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醜いアヒルの子は、白鳥になれるのか?  作者: 梨香
第一章  醜いアヒルの子
31/86

30  お兄ちゃんの結婚式

「お願い! 馬車を止めて!」


 御者は、後ろからの声で、慌てて手綱を引いて、馬車を止めた。


「マリア! ただいま!」


 馬車から飛び下りたジュリアは、田舎道を大きな荷物を持って歩いていた妹のマリアに抱きついた。


「どなた様ですか?……えっ! もしかして、ジュリア姉ちゃん! 驚いた、どこのお嬢様かと思ったよ!」


 服を羨ましそうに眺めるマリアに、奥様のお古をメイドのルーシーに縫い直して貰ったのと告げる。


「あっ! こちらがルーシーさん! 妹のマリアよ!」


 ルーシーは誤魔化すつもりなのかと呆れたが、両親に話してからと囁かれて、好きにしたら良いと頷く。


「それより、この大きな荷物は何?」 


 何? と目敏く、何か秘密なの? とマリアが質問してきたので、ジュリアは慌てて質問する。


「結婚式でたくさんの食器がいるから、借りに行ってきたのよ」


 重そうな荷物を馬車に積んで、ジュリアはマリアと話ながら歩く。ルーシーは、お仕えするお嬢様が歩いているのに、侍女が馬車に乗るわけにいかないので、てくてく後ろを歩いて行きながら、血が繋がって無いのだから当たり前だけど、似てないなと思った。ルーシーは、田舎の可愛い村娘がジュリアの養家の妹なんだと知って、劣等感を持ちながら育った理由を察した。


『妹さんのマリアは、ぽっちゃりした笑顔に可愛いえくぼがあるわ。それに、ああいった金色の髪と青い瞳の女の子は、農家の男の子達にもてるでしょうね。

 でも、ジュリア様の方が大人になったら、もっと美人になると思うわ。金褐色の髪と緑の神秘的な瞳に、紳士達は魅了される筈よ』


 首都ヘレナの近郊で産まれ育ったルーシーは、個性的な美女の方が好みだと、贔屓目でなく考えた。


 ジュリアは両親にどう切り出そうかと考えていたので、マリアの結婚式の準備がどれほど大変かという愚痴を、上の空で聞き流していた。




 懐かしい家が見えた瞬間、ジュリアは走り出した。


「お母ちゃん、お父ちゃん! ただいま!」


 庭で結婚式の準備をしていた家族は、綺麗な服を着た女の子がジュリアだと気づいて驚いた。


「ジュリア、元気だったかい? それにしても、えらい綺麗な服を着てるんだね!」


 母親に抱き締められて、ジュリアはやっと家に帰った気持ちになった。


「お母ちゃん、お父ちゃん、結婚式の準備で忙がしいだろうけど、少し時間をちょうだい。大切な話をしたいの」


 手紙で、何か不都合があってメイドを辞めたと書いてきたので、両親はまさか妊娠でもしたのかと顔色を変えたが、相変わらずガリガリのジュリアの細い腰を見て、それは無いだろうと思い、ホッと溜め息をつく。


 ジュリアはどう話そうかと夢中だったので、そんな両親の動揺と安堵には気づかなかった。しかし、ルーシーも家族も気づいた。


「ところで、この人は誰だい?」


 ジュリアが、ルーシーをどう両親に説明しようかと迷っている時に、間が悪く、ベーカーヒル伯爵家の馬車が着いた。


「この馬車は? いったい何が、どうなっているんだ?」


「この馬車は、ベーカーヒル伯爵家のものよ。お父ちゃん、お母ちゃん、重大な話があるの!」


 口々に質問する両親を、ジュリアは家の中に押し込んだ。




 両親を椅子に座らせると、ジュリアも座り、大きく深呼吸して話し出す。


「前に手紙を送ったけど、書いてないこともあるの。私の両親がわかったの……両親は、もう、亡くなったのだけど、私を捨てようとしたんじゃないみたい」


 ジュリアは、精霊が間違えて、ゲチスバーグに赤ん坊を運んだと説明したが、両親は絵空事のように感じる。


「その精霊とやらが、お前をゲチスバーグに捨てたのかい?」


 母親は理解できないと、首を横に振った。


「それより、お前はメイドを首になったと、手紙に書いてあったが……どうやって、暮らしているんだ? お母さんやマリアに布などを買うお金は、どうしたんだ?」


 父親に質問されて、ジュリアは精霊使いの修行をしていると説明する。


「将来、精霊使いになれば、高給が貰えるから、今のところは給金を前借りさせて貰ってるの」


 前借り! 両親は不安そうな顔をする。


「ジュリア! 前借りなんかして、綺麗なドレスを作っているのかい? そんなことをしたら、借金だらけになるよ」


 母親に叱られて、このドレスは伯爵夫人のお古を縫い直して貰ったのだと、言い訳をする。


「へぇ、お古とは思えないねぇ! 伯爵夫人に、親切にして貰ってるんだねぇ、ちゃんとお礼は言ったかい?」


 ジュリアは、ちゃんとお礼は言ったと、話が逸れているのを元に戻す。


「あのう、あと一つ言わなきゃいけないんだけど……私はイオニア王国に、ゲチスバーモンド伯爵というお祖父様がいるみたいなの。まだ、会ったこともないし、孫だと認めて下さるか、わからないんだから、そんなに興奮しないで!」


 自分達が拾った赤ちゃんが、異国の伯爵の孫だったのか! と騒ぐ両親を、どうにか落ちつかせる。


「そんな伯爵の孫が、なんで捨てられたりしたんだ?」


 ジュリアはさっき説明したのにと、溜め息をついて、もう一度最初から話す。


「イオニア王国は内乱状態で、私の両親は王様に逆らって、追手に囲まれたみたい。それで、赤ん坊だった私を、実家のゲチスバーモンドに精霊に運んで貰うつもりだったのに、何故かゲチスバーグに運ばれたのよ。でも、これはサリンジャー師の推測に過ぎないかも……」


 何度、聞いても、両親には精霊とかの話は、理解できなかったが、ジュリアが伯爵のお祖父さんに認めて貰えれば、一生不自由しないのだと安心する。


「お前のことを、孫だと認めてくれると良いな」


 ジュリアは、育ててくれた両親に、心の底から感謝した。


「お祖父様が認めてくれなくても、精霊使いになって食べていくわ!」


 母親は精霊使いとやらになるより、嫁に行った方が良いと呟いた。


「少し見ない間に、ちょっぴし可愛くなったね。これなら、嫁の貰い手もあるかもしれない。わけのわからない精霊使いの修行もいいけど、料理や裁縫も練習しなきゃ、良いお婿さんは見つからないよ」


 ジュリアは、田舎の農家の女将さんである母親の正直な評価に苦笑した。


 


 次の日、ジャスパー兄ちゃんの結婚式は、とどこおりなくおこなわれた。


『花嫁のロザリーと、ジャスパー兄ちゃんの為に、お花を咲かせて!』


 ジュリアは、土の精霊ノームに頼んで、花を満開にして貰った。


 花嫁と花婿の親戚だけの結婚式だったが、お互いに大家族だったので、披露宴は大変だった。


「ほら、ジュリア! 次はこのお皿を出してちょうだい」


 ジュリアは他の姉妹達と、母親の指示に従って、招待客にご馳走を配ったので、お腹もぺこぺこだった。


「さぁ、そろそろ私たちも食べよう!」


 母親は給仕を手伝った女達の為に、大きなミートパイを何処からか出してきて、切り分ける。


「ジュリア、都会で暮らしているから、綺麗になったねぇ」


 嫁に行った姉達に、首都ヘレナはどんな街かと尋ねられたが、ジュリアはミリアム先生と行った公園ぐらいしか知らなかった。


「相変わらず、のんびりしてるねぇ」


 姉達に笑われて、そういえばとジュリアも納得する。


「でも、ルーファス王子様に会ったよ。ベーカーヒル伯爵家のセドリック様は、ご学友だから、屋敷に訪ねて来られるの」


 姉妹達は、ハンサムな王子様の話に夢中だ。披露宴は盛り上がったが、花嫁と花婿は、そろそろ新居で二人っきりになりたい様子だ。


 花嫁がブーケを投げたが、ぼんやりなジュリアがキャッチできるわけもない。男達がひやかす中、ジャスパーはロザリーと小さな小屋へと消えていった。




 ジュリアはマリアと話しながら、披露宴の後片付けをしていた。


「ジャスパー兄ちゃんは、私が働きに出たら、この家に住むのよ」


 新婚の二人は小さな小屋で当分は過ごすが、自分が働きに出たら、両親の家と交代するのだと聞いて、少しショックを受けた。


『もうこの家は、ジャスパー兄ちゃんとロザリーの家になるんだわ……私の帰る家は無くなったのね』


 ジュリアは、ベーカーヒル伯爵の屋敷に帰る道で、子ども時代と決別した。

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