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11 ドキドキ

 ジュリアは、祖母の勧める独身の貴族とダンスをしたが、歯の浮くようなお世辞に戸惑っていた。


「ジュリア嬢、貴女はこの会場で一番輝いておられますね。このまま、ずっと音楽が続けば良いのですが」


「まぁ……そのようなこと……」


 お世辞に慣れていないジュリアは、嬉しく思うどころか、どう返答したら良いのか戸惑ってドキドキするばかりだ。


「明日、私と馬車で郊外までピクニックへ行きませんか? シェーフィールドの秋は美しいですよ。そう、ジュリア嬢の美しさに、山々の木々も色とりどりに着飾って対抗するかもしれませんね」


「お祖母様に許可を頂かないと……」


 一般の若く美しい令嬢は、自分を賛辞する甘い言葉に慣れているし、気のきいた受け答えで、有力な独身貴族の気持ちを引き留めようとするのだが、ジュリアは全くこの点では劣等生だ。他の令嬢にこんなそっけない態度をされたら、相手はげんなりして別の相手へと興味を移すのだろうが、次期の巫女姫を獲得したい野心を燃やしている貴族達には、控え目な態度さえ神秘的に感じる。


『ジュリア! 誰が好きなの?』


 その上、浮き浮きしたことが大好きな精霊達がジュリアの周りに集まるので、精霊使いの素質を持つ貴族達の熱は上がってゆく。


『マリエール、今は駄目よ! 後で話しましょう!』


ジュリアは、興味津々のマリエール達を追い払うが、すぐに他の精霊が集まってくる。


「まぁ、これではダンスできないわ」


 ジュリアも女の子なので華麗な舞踏会には憧れを持っていたし、若い貴族達に甘いお世辞を言われるのは困惑させられるが、嫌かと問われれば嫌ではない。しかし、精霊達に取り囲まれ、問い詰められているうちに、舞い上がり混乱していた頭が冷めてきた。


『私がモテている訳ではないわ。お祖父様が国王や伯爵だから、皆は私にチヤホヤするのよ』


 周りからは美しい白鳥にたとえられるほどのジュリアだが、醜いアヒルの子だった時のコンプレックスを未だ引き摺っている。ジュリアは、自分が一番美しいと感じたシルビアお嬢様を、基準に考えているのだ。


 ルーファス王子は、大使夫人に頼まれた令嬢とのダンスを何人か済ませると、これで義理は果たしたと考える。自国での舞踏会では無いので、見知らぬ令嬢に愛想を振りまく必要はさほど感じないからだ。


「やっぱり、ジュリアの周りにはライバルがひしめいているな。普通に話しかけても、引き離すのは無理だろう」


 大使にいわれて、真面目にイオニア王国の令嬢達とダンスをしているセドリックが休憩したのを捕まえ、サリンジャー師を連れてこさせる。


「サリンジャー師、舞踏会だというのに申し訳ありません。美しい令嬢とダンスを楽しむのを邪魔したのでなければよろしいのですが……」


 地方の貴族出身のサリンジャーは、華やかな舞踏会に招待されたもののダンスをするどころか、身の置き場の無いような気持ちになっていたので、教え子のルーファス王子やセドリックと一緒の方が助かると笑う。


「私はダンスには興味がありませんが、貴方達は令嬢の注目を集めておられるでしょうに……何が目的で私をよばれたのですか?」


 やはり、サリンジャー師は鋭いと、ルーファス王子は苦笑する。


「私はジュリアと話がしたいのですが、ああもライバル達に囲まれていたら、どうすることもできません。サリンジャー師に協力して頂こうと思っているのです」


 サリンジャーは、独身の貴族達に囲まれているジュリアを見て、少し胸がモヤモヤする。きっと、次代の巫女姫、緑蔭城の相続人である立場に目が眩んでいる貴族達が、ジュリア本人を愛しているのでは無いくせに甘い言葉で騙しているのでは無いかと危惧する。


『ジュリアは甘い言葉に騙されたりしないだろうか? 次代の巫女姫がつまらない男と結婚するのは困るのだが……さりとて、外国に嫁がせるのも大問題ではあるが……』


 ルーファス王子の明るくて素直な気性は、亡命中にもサリンジャーの心を慰めてくれたし、外国の王子でなければジュリアの婿にこちらから推薦したいぐらいだと内心で愚痴る。水晶宮の精霊使いの長からも、外国に嫁がせる事が無いように見張れと命じられている。


「セドリック、ジュリアを呼び出してくれないか? サリンジャー師と共に話をしようと!」


 やはり、ジュリアを呼び出す為の餌にされたのだと、サリンジャーは苦笑する。それでもこの場を離れなかったのは、野心と欲を剥き出しの貴族達からジュリアを引き離したかったからだ。それに、自分の監督下ならルーファス王子がジュリアに不適切な言動をするのを防げるとも考えていたのだが……


「サリンジャー師、こんばんは! 舞踏会にいらっしゃっているとは知りませんでしたわ。でも、レオナルド叔父様よりは若くていらっしゃるのね」


 目の前のジュリアは、ルキアス王国でおどおどしていたメイドではなく、緑蔭城で内乱に苦しむ人達に心を痛めて焦っていた少女でもなかった。美しい令嬢に、サリンジャーは目が眩む。


「サリンジャー師は、そんなに年を召されてはいませんよ」


 セドリックが、つい昔の癖でジュリアに注意する。


「そうね、私はサリンジャー師に初めてお会いした時も、年を間違えてしまいましたわ」


 自分の父親がイオニア王国の精霊使いなのでは? と考えたジュリアは、サリンジャー師が自分を捨てた身勝手な男だと勘違いしたのだ。しかし、サリンジャー師は、ジュリアの父親になるには若すぎた。


 全員があの勘違いを思い出しクスッと笑うが、サリンジャーは、そんなに老けて見えるのだろうかと、内心で落ち込む。

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