グローリアにかかっては赤子の手を捻るようなものだ。


「収穫祭においでになるお客様のお相手は伯爵夫人である私がしなくてはいけませんのよ。普段の訪問客とは違いますもの。だから、城代のマーカス卿はいつもよりは暇がおありでしょう」


 そんなわけがある筈はないのだが、ジュリアは祖母を疑ったりはしなかった。


「まぁ、そうなんですか。でも、お祖母様のお手伝いはしなくてもよろしいのですか?」


「ほほほほほ……貴女がいれば貴公子達は大喜びするでしょうねぇ」


 ジュリアはブルブルと身震いした。歯の浮くようなお世辞を王都で何度も聞くうちに、それが自分を褒めるのではなく、祖父である王に近づく目的や緑蔭城目当てだと、いくら世間知らずとはいえ勘づいてきたのだ。


「私はマーカス卿に港を案内してもらいますわ」


 そそくさと逃げ出したジュリアにグローリアは微笑む。


「上手くマーカス卿はジュリアの気持ちをつかめるからしら? ここまでお膳立てして、ポシャるようなら見込み違いというものね」


 他国の農家で拾われ子として育ち、メイドとして働いていた孫娘には権高な貴族の嫁は不向きだ。それに緑蔭城を食い潰すような無駄遣いをする婿もごめんだ。あれこれと野望を膨らませている夫には悪いが、グローリアは苦労して育った孫娘を幸せにしたかった。


 

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