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醜いアヒルの子は、白鳥になれるのか?  作者: 梨香
第一章  醜いアヒルの子
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33  アドルフ王の影

 亡くなったと思い込んでいた孫娘と会ったゲチスバーモンド伯爵夫妻は、一時も離したくないと、ソファーでもジュリアをはさんで座っている。


『これは、ジュリアをイオニア王国に連れて帰りそうだな……』


 ベーカーヒル伯爵は、ミカエル国王の念願である精霊使いの育成が、なかなか思うようにはいってないだけに、才能豊かなジュリアがイオニア王国に帰るのが残念に思う。セドリックがしっかりとジュリアをつかまえてくれたらと、少し恨みがましい眼で眺める。


「サリンジャー師にもお世話になりましたわ。危険を犯して、知らせて下さらなかったら、私達はジュリアと会えないままでしたもの」


 13年もジュリアと呼ばれて育った孫娘の要望で、ゲチスバーモンド伯爵夫妻も、マリエールと呼ばず、ジュリアと呼ぶことにした。サリンジャーは、名前の件はすぐに折れた伯爵夫妻だが、これから自分が提案する事には反対するだろうと、口に出すのを躊躇した。


『ジュリアをアドルフ王に近づけてはいけない気がする。まだ精神的に未熟なジュリアが、イオニア王国の惨状を眼にするのも避けさせたい。かといって、内乱は止めさせたい、どうするべきなのか?』


 初め、ジュリアがエミリア姫とフィッツジェラルド卿の娘だと気づいた時は、これがきっかけで内乱をおさめられるかもと期待したサリンジャーだったが、少し考え方を変えていた。


 イオニア王国に帰国したら、ジュリアは南部同盟の巫女姫として利用されるし、アドルフ王も手に入れようとするに決まっていると、サリンジャーは辛い目に会わせたくないと悩んでいた。


 これまでのジュリアの生活を聞きながら、ゲチスバーモンド伯爵は、ルキアス王国は手放したくないだろうと察していた。サリンジャーが何か言いたげなのに、気づいて、後で話し合ってみようと考える。





 ジュリアは、養父母が自分を他の子ども達と同じように育ててくれたと、祖父母に話したが、メイドとして働きに出さなくてはいけない貧しい暮らしでは、充分な面倒も教育も受けれなかっただろうと胸を痛めた。


「貴女を育てて下さった養父母にも、何かお礼をしなくてはいけませんね」


 お祖母様に言われて、ジュリアは少し困った顔をしたが、これから年をとったらお金は必要になると頷く。


「ジャスパー兄ちゃんが結婚したから、そのうち小さな小屋と交換すると思うけど、お金があれば無理に働かなくても、老後をのんびり過ごせるわ」


 農家の拾い子として育ち、メイドとして働いていたと聞いて心配していたグローリアは、ジュリアが養父母に親切な娘に育てて貰ったと感謝する。


 ジュリアは、祖父母に会って、自分が想像していた、おじいちゃん、おばあちゃん、ではなかったのに驚いた。しかし、厳めしい伯爵と麗しい老貴婦人から、父親の子どもの頃の話などを聞くにつれて、血のつながりを感じるようになった。


『私にも、血のつながった家族がいたのね……』


 グローリアは、隣に座ったジュリアが静かに涙をこぼしているのに気づき、抱き締めて、優しく言い聞かせる。


「今まで、ひとりで寂しかったのね。これからは、ジュリアはひとりではないわ」


 ハンカチで涙を拭いてくれるお祖母様を見上げて、年をとっても美人だと、ジュリアは不思議に思う。


「私の瞳は、母に似たと言われたけど……余り美人では無かったのかしら? だって、お祖父様もお祖母様も、整った顔をしているから、父もハンサムだったと思うの……なのに、私は不器量なんですもの」


 可愛い孫娘でなくてがっかりされたでしょうと、俯くジュリアの顔を、グローリアは両手であげさせる。


「まぁ、なんてことを言うの! ジュリアを見た瞬間に、エミリア姫の眼にそっくりだと思ったし、私の若い頃にも似ていると思いましたよ。

 因みに、エミリア姫はイオニア王国の巫女姫としてだけでなく、神秘的な美しさで、殿方の憧れのまとでした。それに、私も若い頃は、スレンダーでしたが、崇拝者の十人や二十人は常にいましたわよ」


 年齢を重ねても麗しいグローリア夫人の言葉に、サロンの全員から賛辞が寄せられる。


「そうだよ、ジュリア、お前は若い頃のグローリアに似ている。だから、素敵な美女になるぞ! 私はライバルを蹴散らすのに、たいそう苦労したからな」


 厳めしい祖父の思いがけない言葉に、ジュリアは呆気に取られたが、祖母はホホホと艶然と笑う。


「そんな昔の話より、ジュリアがそんな自信のない言葉を口にする方が問題ですわね。よく覚えておきなさい、貴女が自分の価値を認めないと、殿方も貴女の価値を低く見ますよ。顔の造作を気にするより、気品のある態度、機知にとんだ会話を身に付ける努力をしなければいけません」


 ジュリアは自分が不器量だから、お祖母様がそう言われたのかと、一瞬誤解しかけた。


「まぁ、ジュリア! グローリア夫人の言葉をちゃんと聞いてないのですか? こんな綺麗なお祖母様に、似ていると言われても、自分が不器量だと頑固に言い張るつもりなのね」


 アンブローシア夫人とグローリア夫人は、お互いに気が合うと微笑む。ゲチスバーモンド伯爵は、アンブローシア夫人にジュリアの横を譲り、卑屈な言葉を発した孫娘の世話を任せた。


「サリンジャー師、後で部屋に来て下さい。少し話し合いたいことがあります」


 ベーカーヒル伯爵家の人達には感謝していたが、同国人のサリンジャーと腹を割って話したかった。


「私からも、話したいことがあります」


 サリンジャーは、南部同盟の盟主であるゲチスバーモンド伯爵が、ジュリアを利用するのか? アドルフ王から守り抜けるのか? 確認したいと思っていたので、後で部屋に行くのは好都合だ。


『私が亡命したルキアス王国で、巫女姫の忘れ形見ジュリアに会ったのは、何かの因縁なのか? アドルフ王の暗い笑い声が聞こえて来そうだ! ジュリアがイオニア王国に行くと決まったら、私はどうしたら良いのだろう?』


 座持ちの良いアンブローシア夫人と、機知にとんだグローリア夫人が、ジュリアをからかったり、楽しい話題で盛り上っていたが、サリンジャーは命がけで逃げたイオニア王国に帰るかもしれないと考えていた。


 ゲチスバーモンド伯爵も、孫娘に会えたことは、心より喜んでいたが、ジュリアが帰国したら、アドルフ王は黙っていないだろうと、拳を握りしめた。楽しそうな笑い声が響く、ベーカーヒル伯爵家のサロンに、アドルフ王の影が忍びよっていた。

 

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