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19 断ったのに失恋した気分

 ルーファス王子を花盛りの庭に案内したもののジュリアはどうお断りしようか困り果てていた。


「ジュリア、やっと二人っきりになれたね」


 恋愛偏差値の高いルーファスは、ジュリアがヘレナの令嬢達のように自分に媚を売る為にここへ連れてきたのではないのは重々承知の上で、それを無視して口説くことにした。これまで、ジュリアと二人きりになったことはなく、このチャンスを逃さないぞと意気込み、手を取ると指先にキスをする。


「ルーファス様……」


 手の甲へのキスでもドキドキする初なジュリアは、指先へのキスは刺激が強すぎた。セクシーなルーファス王子の振る舞いに真っ赤になる。


 ルーファスはジュリアの初さ加減を間違えていた。初めての体験にパニックになったジュリアは、礼儀作法も投げ出し、真っ赤になり、早口で自分の伝えたい事を吐き出した。


「私は王太子妃なんてなれません。あっ、そんな事考えておられないかもそれませんが、それだけはお伝えしておかなければいけないと……すみません!」


 ルーファスが驚いているうちに、ジュリアは脱兎の如く逃げ去った。


「こんな手酷い断られ方は初めてだ……」


 王太子としてモテモテのルーファス王子は、呆然とジュリアの後ろ姿を見送った。


 ジュリアが走り去った後、ぼんやりしているルーファス王子をセドリックが回収しに来た。


「ルーファス王子……その様子ではダメだったのですね」


 食事の時からジュリアの思い詰めた表情で、何とはなく話の内容を察していたセドリックだったが、こんな風に落ち込んでいるルーファス王子を見て、内心で驚いていた。ジュリアに積極的にアプローチしていたのは、父王の命令で巫女姫を自国にと考えていたからだとばかり思っていたのだ。


「ああ、完膚なきまで振られたよ。かえって清々しい気分かな……いや、やはり失恋は辛いね」


 王太子としてモテモテのルーファス王子だが、王太子だからとジュリアに振られたのがやはり心に突き刺さった。


「まぁ、ジュリアは王太子妃に向きませんよ。きっと、この国で幸せになるのです」


 振られた自分への慰めより、ジュリアの幸せの方に重点が置かれたコメントにルーファスは、もしかして……とセドリックの整った冷たい顔をマジマジと眺める。


「お前もジュリアが好きだったのか? 私は王太子妃にはなれないと断られたが、伯爵夫人ならいけるかもしれないぞ。父上の願いにも叶う結果になるのでは?」


 セドリックは、ジュリアとルーファス王子を縁組させる為に自分の気持ちに蓋をしたのを察せられて、ほんの一瞬だけ動揺したが、そこは精神力で持ちなおす。


「とんでもない。私はエドモンド王やゲチスバーモンド伯爵に逆らってまでジュリアを口説く根性はありませんよ」


「根性……まぁ、王族は根性だけはすわってないとできない職業だからな。こうなったら精霊使いとしての修行だけでも成果を上げないと、父上に叱られてしまう」


「そうですね!」と元々、精霊使いの修行をもっとしたかったセドリックは喜んだが、この夜はルーファス王子の失恋パーティに付き合わされるのだった。



 水晶宮から逃げるように屋敷に帰ったジュリアは、自分でルーファス王子にお断りをしたのに、なんだか失恋した気分になり落ち込んでいた。恋愛経験ゼロのジュリアにとって甘い言葉を囁かれたり、スマートな態度でエスコートしてくれたルーファス王子は、理想的な男性だったのだ。ただ、ルーファスは王子であり、王太子妃という重荷がジュリアには無理だった。


 そして、落ち込んでいると、もっと落ち込むのがジュリアだ。


「ううう……恥ずかしい」


 お断りしたのも、自意識過剰な振る舞いだったのではないかと、穴の下に穴を掘りまくっていた。


「まぁ、ジュリアどうしたの?」


 孫娘が早く帰って来たのは嬉しいが、沈み方が尋常じゃないとグローリアは心配する。


「お祖母様……私、とんでもなく恥ずかしい振る舞いをしたのかもしれません。ルーファス王子はそんな気持ちは無かったのかもしれないのに、お断りするだなんて……メイドが何を勘違いしているのだと笑われているかも……」


 ルーファス王子にお断りをする勇気を持ったのはグローリアは評価したが、またまたメイド根性を引っ張っているのには激怒する。


「貴女ときたら、いつまでそんな卑屈な事を言っているの? ルーファス王子は自国の王太子妃にと望んでおられたのよ。勿論、私としては異国に嫁がせるのは反対ですし、貴女がルーファス王子の手を退けたのは偉いと思いますわ。地位に目が眩んで、自分の幸せがわからなくなるお馬鹿さんも多いですからね」


 祖母に背中をパンと叩かれて、落ち込んでいたジュリアも穴を掘るのをやめた。


「でも、ルーファス王子にお会いするのは……」


 振った相手と会うのは気まずいだなんて、昔は社交界の華だったグローリアには理解できない感情だ。モテモテだったグローリアは、紳士達を振り回して、振りまくっていたからだ。でも、良い事を思いついたと微笑んで、ジュリアを抱きしめる。


「そうね……貴女も水晶宮での修行で疲れているでしょうし、一度、緑陰城に帰ったらどうかしら? アルバートは王都を離れるわけにいかないから、今年の収穫祭は私だけで参加するつもりだったの。一緒に参加しない?」


 断ったというもののルーファス王子と顔を合わせていたら、また気が変わるかもしれないので、孫娘をゲチスバーモンドに連れて帰ることにする。ジュリアは精霊使いの修行が……と反論しかけたが、グローリアに勝てるわけがない。それに、ルーファス王子とは距離を置きたい気持ちもあった。


「さぁ、緑蔭城に帰る支度をするわよ」意気盛んなグローリアに屋敷の使用人達は慌てて用意をする。


 そんな慌ただしい中、ジュリアだけがぼんやりと庭でマリエールと話していた。


『ジュリア? なんで落ち込んでいるの?』


『落ち込んでなんて……いえ、落ち込んでいるのかも……きっと、これが私の初恋で、失恋なんだわ』


 お屋敷のハンサムなセドリック様に憧れていたメイドはもういないのだ。貴族の令嬢なら全員が憧れるルーファス王子も、自分にとっては無理な相手でしかない。それはジュリアにもわかっていたが、ハンサムな貴公子と気楽に話せ、積極的なアプローチを受けたのに浮かれていたのも確かだ。


『初恋!! ジュリアが初恋??』


 浮かれるマリエールに『初恋未満だけど……失恋したのよ』と訂正するジュリアだった。



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