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醜いアヒルの子は、白鳥になれるのか?  作者: 梨香
第二章  白鳥になれるのか?
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4  緑蔭城の暮らし

「まぁ! ジュリアから手紙が届いたのですか!」


 早朝、セドリックは窓を叩くシルフィードに気づいて、手紙を受け取ったのだ。


「ええ、ジュリアは精霊を上手く使いこなしていますね」


 父親のベーカーヒル伯爵に、お前もちゃんと修行しろと睨まれて肩を竦める。サリンジャー師がジュリアと共に帰国してから、セドリックもルーファス王子も精霊使いの修行をさぼりがちだった。


「女中頭のケインズ夫人にも手紙がありますね……うん? トーマスにも? ああ、これはルーシーからだな」


 話を露骨に反らしたセドリックに、伯爵は溜め息をつく。精霊使いを育成したいと願うミカエル国王のお気持ちを考えないのかと、お気楽そうな息子に腹を立てたが、師匠がいなくては修行もはかどらないのも理解できる。


「イオニア王国の内乱がおさまったら、留学させてもいいのだが……」


 外国に留学できるかもと、セドリックは喜んだが、内乱が何時おさまるのか、それがジュリアの保護者であるゲチスバートンド伯爵達にとって良い結果であるのかを考えて深刻な顔をする。


「まぁ! 緑蔭城には温泉が引いてあるから、朝と夜に入浴できるだなんて、羨ましいわ! だから、グローリア様は綺麗なお肌をしていらしたのね」


 朝食の席で、アンブローシア夫人に温泉へ連れて行ってとせがまれながら、ベーカーヒル伯爵は精霊使いの能力に優れていたジュリアが居なくなったのを残念に思った。





 ヘレナから遠く離れたゲチスバーモンドの緑蔭城では、ルーシーがあんな空中に手紙を投げたりして、当てにならないと愚痴りながら、ジュリアの服を用意していた。


「ジュリア様、手紙はちゃんと届いたのでしょうか」


 遠い異国との手紙のやり取りは庶民には縁が無いし、船便ならいざ知らず、風の精霊に頼むだなんて、ルーシーには理解できない。


「もちろん、マリエールが届けてくれたわよ」


 ルーシーが精霊への不信の言葉を発したので、慌ててジュリアはフォローする。サリンジャー師から名前を付けた精霊をちゃんと育てなくてはいけないと忠告されていたからだ。


「私も精霊が名前を教えてくれるとは知ってましたが、名前を付けることができるとは知りませんでした。

 マリエールはまだ若い精霊ですが、名前がついたことで自我が発生してしまいました。貴女の気持ちを読む程の絆が結ばれているのですから、マリエールを不安にさせたりしないように、常に愛情と信頼を与えてやって下さい」


 精霊使いの能力が無いルーシーの不信感などマリエールは気にしないかもしれないが、何となく他の兄弟に劣等感を持ちながら育ったジュリアは、褒めて自信をつけてあげたいと考えていたのだ。ルーシーはジュリアから説明されて、そんなものなのかしらと肩を竦める。


「まぁ、緑蔭城が快適なのも精霊のお蔭だから、信じることにしましょう! それにしても、伯爵夫人は沢山のドレスを用意して下さってますねぇ……でも、大きすぎるから、縫い縮める必要があるのが難点ですけど」


 さぁ、着てみて下さいと、ルーシーにドレスを差し出されて、ジュリアは溜め息をつく。


「私はベーカーヒル伯爵の屋敷にいる時みたいに、部屋で食事をしたいわ……それか、朝食の時みたいに、お祖母様とだけなら気楽なのに……」


 緑蔭城に常駐する騎士やその家族との食事が、ジュリアは苦手に感じる。ルーシーは郷にいったら郷に従えですよと、てきぱきとドレスを詰める為のまち針を打っていく。


「何か意地悪でも言う人がいるのですか?」


 まち針に気をつけて、ドレスを脱がしながら、ジュリアが溜め息をつくのを見とがめてルーシーは心配する。


「まさか! 皆さん親切にして下さるわ……ただ、食事の度に着替えたり、気の効いた会話なんて無理だもの」


 ルーシーはベーカーヒル伯爵家では、シルビアお嬢様と子供部屋で家庭教師と一緒に食事をしていたから、貴族の正式な食事に慣れていないのだと察した。


「若い令嬢が食卓で気の効いた言葉を発する事など、誰も期待していませんよ。そんなのは座持ちの良い伯爵夫人に任せて、ジュリア様はにこにこしながら、食事に専念しておけば良いのです! ほら、簡単でしょう! ドレスは私が選んでちゃんとした格好をさせてあげますしね」


 ルーシーに励まされて、そんなものなのかとジュリアは少し気が楽になった。

 

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