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醜いアヒルの子は、白鳥になれるのか?  作者: 梨香
第一章  醜いアヒルの子
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7  お前は精霊使いだ!

 疲れて眠ったセドリックだが、健康な若者なので朝には元気いっぱいで目覚めた。


「セドリック様、おはようございます」


 従僕候補のトーマスがカーテンをあけると、ベッドで欠伸していたセドリックの目に光の精霊が飛び込んだ。


『なんだ! こんなにハッキリ見えたことは無かった』


 昨夜も蝋燭の光が鏡に反射して、精霊の影がチラついていたが、眠くて考えないで寝てしまった。


 セドリックは若者独特の自信に溢れた青年だったが、いくら離宮でイオニア王国の精霊使いについて修行したからといって、そうそう直ぐに上達するとは思ってない。


『誰か、精霊使いが近くにいるのか?』


 精霊を見ることもできなかったルーファス王子と自分の為に、精霊使いが呼び寄せてくれた時を思い出す。


「セドリック様? 洗面の用意ができましたが……」


 ベッドに座って空中を眺めている若君に、トーマスは戸惑って声を掛ける。


『馬鹿馬鹿しい! 精霊使いなど、そうそういるものか』


 セドリックはベッドから降りると、隣室のバスルームで用意されていた洗面器の水で顔を洗った。跳ね返る水滴に精霊の影を見て、セドリックは「わっ!」と、声をあげる。


「どうかなさいましたか?」


 トーマスは水ではなく、お湯を用意するべきだったのかと慌てた。


「いや、何でもない」


 差し出されたタオルで顔を拭きながら、セドリックは何が起こっているのか調べてみようと考えた。





「おはよう、セドリック、今日も王宮へ行くのか?」


 朝食の席に父上しかいなかったのは、セドリックにとっては好都合だ。


「おはようございます、父上。今日もルーファス王子と勉強ですよ。それより、私が留守の間に何か変わったことが屋敷で起こりませんでしたか?」


「変わったこと? 別に思いつかないが」


「些細な事でも良いのです。例えば、新しい物を購入したとか、木を植えたとか、出入りする業者が変わったとか、使用人が変わったとか……」


 伯爵はお茶を飲みながら、息子の質問を考えていた。


「いや、この1ヶ月の間、さほど変わったことなどないが……お前の従僕を決めなくてはと、ヘンダーソンが言い出した程度だな。ああ、そういえば、一人メイドが増えたとか言っていたな」


 従僕候補のトーマスは前から屋敷にいる。


「そのメイドとは、どこから来たのですか? 紹介状とか見せて貰えますか?」


 伯爵は召使いに手を付けるようなセドリックでは無いと考えていたので、余計に不審に思った。


「詳しいことはケインズ夫人に聞くといい。確か、ゲチスバーグ卿の領地から推薦状を貰って来たと聞いている。だが、普通のメイドだぞ」


 セドリックは父上には離宮へ行く理由も話していた。


「父上、この屋敷に帰ってから、私には精霊がよく見えるようになったのです」


 修行の成果が出たのだろうと、喜ぶ父親をセドリックは制する。


「離宮で1ヶ月修行しましたが、精霊使いが集めてくれたら、どうにか見える程度だったのです。なのに、今はハッキリ見えるのですよ! ほら、こうして水を零したら、水滴の中に影が見えます。

 私は自分の魔力を過信する愚か者ではありません。この屋敷に精霊が集まっているのです」


 水挿しの水を上の方からグラスに注ぐセドリックに、伯爵は驚いた。


「私には何も見えないが、お前には精霊が見えているのか?」


 隣国のイオニア王国は、精霊使いによって豊かな生活をしていた。ルキアス王国も精霊使いを育成したいと、歴代の王は努力していたが、今までは上手くいかなかった。


 長年の内乱で、精霊使いが亡命してきたのを、ミカエル王は厚遇で迎えた。精霊使いに魔力があると判定されたルーファス王子とセドリックが、精霊使いの修行をすることになったのだが、かんばしい成果は出ていない。


 伯爵は女中頭のケインズ夫人を呼び出した。


「今度、雇ったメイドの推薦状を見せて欲しい。それと、何という名だったか……そう、ジュリアはどのようなメイドだ?」


 ケインズ夫人は何かジュリアが問題でも起こしたのでしょうか? と固い表情で尋ねたが、伯爵は少し興味があるだけだと誤魔化した。


 


 朝の掃除を済ませたジュリアは、交代で朝食を取っていた。


「ジュリア、ちょっといらっしゃい」


「はい! 何か御用でしょうか? 掃除はちゃんとしたつもりですが、塵がのこっていましたか?」


「そんな用件ではありません。黙って付いていらしっやい」


 ケインズ夫人に呼び出されて、ジュリアは何か失敗したのだろうかと、ビクビクしながらついて行く。


「ケインズ夫人、部屋を通り過ぎましたよ」


 女中頭のケインズ夫人が仕事をする小部屋を通り越して、階段を上り、書斎へと向かうので、ジュリアはクビになるのだと怯えた。


『ぼんやりしていたから? 妖精を見ないようにしているけど、ハッキリ見え過ぎるんですもの』


 掃除では入ったことのある書斎だが、伯爵や若様がいる時にメイドのジュリアが呼び出されることは無い。


『クビなんだわ!』


 ぶるぶる真っ青な顔で震えるジュリアは、大きな緑色の瞳だけが目立つ発育不良の少女だ。お世辞にも美人とは言えないと、ベーカーヒル伯爵は自分の息子の意図が分からないので、じろじろと眺めて批評する。


 しかし、セドリックはジュリアの容姿など目にも入らなかった。書斎の窓からは朝の光が差し込んでいたが、ジュリアが入った途端、精霊の姿がハッキリと浮かび上がったからだ。


「お前は精霊使いだ!」


 金髪の容姿端麗な若君に、大声で宣言されて、ジュリアはドッキン! と飛び上がってしまう。それに呼応して、書斎内の光の精霊が乱舞しだし、セドリックは驚いた。


「おねがいです、クビにしないで下さい」


 泣きながら崩れ落ちたジュリアを、ケインズ夫人は抱きかかえた。

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